ブルーカーボンとは簡単に学ぶ脱炭素と投資の新常識

ブルーカーボンとは簡単に学ぶ脱炭素と投資の新常識

ブルーカーボンとは簡単に理解する仕組みと金融への影響

海藻を増やすだけで、1tあたり約6万6,700円のクレジットが生まれます。


この記事のポイント3つ
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ブルーカーボンとは?

海藻・海草などの海洋生態系がCO₂を吸収・貯留する仕組み。2009年にUNEPが命名し、陸上の森林より面積あたり吸収速度が5〜10倍高い。

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Jブルークレジット®の経済価値

日本独自のブルーカーボンクレジット制度。2024年度の平均単価は1tあたり約6万6,700円で、一般的なJクレジットの約10倍以上の高単価。

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金融との深いつながり

ESG投資・TNFDの自然資本開示・ブルーボンドなど、ブルーカーボンは金融市場と直結。知っておかないとESG戦略の評価を見誤るリスクがある。


ブルーカーボンとは何か:グリーンカーボンとの違いを簡単に解説

「ブルーカーボン」という言葉を最初に聞くと、多くの人が「海の話なら環境の話でしょ」と思うかもしれません。しかし、その本質は炭素の「貯金場所」の話であり、金融のロジックと驚くほど直結しています。


まず基本から整理しましょう。地球上の植物は光合成によってCO₂を吸収します。このとき、陸上の森林が吸収して蓄積した炭素を「グリーンカーボン」と呼びます。これに対し、海洋の生態系——海藻(ワカメ・コンブなど)、海草(アマモなど)、マングローブ林、干潟——が吸収・貯留した炭素が「ブルーカーボン」です。


グリーンカーボンと大きく違う点が2つあります。第1に、貯留の安定性です。


森林は伐採や山火事が起きるとCO₂がすぐに大気へ戻ってしまいます。一方、海底に堆積した有機物由来の炭素は、酸素が少ない環境で数百年から数千年もの間、安定的に封じ込められます。第2に、吸収スピードです。


産総研(国立研究開発法人産業技術総合研究所)によると、沿岸生態系の面積あたりのCO₂吸収速度は森林の5〜10倍にも達します。面積は小さくても、吸収の「密度」が桁違いに高い——これがブルーカーボンの本質です。


注目すべき数字があります。地球の海洋面積は全体の約70%を占めますが、ブルーカーボン生態系が広がる沿岸域はその中の0.5%以下に過ぎません。それにもかかわらず、海洋全体の海底に貯留される炭素の約80%がここに集中しているのです。


つまり0.5%の面積で80%の炭素を支えているということですね。


この圧倒的な効率性が、国際機関から企業、金融機関までが注目する理由の核心となっています。ブルーカーボンは「海のCO₂吸収の話」ではなく、「限られたリソースで最大効果を上げる炭素戦略」と理解するのが、金融視点での正確な見方です。


なお、「ブルーカーボン」という言葉自体は、2009年に国連環境計画(UNEP)が発表した報告書で初めて命名されました。その後、2020年に菅元首相が「2050年カーボンニュートラル」を宣言したことで、日本国内での注目度が急速に高まりました。


産総研「ブルーカーボンとは?」— 吸収速度・仕組みの科学的解説(公的研究機関による信頼性の高い解説)


ブルーカーボンの仕組みと生態系の種類を簡単に整理する

ブルーカーボンの仕組みは、大きく「吸収」と「長期貯留」の2段階で理解できます。


まず【吸収】のフェーズです。海藻・海草は光合成によって海水中のCO₂を有機物として固定します。この作業は陸上の植物と同じですが、海という環境が吸収後の貯留のあり方を劇的に変えます。続いて【長期貯留】のフェーズです。海草が枯れると、その枯れ葉や茎が海底の泥の中に埋没します。陸上と違って酸素が乏しい嫌気性の海底環境では、微生物による分解が非常に遅く、炭素がそのままの形で長期間閉じ込められます。これが「数百年〜数千年」という長期貯留の理由です。


ブルーカーボン生態系には、現在4つの主要な種類が認められています。


| 生態系の種類 | 特徴 | 日本での分布 |
|---|---|---|
| 🌿 海草(うみくさ)藻場 | 砂や泥に根を張る。代表種はアマモ | 全国の干潟沖 |
| 🟤 海藻(うみも)藻場 | 岩礁に生育。コンブ・ワカメ等 | 全国の岩礁海岸 |
| 🪸 干潟・塩性湿地 | 微細藻類・ヨシ等が貯留担う | 河口域・湾奥部 |
| 🌴 マングローブ林 | 熱帯・亜熱帯の汽水域 | 鹿児島・沖縄 |


