

表示されているYTMで計算しても、満期時に手元に残る金額は想定より少ないことがあります。
債券投資を始めると、まず「利率(クーポン)」という言葉に目が行きがちです。しかし、実際の投資判断において本当に大切なのはYTM、すなわち最終利回りです。
YTM(Yield to Maturity)は日本語で「最終利回り」または「満期利回り」と呼ばれ、既に発行されている債券を現在の価格で購入し、満期日まで保有し続けた場合に得られる年率換算の収益率を指します。英語の頭文字をとってYTMと略されることが多く、債券市場で最も広く使われる利回り指標です。
表面利率(クーポンレート)との違いを具体的に理解しておくことが重要です。表面利率とは、債券が発行された時点で額面に対して設定される年間利子の割合です。例えば表面利率3%・額面100円の債券なら、毎年3円の利子が受け取れます。しかし、市場ではその債券が常に額面通りの100円で売買されているとは限りません。
既発債券を98円で購入した場合を考えてみましょう。表面利率は3%のままでも、実際には98円を投じて毎年3円の利子を受け取り、最終的には100円で償還されます。つまり2円分の「償還差益」も収益に加わる。これを年数で割り算して一本化したものがYTMです。
計算式(単利ベース)で表すと以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 計算式 | 最終利回り = {表面利率 + (償還価格 − 買付価格) ÷ 残存年数} ÷ 買付価格 × 100 |
| 具体例 | 表面利率3%・残存8年・買付価格98円 → YTM ≒ 3.316% |
| 重要ポイント | 買付価格が100円未満 → YTM > 表面利率 買付価格が100円超 → YTM < 表面利率 |
つまり同じ表面利率3%の債券でも、購入価格次第でYTMは上にも下にも動きます。これが原則です。
なぜYTMが大切なのか、もう一歩踏み込んで考えましょう。もし表面利率だけで判断して100円超の高値で買ってしまうと、毎年利子は受け取れても最後の償還時に元本が目減りして戻ってきます。その損失分を加味すると、実質の利回りは表面利率を下回ってしまう。債券選びでは「クーポンの数字」ではなく、必ずYTMで判断することが大原則です。
参考:PIMCOによる最終利回りの解説(YTMの定義と計算式を詳しく説明)
https://www.pimco.com/jp/ja/resources/education/bond-basic/fixed-income-1/what-is-yield
YTMには「単利ベース」と「複利ベース」の2種類があり、どちらで表示されているかによって数値が変わります。これを混同すると、実際よりも高い利回りと勘違いしてしまうことがあります。
単利ベースのYTMは、日本国内の債券市場で長年慣行として使われてきた計算方式です。先ほどの計算式がそれにあたります。シンプルで計算しやすく、証券会社の店頭やウェブサイトで表示されているYTMも多くが単利ベースです。
一方、複利ベースのYTM(国際的にはこちらが主流)は、将来発生するすべてのクーポンと元本の現在価値の合計が現在の債券価格と一致するような割引率として定義されます。式で表すと次のようになります。
| 種類 | 特徴 | 主な利用場面 |
|---|---|---|
| 単利YTM | 計算が簡便。再投資収益は考慮しない | 日本の証券会社の表示 |
| 複利YTM | クーポンを同じ利回りで再投資することを前提 | 欧米市場・国際比較 |
複利YTMには重要な前提条件が隠れています。それは「受け取ったクーポンをすべて同じYTMで再投資し続けられる」という仮定です。この前提が成立して初めて、表示されているYTMが実際の投資収益率と一致します。つまり複利YTMは理論上の最大値に近い数字でもあります。
実際の運用では、半年や1年ごとに受け取るクーポンをまったく同じ利回りで再投資できることはほぼありません。金利は常に変動しています。再投資レートが下がれば実質的な利回りはYTMより低くなり、逆に上がれば高くなります。これを「再投資リスク」と呼びます。
では単利ベースはリスクがないかというと、そうでもありません。単利は再投資収益を無視しているため、長期債になるほど複利YTMとの差が広がります。10年以上の長期債を比較する場合、単利表示と複利表示のYTMを混在させて比較すると判断を誤ります。これは痛いですね。
このように、YTMが単利か複利かを確認し、比較対象を統一することが正確な債券選びの出発点になります。
参考:SMBC日興証券による最終利回りの解説(単利ベースの計算式と利用方法)
https://www.smbcnikko.co.jp/terms/japan/sa/J0223.html
債券投資で多くの人が引っかかる落とし穴の一つが、「YTMと市場金利の関係」です。金利が上がれば利子収入が増えてうれしい、というイメージを持ちがちですが、保有中の債券については全く逆のことが起きます。
市場金利が上昇すると、新しく発行される債券のクーポンも高くなります。すると既発の低クーポン債は魅力を失い、売りに出されて価格が下落します。結果として、既発債のYTMは上昇します。逆に、市場金利が低下すれば既発債の需要が高まり、価格が上がってYTMは低下します。
「金利↑→債券価格↓→YTM↑」「金利↓→債券価格↑→YTM↓」が基本です。
