GRIスタンダードとは何か・構造・投資家への影響を解説

GRIスタンダードとは何か・構造・投資家への影響を解説

GRIスタンダードとは・構造・投資家への影響

任意の基準だと思って無視すると、機関投資家のネガティブスクリーニングで投資対象から外される損失が出ます。


この記事のポイント
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GRIスタンダードの基本

1997年設立の国際NGO「GRI」が策定したサステナビリティ開示の世界標準フレームワーク。ESG情報を経済・環境・社会の3軸で体系的に開示するための基準です。

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3層構造で理解する

ユニバーサル基準(GRI 1〜3)・トピック基準(200〜400番台)・セクター基準の3層構造。企業規模や業種を問わず、必要な項目を選択して適用できるモジュール設計です。

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投資家と金融市場への影響

TOPIX100企業の約8割がGRIを参照。2027年3月期から時価総額3兆円以上の企業にSSBJ(日本版サステナビリティ開示基準)が義務化され、GRIとの連携が必須になります。


GRIスタンダードとは何か・設立背景と目的

GRI(Global Reporting Initiative)は1997年に米国ボストンで設立された国際的な非営利団体です。前身はNPOのCERESとTelus Instituteであり、設立には国連環境計画(UNEP)も深く関与しています。当初の目的は、企業が環境に関する責任ある行動原則を遵守していることを証明するための説明責任のしくみを構築することでした。その後、活動範囲は社会・経済・ガバナンスへと拡大し、現在はアムステルダムに本部を置き、世界7か国に拠点を持つ組織へと成長しています。


GRIスタンダードとは、企業や組織が経済・環境・社会に与えるインパクトを透明性をもって開示するための国際的なフレームワークです。2016年にそれまでの「GRIガイドライン」に代わって公表され、2021年10月には共通スタンダードの改訂版が公表されています。世界中の企業・政府・NGOが利用しており、現在のサステナビリティ報告における「事実上のグローバル標準」として広く認識されています。


重要な点は、GRIスタンダードが「投資家向け」だけを想定した基準ではないという点です。投資家・消費者・従業員・地域社会など、すべてのステークホルダーを対象とした「マルチステークホルダー向けの包括的な開示基準」として設計されています。これは「投資家向けの財務的影響」に特化したISSB(国際サステナビリティ基準審議会)の基準とは根本的に性格が異なります。


GRIが特に重視するのが「ダブル・マテリアリティ」という概念です。これは「企業が社会・環境に与える影響(インパクトマテリアリティ)」と「社会・環境の変化が企業の財務に与える影響(財務マテリアリティ)」の両方を重要視するという考え方です。どちらか一方だけを見るのではなく、双方向の影響を開示する姿勢が求められます。これが原則です。


































基準名 策定主体 主な対象 重要性の視点
GRIスタンダード GRI(独立NGO) 全ステークホルダー ダブル・マテリアリティ
ISSB(IFRS S1/S2) IFRS財団 投資家 シングル・マテリアリティ
ESRS(EU) EU(EFRAG) EU域内大企業 ダブル・マテリアリティ
TCFD(ISSBに統合済) FSB(現ISSB) 投資家・金融市場 財務的重要性(気候特化)


参考:GRIスタンダードと他の開示基準の位置づけを詳細に解説しています。


JPX(日本取引所グループ):ESG情報開示枠組みの紹介 – GRIスタンダード


GRIスタンダードの構造・3層モデルを理解する

GRIスタンダードは3つの層で構成されており、それぞれの役割を理解することが実務対応の出発点になります。構造はシンプルです。


まず第1層が「ユニバーサル基準(GRI 1〜3)」です。これはすべての報告組織に適用される共通の基盤です。GRI 1は「基礎」としてスタンダード全体の使い方を定め、GRI 2は「一般開示事項」として組織のプロフィール・ガバナンス・戦略などの背景情報を規定しています。GRI 3は「マテリアルな項目」として、組織が経済・環境・社会に与えるインパクトの中で最も重要な項目(マテリアルトピック)を特定し、そのマネジメント手法を開示するための指針を提供しています。2023年1月以降に開示する場合は、この改訂版ユニバーサル基準への対応が必須です。


第2層が「トピック基準(200〜400番台)」です。企業が自社にとってマテリアルと判断した項目について、個別テーマごとに開示内容を定めた基準群です。経済分野は200番台(経済パフォーマンス、腐敗防止など)、環境分野は300番台(エネルギー、水、生物多様性、廃棄物など)、社会分野は400番台(雇用、労働安全衛生、多様性、人権アセスメントなど)で構成されています。これは義務一括ではなく、マテリアリティ評価を通じて自社に関連するものを選択する仕組みです。


第3層が「セクター基準(GRI 11〜)」です。各産業の特性に合わせた開示を可能にする業種別の基準で、2021年以降から順次公表されています。2024年時点では石油・ガス(GRI 11)、石炭(GRI 12)、農業・養殖業・漁業(GRI 13)が発行済みです。さらに、金融セクター向けとして銀行業・保険業・資本市場向けのセクター基準草案が2024年に公開され、金融機関固有の開示要件(投融資先へのファイナンスド・エミッション、人権デュー・ディリジェンスなど)が整備されつつあります。金融に関わる方には特に注目の動きです。


