
投資者保護基金は、証券会社の破綻等により顧客の預り資産の返還が困難になった場合に、お客様一人当たり1,000万円を限度として補償を行う制度です。
この制度は1998年12月に証券取引法の改正により設立され、現在では金融商品取引法に基づいて運営されています。第一種金融商品取引業を行う証券会社は、投資者保護基金への加入が法的に義務づけられており、現在日本では「日本投資者保護基金」が運営しています。
投資者保護基金による補償は、すべての投資商品が対象となるわけではありません。補償対象は「一般顧客」に限定され、適格機関投資家や国、地方公共団体などは除外されています。
補償対象となる取引・資産
補償対象外となるもの
なお、補償支払い額は補償対象債権の額から、担保権の目的として提供しているものや、破綻証券会社に対する投資者の債務を控除した金額となります。
投資者保護基金の補償が発動される前提として、「分別管理制度」が重要な役割を果たしています。証券会社は法的に、顧客から預かった資産(有価証券や金銭)と自社の資産を分別して管理することが義務づけられています。
分別管理の具体的内容
通常の場合、この分別管理により証券会社が破綻しても顧客の資産は全額返還されます。しかし、何らかの理由(横領、不正流用、管理不備等)により分別管理が適切に行われておらず、資産の全額返還が困難な場合にのみ、投資者保護基金による補償が実行されます。
この二重の保護体制により、投資家の資産保護が図られているのが現在の制度の特徴です。
現在の1,000万円という補償限度額は、預金保険制度との整合性を図って設定されました。1998年の制度創設時から、政令により「預金保険と同様、1顧客あたり1,000万円」と定められています。
制度設立の背景
投資者保護基金の前身である「寄託証券補償基金」では、1証券会社あたり20億円という限度額設定でした。しかし、1997年の三洋証券破綻をはじめとする証券会社の経営破綻が相次ぎ、従来の制度では対応が困難となったことから、より強固な保護制度として投資者保護基金が設立されました。
特例措置の歴史
制度発足当初の2001年3月までは、補償上限額を適用しない特例措置が設けられていました。この期間中は金融機関に加えて日本銀行からの資金借入れが可能で、政府による債務保証も行われていました。
現在の基金規模は発足時の300億円から段階的に拡充され、500億円程度まで増額されています。
実際に証券会社が破綻した場合の補償手続きは、以下のような流れで進行します。
補償実行の手順
実際の補償事例
2012年には丸大証券の顧客に対して投資者保護基金による補償が実行されました。この事例では、信託金残額返還と補償金支払いにより、全顧客の預り資産の返還が実現されています。
補償金支払いのタイミング
補償金の支払いは、通常、証券会社の破綻が確定してから数ヶ月から1年程度の期間を要します。これは、資産状況の詳細調査や補償対象額の算定に時間を要するためです。
また、補償を受けた投資者から、投資者保護基金が補償対象となった債権を取得する代位制度も整備されており、基金の財務健全性維持にも配慮されています。
日本の投資者保護基金制度は、米国のSIPC(証券投資者保護公社)制度を参考に設計されています。
各国の補償限度額比較
米国では1970年から運営されており、顧客一人当たり50万ドルという日本より高額な補償限度額が設定されています。また、財務基盤についても、SEC(証券取引委員会)を通じて財務省から10億ドルまでの融資が可能な仕組みが整備されています。
制度改善の方向性
近年の金融情勢の変化を受け、以下のような制度改善が検討されています。
特に、投資商品の多様化や取引額の増大に伴い、現在の1,000万円という補償限度額が投資家保護の観点から十分かどうかについて、継続的な検討が必要とされています。