

親会社が低税率国にいても、あなたの日本子会社に直接追加課税が来ます。
UTPR(Undertaxed Profits Rule)とは、日本語で「軽課税所得ルール」または「適用税率不足所得」と呼ばれる国際課税ルールのことです。グローバル・ミニマム課税(Pillar 2)を構成する3つのルールのひとつとして、OECDのBEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework)のもとで設計されました。
制度の核心はシンプルです。多国籍企業グループの中に、実効税率が15%を下回る国・地域に拠点を置く会社等が存在するとき、その不足分(トップアップ税額)について、他の国にあるグループ内の子会社等に対して課税するというものです。親会社がどこにいようと「逃げ道を塞ぐ」仕組みが必要でした。これがUTPRです。
少し具体的にイメージしてみましょう。たとえば、あるグループの親会社がケイマン諸島など税率ゼロに近い国に拠点を置いていると仮定します。親会社の所在国がIIRを導入していなければ、その国ではトップアップ課税が行われません。そのままでは「最低15%の税負担」という国際合意が崩れてしまいます。そこで登場するのがUTPRで、日本などUTPR導入国に所在する子会社等に対して、その不足税額を配分して課税します。
「えっ、親会社の問題なのに子会社に課税されるの?」と思う方も多いでしょう。そうです。UTPRはIIRとは逆の発想で設計されています。IIRが「親会社が所在する国」で課税するのに対し、UTPRは「子会社等が所在する国」で課税します。IIRが使えない場面を補完するバックストップ的な役割を担っている制度です。
つまりUTPRということですね。「親会社が軽課税でも、子会社が課税を肩代わりして最低税率を確保する」という発想が根底にあります。
| ルール名 | 課税の対象 | 日本での適用開始 |
|---|---|---|
| IIR(所得合算ルール) | 親会社等の所在国が、子会社の低税率分を課税 | 2024年4月1日以後 |
| UTPR(軽課税所得ルール) | 子会社等の所在国が、親会社の低税率分を課税 | 2026年4月1日以後 |
| QDMTT(国内ミニマム課税) | 自国内の実効税率15%未満を自国で補完課税 | 2026年4月1日以後 |
3つのルールの関係性を整理すると、課税の優先順位はQDMTT → IIR → UTPRの順番です。QDMTTが課税された場合はIIRもUTPRも発動しない設計になっています。この3段構えの構造が、グローバル・ミニマム課税の「抜け穴をなくす」ための仕組みです。
参考:グローバル・ミニマム課税の法制化について(財務省)
財務省|グローバル・ミニマム課税の法制化について|IIR・UTPR・QDMTTの全体像を解説
UTPRによる実際の課税額がどのように決まるのか、その計算過程を見ていきましょう。ここが理解できると、自社への影響をより正確に把握できます。
まず、IIRの計算過程でグループ全体の「グループ国際最低課税額」(グループ全体でみた15%に対する不足税額の総額)が算出されます。このうち各国のIIRによって課税された金額等を差し引いた「残り」が、UTPR課税の対象となる金額です。これを「グループ国際最低課税残余額」と呼びます。残余という言葉がポイントです。
次に、その残余額を各UTPR導入国に配分します。配分の鍵となる指標が2つあります。
- 従業員等の数:その国に所在するグループ内の構成会社等が抱える従業員数の割合
- 有形資産の簿価:その国に所在するグループ内の構成会社等が持つ有形資産の帳簿価額の割合
つまり、従業員が多く・有形資産が多い国ほど、多くのUTPR税額が配分されます。これは「実体ある事業活動の場で課税する」という考え方に基づいています。
日本では、この国内グループ国際最低課税残余額を、さらに個々の法人の従業員数や有形資産の額に応じて各社に配分します。実体のある拠点に比例して課税が来る仕組みです。
🔢 計算の流れをまとめると。
実務上の税率は、課税標準となる残余額に対して「90.7%」が適用されます(法人税率23.2%が課税標準の90.7%相当に対応する形の計算方式)。
IIRが先に課税を行い、UTPRはその「残り」だけに課税するというルールになっています。このためIIRが十分に機能しているケースでは、UTPRの税額がゼロになることもあります。ゼロになるなら問題ないんでしょう? と思いたいところですが、親会社がIIR非導入国にいる場合や、IIRの適格性が認定されていない国の場合には、UTPRがフル稼働することになります。
参考:UTPRの詳細な計算方法と税額の算出根拠(EY税務アラート)
EY Japan|令和7年度税制改正施行・UTPRの計算方法と適用要件の詳細解説
UTPRは一律に課税されるわけではありません。知っておくと得するいくつかの重要な「逃げ道」が制度上存在します。ここを知らないままでは不要な税負担を抱えるリスクがあります。
① 国際的な事業活動の初期段階における5年間の適用免除
多国籍企業グループがグローバル展開の「初期段階」にある場合、最大5年間UTPRの適用が免除されます。条件が2つあります。
- 構成会社等の所在地国の数が6カ国以下であること
- 特定所在地国以外の国等に所在する構成会社等の有形資産の簿価と、その国等での従業員等の費用合計が5,000万ユーロ以下であること
たとえば、日本の親会社が海外子会社を2〜3カ国に展開し始めたばかりというケースでは、この要件を満たす可能性があります。5年間という猶予は大きいですね。
