スタンダード・アプローチ リスクウェイト計算基礎知識

スタンダード・アプローチ リスクウェイト計算基礎知識

スタンダード・アプローチ リスクウェイト

スタンダード・アプローチとは
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基本概念

「エクスポージャー×リスクウェイト」で信用リスクアセットを算出する銀行規制の標準的手法

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規制の目的

銀行のリスク量を適切に測定し、十分な自己資本の保有を義務付ける仕組み

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計算方法

資産ごとに設定されたリスクウェイトを掛け合わせてリスクアセットを算出する

スタンダード・アプローチの基本概念とリスクウェイト

スタンダード・アプローチとは、バーゼル規制における信用リスク計測の標準的な手法です。この手法では「エクスポージャー×リスクウェイト(RW)」という算式で信用リスクアセットを計算し、銀行は最低基準として、信用リスクアセットの8%に相当する自己資本を保有しなければなりません。
リスクウェイトとは、資産の種類に応じて当局が定めた数値で、その資産が持つ信用リスクの大きさを表現するものです。例えば、海外の中央政府・中央銀行向けのエクスポージャーについては、当該国の格付またはカントリー・リスク・スコアに応じて0%から150%のRWが設定されています。
従来のバーゼルⅠでは5つの資産区分に応じて0%、10%、20%、50%、100%の5段階のリスクウェイトが設定されていましたが、バーゼルⅡ以降は資産区分を大幅に細分化し、外部格付に応じたより精緻なリスクウェイトが適用されるようになりました。

スタンダード・アプローチのエクスポージャー区分

スタンダード・アプローチでは、エクスポージャーを以下のような区分に分類し、それぞれに異なるリスクウェイトが適用されます。

 

金融機関向け債権では、従来は設立国政府の格付を参照していましたが、バーゼルⅢ最終化により貸出先の格付または自己資本比率規制等の充足度を参照する方式に変更されました。我が国の金融機関向け債権は従来RW=20%でしたが、新基準では20%~150%の幅で設定されます。
事業法人向け債権については、BBBの場合のRWが100%から75%に引き下げられ、無格付の場合は原則100%ですが、中堅中小企業については85%の適用も可能となりました。これは中小企業の資金調達環境を改善する意図があります。
**リテール向け(中小企業・個人向け)**エクスポージャーでは、住宅ローンのリスクウェイトが大幅に見直され、LTV比率(貸出額の担保評価額に対する割合)に応じた段階的なRWが導入されました。

スタンダード・アプローチのリスクウェイト計算実務

実際のリスクウェイト計算では、まずエクスポージャーの種類を特定し、該当する格付やその他の要素に基づいて適切なRWを決定します。

 

株式のリスクウェイトは大幅に引き上げられ、従来の100%から、原則として250%、投機的な非上場株式については400%に変更されます。ただし、この引き上げは5年間にわたって段階的に実施されます。投機的な非上場株式には短期売買目的の投資やベンチャーキャピタル等への投資が含まれますが、企業再生目的や政策保有株式は除外されます。
劣後債のリスクウェイトも変更され、事業法人が発行する劣後債は従来の格付けに応じた20%~150%から一律150%に統一されます。金融機関が発行する劣後債では、国際統一基準行が保有する場合のRWが100%から150%に引き上げられます。
デューデリジェンスの結果、外部格付が示唆するよりも高いリスク特性が判明した場合、少なくとも一段階高いRWを適用することが義務付けられており、外部格付に基づくRWより低いRWの適用は認められません。

スタンダード・アプローチの規制影響とFX業界への波及効果

バーゼル委員会の定量的影響度調査によると、今回の見直しによって信用リスクの標準的手法の平均RWはあまり変化しませんが、個別に見ると株式や劣後債の平均RWが大きく引き上がる一方、居住用不動産や中堅・中小企業向けエクスポージャーの平均RWが低下します。
日本の銀行の特徴として、株式保有やLTV比率が高い住宅ローンが多いことから、グローバルな影響とは異なる部分もあります。特に政策保有株式を多く持つ日本の銀行にとって、株式のRW引き上げは大きな影響となります。
FX業界への間接的な影響として、銀行のカウンターパーティリスク評価が厳格化することで、FXブローカーや取引業者に対する与信条件が変化する可能性があります。また、銀行の資金調達コストが上昇することで、FX取引のスプレッドや手数料にも影響が波及する可能性があります。

 

スタンダード・アプローチの将来展望とリスクマネジメント

信用リスクの標準的手法の見直しは2022年初から適用が開始されましたが、一部には経過措置が設けられており、完全に効力を持つのは2027年です。この長期的な移行期間により、銀行は資産構成の見直しを計画的に進めることができます。
内部モデル手法との関係では、標準的手法がアウトプット・フロアーとしての役割を果たすため、内部モデル手法を採用している銀行でも標準的手法による計算結果が最低基準となります。これにより、両手法のバランスが重要になります。
マーケット・リスクとの連動も重要な観点です。従来のVaRベースの計算に加えて、ストレス期間における市場価格の変動リスクを捕捉するストレスVaRが導入されており、総合的なリスク管理アプローチが求められています。
規制の実施に向けて、国内法制化の順序・時期によっては実施間際に対応作業が集中する可能性があるため、早期からの準備が重要です。特にシステム対応や内部管理態勢の整備には時間を要するため、段階的な準備計画の策定が必要となります。