このモジュール形式を採用しているため、中小企業から大企業まで、また業種を問わず幅広い組織が自社の状況に応じて柔軟に適用できます。これは使えそうです。GRIスタンダードは定期的に更新される設計になっており、最新のサステナビリティ課題や規制要件に対応し続けることも特徴のひとつです。


参考:GRIスタンダードの基礎から最新動向まで詳しく解説された記事です。


Zeroboard:国際的なサステナビリティ開示基準 – GRIスタンダードの基礎と最新動向


GRIスタンダードの報告原則・マテリアリティ評価のプロセス

GRIスタンダードの根幹をなすのが「マテリアリティ評価」です。これは、組織が経済・環境・人権を含む人々に与える「最も著しいインパクト」を特定し、優先順位づけをするプロセスのことです。報告書に何を書くかを決めるための最初の重要なステップといえます。


マテリアリティ評価のプロセスは大きく5段階で進みます。最初に「課題の特定」として、業界動向・規制要件・ステークホルダーの関心などを幅広く調査し、潜在的に重要な課題のロングリストを作成します。次に「優先順位付け」として、組織への影響度とステークホルダーへの重要度の両軸で評価します。続いて「マテリアリティ・マトリックスの作成」によって結果を視覚化し、最も重要な課題を絞り込みます。その後「経営陣や委員会による検証と承認」を経て、最後に「開示と定期的な見直し」を行います。


PwCあらた有限責任監査法人の調査によれば、TOPIX100構成銘柄のうち91%の企業がマテリアリティを特定していますが、開示内容とマテリアリティとの整合を図っている企業は35%にとどまっています。特定はしているが、実際の報告書の中身にきちんと反映できている企業は少数派ということです。厳しいところですね。


また同調査では、TOPIX100企業の約8割がなんらかの形でGRIスタンダードを参照して報告書を作成していることも明らかになっています。KPMG調査では2020年時点で日経225企業の73%がGRIスタンダードを利用しているという結果も出ており、日本大企業の間での普及率は非常に高い水準です。


GRIスタンダードへの「準拠」と「参照」は異なる概念です。「準拠」とはGRI 1が定める9つの要求事項すべてを満たした状態を指し、「参照」は特定の開示事項のみをGRIに従って報告する形式を指します。2021年の改訂により、開示する事項の数は企業が自ら判断できるようになり、他のフレームワークの開示要求に柔軟に対応できる設計に変わっています。つまり、硬直した一律規格ではないということです。


GRIスタンダードとSSBJ・ISSBの関係(2025〜2027年の最新動向)

2025年3月、日本のサステナビリティ開示を大きく変える転換点が訪れました。SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が日本初のサステナビリティ開示基準(SSBJ基準)を公表したのです。この動向は金融に関心を持つ方なら必ず押さえておくべきです。


SSBJ基準はISSB(国際サステナビリティ基準審議会)のIFRS S1・S2をベースに日本の法制度に合わせてローカライズされた基準で、中心となるのは「財務マテリアリティ」の開示です。つまり、企業価値評価に影響を与えるリスクと機会の情報を投資家に伝えることを目的としています。適用時期は時価総額ごとに以下のように段階的に義務化される予定です。



  • 🗓️ 2027年3月期:時価総額3兆円以上のプライム上場企業

  • 🗓️ 2028年3月期:時価総額1兆円以上3兆円未満

  • 🗓️ 2029年3月期:時価総額5,000億円以上1兆円未満

  • 🗓️ 時期未定:時価総額5,000億円未満


重要なのは、SSBJ基準の義務化はプライム上場企業だけの問題ではないという点です。SSBJ気候基準では温室効果ガスのスコープ3(バリューチェーン全体の間接排出量)の開示も求められます。これは大企業の取引先・仕入先(中小企業を含む)にも排出量情報の提供が求められることを意味します。日本商工会議所の2025年調査では、すでに21.3%の中小企業が取引先から脱炭素対応の要請を受けていることが明らかになっています。


GRIスタンダードとSSBJ基準は「代替関係」ではなく「役割分担」の関係にあります。SSBJが投資家向けの財務マテリアリティ開示に特化しているのに対し、GRIはステークホルダー全体への社会・環境インパクト説明に強みを持っています。ESRSの開発においてもGRIが技術支援を行い整合性が確保されており、GRIスタンダードは他のグローバル開示フレームワークの「土台」として機能する設計になっています。両方を組み合わせて活用することが、今後の企業開示の実務的な標準アプローチとなっています。