この中で特に日本が力を入れているのが、海草・海藻藻場です。日本の海岸線の総延長は世界第6位の約3万5,307kmに達し、複雑な入り組んだ地形も相まって、藻場の育成ポテンシャルは世界トップクラスとされています。


重要な数字があります。日本の藻場の面積と年間CO₂吸収量を推計すると、海草藻場620km²、塩性湿地470km²、マングローブ30km²、海藻藻場1,720km²で、合計の年間CO₂吸収量は132万〜404万tCO₂と推定されています(国際水産海洋研究機関のデータより)。


この量は「十分すぎる」とはまだ言えません。しかし、科学技術の進歩と政策的な後押しにより、今後大幅に拡大できる余地があるという点が投資家視点で重要です。


吸収量の算定には、IPCCのガイドラインに基づく「吸収係数×面積」という計算が使われます。面積の計測には従来ダイバーが潜って調べる方法が主でしたが、最近は空撮ドローンや水中カメラセンサーなどテクノロジーの活用が急速に進んでいます。計測精度の向上が、クレジット発行量の拡大と直結するため、ここにも新しいビジネスチャンスが生まれています。


環境省「ブルーカーボンとは」— 国内政策と生態系の公式解説ページ


Jブルークレジット®とは:ブルーカーボンの経済価値と取引の仕組み

ここからが、金融に関心を持つ方にとって最も重要な部分です。


ブルーカーボンは「環境活動」に留まりません。炭素を吸収した量を「クレジット(排出権)」として数値化し、企業間で売買できる仕組みが生まれています。日本でその中心を担うのが「Jブルークレジット®」です。


Jブルークレジット®は、国土交通省認可の法人「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)」が2020年度にスタートさせた、日本初のブルーカーボン専用クレジット制度です。藻場の造成・保全活動でCO₂を削減した量を第三者が認証し、クレジットとして発行します。


驚くのはその単価です。


JBEの公式プレスリリース(2025年3月)によれば、2024年度の取引平均単価は1tあたり税抜約6万6,700円でした。一般的なJクレジット(再生可能エネルギー系)の相場が数千円〜1万円台であることを考えると、Jブルークレジット®の高単価さは際立っています。


これは単純な価格の高さではありません。その価値の裏付けです。


なぜここまで高いのか、理由は3つあります。第1に、認証に手間とコストがかかること。第2に、「CO₂削減」だけでなく「海洋生態系の保全」「漁業資源の回復」「地域経済への貢献」といった複数の共益(コベネフィット)が一体となっていること。第3に、ESG評価や社会的インパクトを重視する大企業の需要が強いことです。


購入実績を見ると、商船三井・東京海上日動火災保険・東京ガスなど100社以上の大手企業が名を連ねています。


Jブルークレジット®の流れをまとめると以下の通りです。


  1. 漁業組合やNPOが藻場の造成・保全活動を実施する
  2. JBEが活動内容とCO₂吸収量を第三者審査・認証する
  3. 認証されたクレジットを公募形式で企業に販売する
  4. 購入企業はCO₂排出量のオフセットや社内ESGレポートへの反映に活用する
  5. 売上は次の藻場再生活動の資金となり、好循環が生まれる


2020年のスタート時点では認証件数がわずか1件・22tCO₂でしたが、2022年には21件・3,733tCO₂へと急拡大しました。市場としての厚みが増していることが分かります。


クレジット取引は、脱炭素目標の達成が条件です。これが基本です。


JBE(ジャパンブルーエコノミー技術研究組合)公式サイト — Jブルークレジット®の制度・公募状況の最新情報


ブルーカーボンとESG投資・TNFD:金融プロフェッショナルが知るべき視点

ブルーカーボンは今や、ESG投資の文脈で避けて通れないテーマになりつつあります。


特に2023年以降、「TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)」の正式フレームワーク公開を受けて、自然資本への依存・影響の開示が企業に求められるようになりました。海洋生態系はTNFDが定める「自然資本」の中核をなす要素であり、企業はサプライチェーン上での海洋への依存度・影響を定量的に把握・開示することが求められます。


