
特別支給の老齢厚生年金を64歳から受給できるのは、昭和34年4月2日から昭和36年4月1日までに生まれた男性に限定されています。この世代は、年金制度改正の影響で報酬比例部分の支給開始年齢が段階的に引き上げられた最終世代にあたります。
女性の場合、第1号厚生年金被保険者(一般企業の従業員)については、男性よりも5年遅れで制度が適用されるため、64歳から受給できるのは昭和39年4月2日から昭和41年4月1日までに生まれた女性となります。ただし、第2号から第4号厚生年金被保険者(公務員や私学教職員など)の女性は、男性と同じ生年月日基準が適用されます。
受給要件として、以下の条件をすべて満たす必要があります。
特に注意すべき点は、昭和36年4月2日以降に生まれた方は特別支給の老齢厚生年金自体が支給されないということです。この世代は完全に65歳からの年金受給となり、経過措置の対象外となります。
64歳から受給できる特別支給の老齢厚生年金は、報酬比例部分のみの支給となります。定額部分については65歳からの老齢基礎年金開始まで支給されません。これは、この世代の定額部分支給開始年齢がすでに65歳まで引き上げられているためです。
報酬比例部分の計算方法は、厚生年金加入期間中の平均標準報酬月額と加入期間を基に算出されます。具体的な計算式は以下の通りです。
平成15年3月以前の期間
平成15年4月以後の期間
支給額は個人の加入履歴により大きく異なりますが、一般的なサラリーマンの場合、月額10万円から20万円程度の範囲となることが多いとされています。ただし、これはあくまで目安であり、実際の支給額は年金機構から送付される年金額通知書で確認する必要があります。
また、配偶者がいる場合でも、64歳の時点では配偶者加給年金は支給されません。配偶者加給年金は65歳からの老齢厚生年金に付加されるものであり、特別支給の老齢厚生年金には加算されないためです。
特別支給の老齢厚生年金の受給手続きは、64歳の誕生日の3か月前に日本年金機構から「年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)」が自動的に送付されることから始まります。この年金請求書は、受給権が発生する前に事前準備として送られる重要な書類です。
手続きの流れは以下の通りです。
📋 手続きのステップ
年金請求書の記入で特に注意すべき点は、共済組合等の加入期間の記載漏れです。公務員期間や私学教職員期間がある場合、それぞれの共済組合に確認して正確な期間を記載する必要があります。記載漏れがあると年金額に影響するため、慎重な確認が必要です。
提出時期については、64歳の誕生日前日以降であればいつでも可能ですが、遅れると受給開始も遅れるため、速やかな手続きが推奨されます。年金事務所での相談予約も可能で、複雑なケースでは事前相談を活用することで手続きがスムーズに進みます。
44年特例(長期加入者の特例)は、厚生年金に44年以上加入した方が退職した場合に適用される特別な制度です。通常64歳から報酬比例部分のみを受給する世代でも、この特例により定額部分も同時に受給できるようになります。
44年特例の適用条件は以下の3つです。
この特例の最大のポイントは、被保険者でなくなることが必須条件であることです。つまり、44年以上加入していても、まだ働いて厚生年金に加入し続けている間は特例の対象となりません。完全に退職して被保険者資格を喪失した時点から適用されます。
44年特例による定額部分の加算額は、令和5年度で年額約78万円となっており、月額にすると約6万5千円の上乗せとなります。これは家計にとって大きな支援となるため、対象者には非常に有益な制度です。
ただし、44年特例の利用には慎重な判断が必要です。退職により厚生年金保険料の支払いが停止される一方で、在職中であれば昇給による将来の年金額増加の可能性もあります。また、65歳以降の在職老齢年金制度との兼ね合いも考慮する必要があります。
特別支給の老齢厚生年金を64歳から受給している方が65歳に達すると、自動的に老齢基礎年金と老齢厚生年金の本来受給に切り替わります。この切り替えには新たな手続きが必要で、手続きを怠ると年金の支給が一時停止される可能性があります。
65歳時の手続きの流れ。
📝 65歳移行手続きのポイント
65歳からの年金は、特別支給時の報酬比例部分に加えて、**老齢基礎年金(満額で年額約78万円)**が新たに支給されます。また、配偶者がいる場合は配偶者加給年金(年額約42万円)も加算される可能性があります。
配偶者加給年金の受給要件は以下の通りです。
この65歳時の手続きで注意すべきは、年金額が大幅に増加することです。特別支給時は報酬比例部分のみでしたが、65歳からは老齢基礎年金と配偶者加給年金が加わるため、受給額が月額10万円以上増加するケースも珍しくありません。
また、65歳以降も働き続ける場合は、在職老齢年金制度の適用を受けます。月額47万円(令和5年度基準)を超える場合は年金の一部停止もあるため、働き方の見直しも検討材料となります。
日本年金機構の特別支給の老齢厚生年金に関する詳細情報
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/roureinenkin/jukyu-yoken/20140421-02.html