
2008年のリーマンショック時に、店頭デリバティブ市場の透明性欠如が市場関係者の懸念を深刻化させたことへの反省を踏まえ、G20サミット(2009年)において「店頭デリバティブ契約は取引情報蓄積機関に報告されるべき」と合意されました。この国際的な合意により、各国で取引情報報告制度を導入することとなりました。
日本においても2010年に金融商品取引法を改正し、2012年11月より取引情報報告制度を開始しています。当局が取引状況を十分に把握することを目的として、この制度が導入されました。
取引情報蓄積機関(Trade Repository:TR)は、店頭デリバティブ取引の透明性を高め、市場及び監督当局によるデリバティブ市場の監視を可能にする重要な役割を担っています。
金融商品取引法第156条の63及び金融商品取引法第156条の64では、金融商品取引清算機関等及び金融商品取引業者等に対して、取引情報の保存・報告を行うことを義務付けています。
「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令」(店頭デリバ府令)第6条では、金融商品取引業者等のうち、取引情報作成対象業者が行う店頭デリバティブ取引が、取引情報の保存・報告制度の対象となることが規定されています。
取引情報作成対象業者は、第一種金融商品取引業を行う金融商品取引業者又は登録金融機関である以下の機関を指します:
取引情報の保存・報告制度の対象となるのは、取引情報作成対象業者が行う差金決済店頭デリバティブ取引です。具体的には以下のアセットクラスが対象となります:
対象となるアセットクラス
ただし、約定日から受渡日までの期間が2営業日以内のものは除外されます。また、オプション(権利行使期間が2営業日以内のものを除く)やスワップ取引なども対象に含まれます。
日本銀行との店頭デリバティブ取引情報の共有も行われており、金融システム全体の監視体制が構築されています。
取引情報の報告により、監督当局は店頭デリバティブ市場の全体像を把握し、システミックリスクの監視を効果的に行うことが可能となっています。
一定の条件を満たす取引情報作成対象業者については、報告義務の一部免除制度が設けられています。前年度(前年の4月からその年の3月まで)の各月末の店頭デリバティブ取引の平均残高が3,000億円未満である取引情報作成対象業者が、金融庁長官及び取引情報蓄積機関に対して当該者であることを報告した場合には、一部の取引について取引情報の保存・報告義務が免除されます。
免除対象となるアセットクラス
この免除制度により、相対的に取引規模の小さい金融機関の事務負担軽減が図られています。ただし、クレジットや株式については平均残高に関わらず報告が必要です。
免除の申請は年次で行う必要があり、該当年の7月1日から翌年の6月末日までの間に発生した対象取引について適用されます。
この制度により、金融機関の規模に応じた適切な報告義務の配分が実現されており、市場全体の効率性向上に寄与しています。
2024年4月から取引情報蓄積機関経由での報告(報告の一本化)及び報告事項の拡充が開始される予定となっています。これにより、従来の金融庁への直接報告は廃止され、DTCCデータ・レポジトリー・ジャパン株式会社(DDRJ)が運営するTR経由での報告に統一されます。
報告先一本化のメリット
現在は取引情報蓄積機関等を用いる方法(間接報告)と、直接金融庁に報告する方法(直接報告)の選択制となっていますが、情報通信技術の進展により、より信頼性の高い形での収集・保存が可能となったことを受け、報告先の一本化が決定されました。
この制度変更により、報告データの品質向上と監督当局による市場監視の高度化が期待されています。また、国際的な制度調和の観点からも、各国のTRシステムとの連携強化が進められる見込みです。
金融機関にとっては、新しい報告システムへの対応が必要となりますが、長期的には報告業務の標準化と効率化によるメリットが見込まれています。