金融機関も動き始めています。国際金融公社(IFC)は2023年5月、「Deep Blue: Opportunities for Blue Carbon Finance in Coastal Ecosystems」と題した報告書を公表しました。この報告書は、ブルーカーボンクレジット市場における金融機関の役割を整理し、①クレジットの先渡し契約の締結、②ブルーボンドの設計・発行支援、③保険会社への自然リスク対応支援などの具体的アクションを提案しています。


意外な数字として、世界のブルーカーボンクレジット市場は、大手バイヤーの多くがプレミアム価格での購入に積極的であることも示されました。


では、金融に携わる人がブルーカーボンをどう「使う」かという視点を整理します。


① 企業分析(ESG評価)への活用


製造業・素材業・食品業など、海洋資源に依存したサプライチェーンを持つ企業の評価において、TNFD対応の進捗度がリスク指標となりつつあります。ブルーカーボンへの取り組みは、そのポジティブな指標のひとつです。


② ブルーボンドへの投資機会


「ブルーボンド」とは海洋の持続可能な利用を目的とした債券で、海藻養殖施設の整備や藻場造成プロジェクトの資金調達に使われます。ESG債市場の一分野として、機関投資家の関心が高まっています。


③ カーボンクレジット市場の動向把握


Jブルークレジット®は現在「ボランタリークレジット」ですが、将来的にコンプライアンス市場(義務的取引)への統合可能性を持ちます。1tあたり6万6,700円という高単価は、今後の市場拡大・価格形成を占う上で見逃せないベンチマークです。


ESGスコアに注目するのが原則です。


みずほFGや三井住友FGなど主要金融機関はすでにTCFD・TNFFの統合開示を行っており、ブルーカーボン関連の取り組みを開示に含め始めています。金融業界のプロが今後ブルーカーボンを「知らない」では済まされない状況になりつつあります。


JBE「ブルーカーボン市場における金融機関の果たす役割」— IFC報告書の日本語要約と金融機関向け具体的アクション


ブルーカーボンの課題と日本が世界をリードする理由

ブルーカーボンには大きな可能性がある一方で、現実的な課題も山積しています。この両面を知ってこそ、正確な投資判断や政策評価が可能になります。


まず最大の課題は「磯焼け」です。


磯焼けとは、海水温の上昇やウニ・アイゴなどの食害生物の増加によって、コンブやワカメなどの海藻が衰退・消失してしまう現象です。環境省の資料(2026年1月更新)によると、日本の藻場面積は過去30年(1990〜2020年)で実に48%も減少しました。1年換算で東京ドーム約1,200個分の海藻場が消えている計算です。


これは深刻な数字ですね。


ブルーカーボン吸収源そのものが急速に縮小しているという現実は、制度設計上の大きなリスクです。クレジット化する前に、吸収源が失われてしまいかねません。


2つ目の課題は計測技術の未成熟さです。藻場の境界は不明確で、特に自然藻場では「どこからどこまでがプロジェクトの成果か」の特定が難しい。現在はドローン空撮や水中センサーで改善が進んでいますが、精度の均一化には時間がかかります。


3つ目が大量養殖技術の不足です。2050年カーボンニュートラルに貢献するには、年間4,000〜5,000万tCO₂レベルの吸収が必要とされています。現在の技術では到底追いつきません。


こうした課題がある中で、なぜ日本がブルーカーボンの国際リーダーになれるのでしょうか。


理由は3点に集約されます。第1に、世界第6位の海岸線の長さ(約3万5,307km)。島国の地形的優位性が吸収ポテンシャルを最大化します。第2に、海藻の養殖・食文化の歴史。ワカメ・コンブ・アオサの養殖技術は世界トップクラスです。第3に、先行する科学的研究成果。日本は2023年に世界で3番目にマングローブのCO₂吸収量をGHGインベントリに計上し、さらに海藻の計上(世界初となる見込み)を目指して現在研究を進めています。


一方、ブルーカーボン市場の規模についても冷静な視点が必要です。市場調査会社の富士経済の予測では、2030年の水産分野カーボンクレジット国内市場はわずか2億円規模とされています。農業分野の90億円超と比べてもまだ極めて小さく、成長余地は大きい半面、現時点ではまだ「黎明期」であることを念頭に置くべきです。


可能性と現実のギャップを知るのが条件です。


日本は今、このギャップを埋める技術開発・制度整備・国際連携の3つを同時に進めています。金融プロフェッショナルとしては、この「黎明期の市場形成プロセス」を注意深く追い続けることが重要です。


環境省「ブルーカーボンの可能性と課題」(PDF)— 藻場減少データ・政策方向性の公式資料(2026年1月更新)