
引き直し計算とは、貸金業者との過去の取引履歴をもとに、利息制限法に基づいた正当な金利で利息を計算し直す方法です。この計算によって、本来支払うべき金額と実際に支払った金額の差額(過払い金)を明確にすることができます。
多くの人が知らないまま高金利での返済を続けていますが、引き直し計算を行うことで、思わぬ過払い金が発見されるケースも少なくありません。特に2010年6月以前に借入をしていた方は、グレーゾーン金利(出資法上限の29.2%)で支払っていた可能性が高く、過払い金が発生している可能性があります。
引き直し計算の核心は、利息制限法に基づく法定金利での再計算にあります。利息制限法では、借入額に応じて以下のように上限金利が定められています。
一方、2010年6月の貸金業法の完全施行前は、出資法の上限金利(29.2%)と利息制限法の上限金利(15%~20%)の間に「グレーゾーン」と呼ばれる領域が存在していました。多くの貸金業者はこのグレーゾーン金利で貸付を行っていたため、法定金利を超えた利息を支払っていた借り手が多数存在します。
最高裁判所は、「利息制限法の制限利率を超過した利息の支払いは、その超過部分が元本に充当される」との判断を示しています。つまり、払いすぎた利息は元本返済に充てられるべきであり、元本完済後も支払った場合はその分を返還請求できるのです。
引き直し計算を行うためには、まず貸金業者との取引履歴を入手する必要があります。取引履歴は以下の方法で取得できます。
「取引履歴を請求すると業者から嫌がらせを受けるのでは?」と心配する方もいますが、最高裁判所の判例により「貸金業者は債務者の取引履歴開示請求に応じる義務があり、拒否すれば損害賠償の対象になる」とされているため、基本的には問題なく開示してもらえます。
なお、専門家(弁護士・司法書士)に依頼する場合は、取引履歴の取得から代行してもらえることが多いです。
引き直し計算の具体的な手順は以下の通りです。
例えば、100万円を年利28%(グレーゾーン金利)で借りた場合と、正当な金利(年18%)で借りた場合を比較してみましょう。
この差額である約8,333円が毎月過払いとなり、長期間の取引では大きな金額になることがあります。
計算を簡略化するために、「名古屋式」と呼ばれるエクセルの計算表を利用する方法もあります。これは名古屋消費者信用問題研究会が提供している計算ツールで、取引データを入力するだけで引き直し計算が可能です。
引き直し計算は自分でも行えますが、以下の理由から専門家への依頼をおすすめします。
専門家に依頼するメリット。
依頼にかかる費用。
特に以下のような複雑なケースでは、専門家の知識が必要です。
専門家への依頼の流れは、①相談(多くの場合無料)→②取引履歴の取得→③引き直し計算→④結果報告→⑤(過払い金がある場合)返還請求手続き、となります。
引き直し計算の結果、過払い金が発見された場合、その返還を請求することができます。しかし、過払い金請求には時効があることを知っておく必要があります。
過払い金請求権の時効は、民法改正により以下のように変更されました。
つまり、過払い金が発生していても、最終取引から長期間経過している場合は請求できない可能性があります。過払い金の可能性を感じたら、早めに専門家に相談することをおすすめします。
過払い金請求の方法には、①任意交渉、②訴訟(裁判)の2つがあります。多くの場合、まず任意交渉を行い、合意に至らない場合に訴訟へと進みます。
任意交渉での和解が成立した場合は2~6ヶ月程度、裁判になった場合は4ヶ月~1年半程度の期間がかかります。
また、過払い金請求をしても「ブラックリスト」に載ることはありません。ただし、過払い金請求をしてもなお借金が残っている場合は、信用情報機関に事故情報として登録される可能性があるので注意が必要です。
引き直し計算と過払い金請求は、借金問題を解決する上で非常に有効な手段です。特に過去にグレーゾーン金利で借入をしていた方は、思わぬ過払い金が発見される可能性があります。自分で計算するか専門家に依頼するかは状況によって異なりますが、複雑なケースでは専門家の力を借りることで、より確実に過払い金を取り戻すことができるでしょう。
引き直し計算は単なる数字の操作ではなく、法律に基づいた権利の行使です。適切な計算と手続きを通じて、本来返還されるべき過払い金を取り戻しましょう。
引き直し計算によって過払い金が多く発生するケースには、いくつかのパターンがあります。実例を通して見ていきましょう。
長期間の高金利取引
最も典型的なのは、グレーゾーン金利時代(2010年6月以前)から長期間にわたって借入と返済を繰り返しているケースです。
例えば、2005年から2015年まで10年間、50万円を限度額として借入と返済を繰り返していたAさんの場合。
このケースでは、毎月の返済額の中で法定金利を超える部分が少しずつ積み重なり、10年間で約50万円もの過払い金が発生しています。
複数社からの借入がある場合
複数の貸金業者から借入をしている場合、それぞれの業者との取引で過払い金が発生している可能性があります。
例えば、3社から各30万円、計90万円を借りていたBさんの場合。
このように、1社あたりの過払い金は少なくても、複数社の合計では相当な金額になることがあります。
リボ払いカードの利用者
クレジットカードのリボルビング払いも、高金利での取引が長期間続くため、過払い金が発生しやすいケースです。
例えば、リボ払いで買い物を続けていたCさんの場合。
リボ払いは便利ですが、長期間にわたって高い金利を支払い続けることになるため、引き直し計算の対象として検討する価値があります。
過払い金が発生しやすいのは、以下のような特徴を持つ取引です。
これらの特徴に当てはまる方は、引き直し計算を行うことで過払い金が発見される可能性が高いと言えるでしょう。
引き直し計算は複雑ですが、その結果として得られる過払い金は決して小さくありません。特に長期間の取引がある場合は、専門家に相談して正確な計算を依頼することをおすすめします。
過払い金請求は、単なるお金の問題ではなく、法律で認められた正当な権利の行使です。適切な手続きを踏んで、本来あなたに返還されるべきお金を取り戻しましょう。