この関係は数値で体感するとよりわかりやすくなります。例えば、表面利率2%・残存期間10年・額面100円の国債があるとします。市場金利が2%から3%に上昇した場合、この債券のYTMを3%に合わせるためには価格が約91円程度まで下落する必要があります(複利計算)。これは10年という長い期間分の利子の差が一気に価格に反映されるためです。
この「残存期間が長いほど金利変動の影響を大きく受ける」性質は「デュレーション」として定量化されています。修正デュレーション5の債券は、金利が1%上昇すると価格が約5%下落します。東京ドームの大きさに例えるなら、金利が1%動いただけで100万円の投資が95万円になってしまうイメージです。意外ですね。
重要なのは、YTMと残存期間(デュレーション)をセットで確認することです。高いYTMだけを追いかけて長期債を購入した場合、途中で資金が必要になって売却しようとした時に金利が上昇していると、大きなキャピタルロス(値下がり損)を被るリスクがあります。
一方、満期まで絶対に保有し続けるという確信があれば、途中の価格変動は関係ありません。毎年のクーポン収入と最終的な償還差益だけを見るなら、YTMは強力な判断指標になります。保有期間の見通しと金利動向の組み合わせで、どのYTMの債券を選ぶかが変わります。
YTMについての理解を深める中で、多くの投資家が見落としやすい2つの視点があります。「再投資リスク」と「税引き後YTM」です。どちらも知らないまま投資判断を続けると、表示上の利回りよりも実際の手取りが少なくなります。
再投資リスクについては先ほども触れましたが、特に注意が必要なのはクーポンの高い債券です。クーポンが高ければ高いほど、中途で受け取る利子の総額が大きくなり、その再投資収益がYTMに与える影響も大きくなります。例えば表面利率10%の債券であれば、クーポン収入の再投資分がYTM全体の3〜4割を占めることもあります。逆に、クーポンがゼロのゼロクーポン債(割引債)は再投資リスクをほぼゼロにできます。これは使えそうです。
ゼロクーポン債は償還差益だけが収益源なので、YTMが表示されていれば、その数字がほぼ実際の収益率に一致します。ただし、注意点もあります。ゼロクーポン債の償還差益には約20.315%(所得税15.315% + 住民税5%)の税率が適用されます。
税引き後YTMも重要な概念です。日本では債券のクーポン収入・譲渡益・償還差益ともに原則20.315%が課税されます。したがって、表示YTMが3%であっても税引き後の実質YTMは約2.39%(3%×(1−0.20315))となります。
| 表示YTM | 税引き後YTM(概算) | 差額 |
|---|---|---|
| 1.0% | 約0.80% | ▲0.20% |
| 3.0% | 約2.39% | ▲0.61% |
| 5.0% | 約3.98% | ▲1.02% |
YTMが5%の外国債券でも、税引き後は実質約3.98%になってしまいます。さらに外国債券の場合は為替コスト(スプレッド)が上乗せされることも多く、その分も差し引かれます。複数の債券を比較する際は税引き後の数字で横並びにすることが条件です。
特に特定口座を使えば税務処理は証券会社が自動で行ってくれます。確定申告の手間を省きたい場合はこの仕組みを活用するとよいでしょう。
参考:野村証券による債券の利回りと利率の違いの解説(具体的な計算例つき)
https://www.nomura.co.jp/fin-wing/column/bonds-basic2/
YTMを理解したら、次はそれを実際の投資判断にどう活かすかです。ここでは、YTMとデュレーションを組み合わせた実践的な見方を紹介します。これは検索上位の記事ではあまり触れられていない独自視点でもあります。
まず整理しておきましょう。デュレーションとは「債券から受け取る将来のすべてのキャッシュフローを、現在価値で加重平均した年数」です。実務では「修正デュレーション」という形で、「金利が1%変動した際に債券価格が何%変化するか」を直接示す指標として使われます。
YTMとデュレーションの間には重要な関係があります。YTMが高くなるほどデュレーションは短くなります。これは、高いYTMでクーポンを割り引くと遠い将来のキャッシュフローの現在価値が相対的に小さくなるためです。逆に、YTMが低い債券(価格の高い長期国債など)はデュレーションが長く、金利変動に敏感に反応します。
実際の活用法をシミュレーションで確認してみましょう。
ただし、一点だけ覚えておけばOKです。デュレーションによる価格予測は「線形近似」であり、金利が大きく動いた場合ほど実際の価格変動との誤差が大きくなります。これを補うのが「コンベクシティ」という指標ですが、個人投資家レベルではまずYTMとデュレーションの組み合わせを押さえれば十分です。
ラダー型ポートフォリオ(残存期間の異なる債券を段階的に組み合わせる方法)も有効な手法です。例えば残存1年・3年・5年・7年・10年の債券を均等に持てば、毎年一部が償還されるので再投資タイミングが分散でき、再投資リスクとデュレーションリスクの両方を緩和できます。
参考:デュレーションとYTMの関係についての詳しい解説(シグマベイスキャピタル・社内教育資料)
https://www.sigmabase.co.jp/useful/dura/dura05_03.html
参考:デュレーションと債券価格変動の実践的解説(jp-bond.com・中級者向け)
https://www.jp-bond.com/archives/170