② 移行期間CbCRセーフハーバー
2026年12月31日以前に開始する対象会計年度(2028年6月30日以前に終了するもの)については、次の3つの要件のいずれかを満たすと、UTPR税額がゼロとみなされます。
- デミニマス要件:国別報告書(CbCR)上の収入が1,000万ユーロ未満、かつ税引前利益が100万ユーロ未満
- 簡素な実効税率要件:CbCRを用いた簡易計算の実効税率が、基準値(2025年は15%、2026年は16%、2027年は17%)以上
- 通常利益要件:CbCRの税引前利益が実質ベースの所得除外額以下
これが条件です。特に「簡素な実効税率要件」は多くの企業が活用を検討できる基準で、財務諸表で確認できる数値から簡易計算できる点が実務上のメリットです。
③ QDMTTによる自動免除
上述のように、グループ内の会社等の所在地国がQDMTTを導入していれば、その国のUTPR税額はゼロとみなされます。日本自身も2026年4月1日からQDMTTを導入するため、日本に所在する構成会社等についてはQDMTTが優先適用され、IIRやUTPRが重ねて課税されることはありません。これなら違反になりません。
実務対応として、まずは自社グループの国別報告書の数値をもとに簡易実効税率を計算し、どのセーフハーバー要件に該当するかをチェックすることが最初の一歩です。国際税務に強い税理士法人や専門コンサルタントに確認を依頼することで、不要な税負担リスクを回避できます。
では、UTPRは実際に日本のどんな企業に影響するのでしょうか? 対象は「年間総収入金額が7.5億ユーロ(約1,208億円)以上の多国籍企業グループ」に限定されます。これは日本の大手上場企業や日本に拠点を持つ外資系大企業が中心です。つまりほとんどの中小企業には直接的な影響はありません。
ただし、以下のどちらかに当てはまる企業は特に注意が必要です。
- 外資系企業の日本子会社:親会社がIIR非導入国やIIR適格性が認定されていない国に所在する場合、日本子会社にUTPR課税が来る可能性があります。例えば、親会社が低税率国(実効税率10%)にある場合、15%との差額5%相当の税額が、グループ内の日本子会社等に従業員数・有形資産の比率で配分されます。
- 海外展開する日本の大手企業:海外子会社が低税率国に複数存在し、IIRで課税されなかった残余分がある場合、日本子会社等に配分される可能性があります。
厳しいところですね。従来の常識では「親会社の問題は親会社の国で解決する」というイメージがありました。しかしUTPRは、子会社が存在する日本の税務当局が直接課税権を行使する制度です。この視点の転換が、実務担当者にとって最も大きな認識の変化といえます。
また、UTPRへの対応では事務負担も無視できません。日本経済新聞の調査報道でも「税よりも重い事務コスト」として取り上げられたように、グループ全体の国別実効税率の把握、各構成会社等の従業員数・有形資産の集計、セーフハーバー要件の検証など、膨大な情報収集と計算作業が伴います。
対応として有効なのは、グローバルな税務コンプライアンス管理ツール(EY、PwC、デロイトなどが提供するタックス・テクノロジー)を導入し、グループ横断でのデータ集約体制を整えることです。早期に情報インフラを整えておくことが、税務リスクの軽減と事務コストの削減につながります。
2026年1月、国際課税の世界に大きな変化が起きました。OECDと147カ国・地域が合意し、米国企業をグローバル最低法人税率の適用除外とする特例が設けられたのです。
背景にあるのはトランプ政権の強硬な姿勢です。トランプ大統領は就任初日(2025年1月20日)に「グローバル税協定は拘束力を持たない」とする覚書を発出し、米企業が海外政府から追加課税を受ける仕組みに強く反発しました。米連邦議会の共和党も同様の立場を取り、国際交渉の場で米国企業の例外扱いを強く求めました。
その結果、2026年1月5日にOECDが発表した合意内容には、「米国に本社を置く企業は、米国によるグローバル最低税のみの対象とし、第2の柱(UTPRを含む)は適用外とする」旨の規定が盛り込まれました。米国財務長官ベッセント氏は「歴史的な勝利」と声明を出しています。
これはどういうことでしょうか? 簡単に言えば、「米国親会社が低税率だったとしても、他国(日本を含む)はUTPRで米国グループの不足税額を取れなくなった」ということです。日本のUTPRによる課税はアメリカ子会社の負担にはなりませんが、逆に言えば米国親会社が低税率でも日本子会社へのUTPRは発動しにくくなります。
一方、日本はどう動いたのでしょう。日本のUTPRは2026年4月1日以後適用開始ですが、この米国例外合意の影響を受けた形での運用調整が今後も続くと見られます。令和8年度(2026年度)以降の税制改正でも、OECDから発出されるガイダンスの内容を踏まえた見直しが継続的に行われる予定です。
国際課税ルールは生き物です。OECDが随時ガイダンスを更新し、各国の国内法も連動して改正されていきます。グローバル展開をする企業の税務担当者にとって、最新の国際課税動向のキャッチアップが重要な日常業務になっています。
今後の情報収集には、財務省・国税庁・OECDの公式サイトをこまめに確認することが最も確実な方法です。
参考:OECDの合意内容と米国例外の背景(日本経済新聞)
参考:国税庁によるグローバル・ミニマム課税の総合案内
国税庁|グローバル・ミニマム課税関係(申告手続・各種情報・Q&A)