
売買目的有価証券とは、短期的な価格の変動を利用して利益を得ることを目的として保有する有価証券です。FXトレーダーが通貨ペアを短期売買で利益を狙うのと同様の考え方で、株式や債券を取引対象とします。
この有価証券の最大の特徴は、保有期間中であっても時価の変動による投資成果がすでに発生していると考えられることです。そのため、期末時点での時価評価が義務付けられており、評価差額は当期の損益として損益計算書に計上されます。
売買目的有価証券の主な特徴:
会計上と法人税法上では、売買目的有価証券の範囲が異なることがあります。法人税法上の方がより厳格な要件を設けており、帳簿書類への適切な記載が求められます。
売買目的有価証券の時価評価は、事業年度終了時点における時価で評価替えを行います。時価の算定方法は、有価証券の種類に応じて以下のように区分されています。
時価算定の優先順位:
有価証券の区分 | 時価算定方法 |
---|---|
取引所売買有価証券 | 金融商品取引所の最終売買価格 |
店頭売買有価証券 | 認可協会公表の最終売買価格 |
その他価格公表有価証券 | 価格公表者による公表価格 |
上記以外の有価証券 | 類似有価証券の価格等による合理的計算 |
最も一般的なケースは、証券取引所に上場している株式で、事業年度終了日の最終売買価格を時価として採用します。もし事業年度終了日に売買が成立していない場合は、最終気配相場の価格、またはそれも存在しない場合は合理的な方法により計算した金額を使用します。
FX取引に慣れている方であれば、取引所の終値やクローズ価格の概念と似ていると理解できるでしょう。ただし、FXは24時間取引が可能ですが、株式市場は取引時間が限定されているため、明確な終値が存在します。
売買目的有価証券の期末時価評価では、「有価証券評価損益」科目を使用して仕訳を行います。取得価格と時価の差額について、以下のように処理します。
時価が取得価格を上回る場合(評価益):
(借方)売買目的有価証券 ××× / (貸方)有価証券評価益 ×××
時価が取得価格を下回る場合(評価損):
(借方)有価証券評価損 ××× / (貸方)売買目的有価証券 ×××
具体的な計算例を見てみましょう:
【例1】評価益が発生する場合
仕訳。
売買目的有価証券 19,000 / 有価証券評価益 19,000
【例2】評価損が発生する場合
仕訳。
有価証券評価損 6,000 / 売買目的有価証券 6,000
評価損益は損益計算書では営業外収益・営業外費用として表示されます。これは本業以外の金融投資による成果として区分されるためです。
法人税法においては、売買目的有価証券の評価損益について特別な取扱いが定められています。会計上の処理と税務上の処理には重要な違いがあります。
法人税法上の主要ポイント:
✅ 評価損益の損金・益金算入
期末に計上した有価証券評価損益は、法人税法上、評価損なら損金に、評価益なら益金に算入できます。これは他の有価証券とは異なる特別な取扱いです。
✅ 洗替え処理の実施
翌事業年度開始時には、前期末に計上した評価損益を逆仕訳により洗い替えます。これにより、実際の売却時まで評価損益の影響を一時的に調整します。
当期の処理 | 翌期の処理 |
---|---|
評価益の益金算入 | 評価益と同額を損金算入 |
評価損の損金算入 | 評価損と同額を益金算入 |
✅ 適格分割等における特則
適格分割、適格現物出資、適格現物分配により売買目的有価証券を移転する場合は、移転日の前日を事業年度終了日とみなして評価損益を計算します。
注意すべき税務上のポイント:
FX取引における年末の未決済ポジションの評価と似た性質がありますが、株式等の売買目的有価証券の場合は、より厳格な帳簿記載要件があることに注意が必要です。
売買目的有価証券を正しく会計処理するためには、他の保有目的の有価証券との明確な区分が重要です。保有目的により評価方法が大きく異なるためです。
有価証券の保有目的別分類:
保有目的 | 評価方法 | 評価差額の処理 |
---|---|---|
売買目的有価証券 | 時価評価 | 損益計算書に計上 |
満期保有目的債券 | 償却原価法 | 基本的に評価替えなし |
子会社・関連会社株式 | 取得原価 | 評価替えなし |
その他有価証券 | 時価評価 | 純資産の部に計上 |
売買目的有価証券の判定基準:
🔍 保有期間の短期性
一般的には1年以内の短期保有を想定していますが、明確な期間の定めはありません。重要なのは実際の売買行動と保有意図です。
🔍 売買の頻繁性
定期的かつ継続的な売買を行っているかどうかが判断要素となります。FXでデイトレードやスイングトレードを行うような感覚での株式取引が該当します。
🔍 利益獲得の積極性
価格変動による利益獲得を積極的に狙っているかが重要な判断要素です。単に配当収入や長期的な企業成長を期待した投資ではなく、短期的な価格差益を目的とした投資であることが必要です。
実務上の留意点:
この区分は税務調査でも重要なチェックポイントとなるため、客観的な証拠に基づいた判定が求められます。特に、短期売買を目的としていることを証明できる取引記録や稟議書等の保存が重要です。