参考:SSBJ基準の義務化スケジュールと企業への影響をわかりやすく解説しています。


サステナビリティNavi:SSBJ基準はいつから義務化?「日本初」サステナビリティ開示基準を解説


投資家がGRIスタンダードをESG評価に使う理由・見落としがちな実務ポイント

金融に興味を持つ方にとって、GRIスタンダードは「企業側が作る報告書の話」に見えるかもしれません。しかし実際には、機関投資家がESG評価を行う際の重要なインプット情報源として機能しており、投資判断に直接影響します。これが原則です。


GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は2015年にPRI(責任投資原則)に署名して以来、ESG投資額を急拡大させてきました。2025年3月時点でPRIには世界5,261の機関投資家が署名しており、10年前と比較して署名者は3倍以上に増加しています。これら機関投資家の多くはESG評価機関(MSCI、FTSE Russell、CDPなど)のスコアを参照して投資判断を行いますが、こうした評価機関の採点項目の多くがGRIスタンダードに基づく開示データに依拠しています。GRIへの準拠・参照が不十分な企業は、ESGスコアが低くなりやすく、ESGインデックスへの採用から外されるリスクがあります。


ESG投資の手法の中でも「ネガティブ・スクリーニング」に注意が必要です。これは、ESG要件を満たさない企業を投資ポートフォリオから除外する手法で、大規模機関投資家が広く採用しています。GRI準拠の開示が行われていなかったり、情報の透明性が低かったりすると、評価機関のスコアが下がり、結果として投資対象から外される可能性があります。PwCの調査でも「マテリアリティを特定しているが開示との整合が取れていない企業が65%存在する」ことが示されており、形式的な参照だけでは不十分な時代になっています。


一方で、GRIスタンダードに準拠した質の高い開示には明確なメリットもあります。CDP(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)やDJSI(ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ指数)などの国際評価との整合性が高まり、ESGインデックス採用可能性が上がります。また、国内外の投資家からの信頼を得やすくなるため、資金調達コストの低減にもつながり得ます。


投資家目線で見落とされがちな点として、「第三者保証(サードパーティアシュアランス)」の有無があります。PwCの調査では、KPIに対する第三者保証をすべて受けている企業は2.5%にとどまっており、社会データの保証受審率は特に低い水準にあります。SSBJ基準の義務化に伴い、非財務情報の保証を求める流れが強まっていくため、第三者保証の有無はESGスコアの重要な評価項目のひとつとして今後ますます注目されます。GRIの開示内容と保証の整備状況を確認することが、企業調査・投資判断のひとつの視点として有効です。


参考:GRIスタンダードの移行期実務と投資家視点での活用方法を詳しく解説しています。


SusLab:SSBJへの移行 ~これまでのGRIスタンダードの有効な活用方法とは


GRIスタンダードの2025年最新改訂・気候変動・DEI・金融セクター対応

GRIスタンダードは静的な基準ではなく、サステナビリティ課題の進化に合わせて継続的に改訂されています。2025年時点での主な動向として3つの領域を押さえておくことが重要です。


ひとつ目は気候変動・エネルギー関連基準の改訂です。GRIは「GRI 102 気候変動 2025」および「GRI 103 エネルギー 2025」の新基準の策定を進めており、GHGプロトコルに準拠したスコープ1〜3排出量の算定、科学的根拠に基づく移行計画の開示などを求める内容となっています。2025年7月に公開草案が公開され、パブリックコメントを経て最終化プロセスが進んでいます。これらの基準はESRSやIFRS・SSBJ基準との併用にも対応した設計となっており、複数フレームワークを統合活用したい企業に重要な基準です。


ふたつ目がDEI(多様性・公平性・包摂性)対応の強化です。2025年5月にGRIは「非差別スタンダード」と「多様性とインクルージョンスタンダード」の草案を公開し、従来のGRI 405(多様性と機会均等)を刷新する動きが進んでいます。女性管理職比率・男女間賃金格差・差別防止措置など、実務レベルでの具体的な指標開示が求められる内容になっています。日本企業が特に対応を迫られる領域といえます。


みっつ目が金融セクター専用基準の整備です。金融セクターは投融資活動を通じて経済・環境・社会に広範な影響を与えることから、GRIは2024年に銀行業・保険業・資本市場向けのセクター基準草案を相次いで公開しています。特に「ファイナンスド・エミッション(投融資先の排出量)」や「責任投資への取り組み」「人権デュー・ディリジェンス」など、金融機関固有の開示要件が整備されている点は、金融に関心がある方が特に注目すべき動きです。銀行・保険・証券の各セクターが自社の開示をどのような枠組みで行うかを理解することは、ESG評価視点でのセクター分析にも役立ちます。


2023年10月には、GRIスタンダード200番台(経済)の改訂作業も進んでいることが明らかになっており、GDP成長率・収益性・主利益などの従来指標が不十分とみなされるようになってきているという認識のもと、新しい開示指標の検討が始まっています。経済パフォーマンスの開示枠組みが変わる可能性があり、今後の注目点のひとつです。


参考:GRIの日本語版スタンダード一覧・最新情報を確認できる公式ページです。


GRI公式サイト:日本語版 GRIスタンダード