
相続放棄を家庭裁判所で正式に完了したにも関わらず、債権者から借金の返済請求が届くケースは決して珍しいことではありません。これは、家庭裁判所が相続放棄の受理を債権者に個別に通知する義務がないためです。
債権者が相続放棄の事実を知らずに請求を続けている場合、以下のような理由が考えられます。
消費者金融などの正規の金融機関であれば、相続放棄の事実を伝えることで請求が停止することがほとんどです。しかし、一部の債権者は相続放棄を理解していても、なお請求を続ける場合があります。
このような状況でも、相続放棄が正式に受理されていれば一切の返済義務はありません。相続放棄をした人は、はじめから相続人として存在しなかったものとみなされるため、被相続人の債務を承継することはないのです。
債権者からの請求に対する最も効果的な対処法は、相続放棄申述受理通知書のコピーまたは相続放棄申述受理証明書の提出です。これらの公的書類により、相続放棄が正式に受理された事実を債権者に証明できます。
相続放棄申述受理通知書は、家庭裁判所から相続放棄申立人に送付される書類で、相続放棄が受理されたことを通知するものです。この書類のコピーを債権者に提出することで、請求の停止を求めることができます。
相続放棄申述受理証明書は、家庭裁判所が発行する公的な証明書で、より正式な証明力を持ちます。この証明書を取得するには、以下の手続きが必要です。
これらの書類を提出すれば、通常は債権者からの請求が完全に停止します。債権者側も公的機関が発行した書類に対しては異議を唱えることが困難だからです。
また、任意の対応として、他の相続人の連絡先を債権者に伝えることも考えられます。ただし、この場合は事前に他の相続人の了解を得ることが重要です。無断で連絡先を教えることでトラブルになる可能性があるためです。
相続放棄が受理されていても、単純承認が成立している場合は相続放棄が無効となる可能性があります。単純承認とは、被相続人の権利義務をすべて承継することを意味し、一度成立すると相続放棄はできません。
単純承認が成立する主なケースは以下の通りです。
特に注意が必要なのは、被相続人宛ての請求書を支払ってしまうケースです。「少額だから大丈夫」と考えて支払ってしまうと、その時点で単純承認が成立し、後に多額の借金が発見されても相続放棄ができなくなります。
実際に、一部の債権者は意図的に少額の請求を行い、相続人に支払いをさせることで単純承認を成立させる戦略を取ることがあります。このような罠にかからないよう、相続放棄の手続きが完全に終了するまでは、被相続人の財産には一切手を付けないことが重要です。
相続放棄の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日から3ヶ月以内とされています。この期限を過ぎてしまうと、原則として相続放棄はできません。ただし、特別な事情がある場合は期限の延長が認められることもあります。
相続放棄の事実を証明しても、なお債権者が執拗に取り立てを続ける場合があります。このような状況では、債務者でない人に対する取り立ては違法行為であることを理解し、毅然とした態度で対応することが重要です。
法的対応の段階的アプローチは以下の通りです。
第1段階:口頭での拒否
第2段階:書面での通知
第3段階:専門家への相談
警察に相談する際は、以下の証拠を準備することが効果的です。
弁護士に依頼する場合、相続や債務問題に詳しい専門家を選ぶことが重要です。弁護士からの通知により、多くの場合は請求が停止します。また、損害賠償請求も検討できる可能性があります。
相続放棄を検討する際に見落とされがちなのが、連帯保証人の問題です。被相続人が借金をしていた場合、相続放棄により相続人は返済義務を免れますが、連帯保証人の責任は相続とは別の契約関係であるため消滅しません。
連帯保証人として注意すべきポイント。
また、相続放棄後に誤って支払いをしてしまった場合の対処も重要です。本来支払う必要のない借金を返済してしまった場合、原則として返金を求めることはできません。これは、債権者の立場からは返済義務の有無を確認する義務がないためです。
ただし、以下の方法で救済される可能性があります。
相続放棄を検討する際は、以下の事前調査が不可欠です。
相続放棄は一度受理されると撤回できないため、慎重な判断が必要です。不明な点がある場合は、専門家に相談することを強くお勧めします。
家庭裁判所における相続放棄の申述に関する詳細情報
裁判所公式サイト - 相続放棄申述
法テラスによる相続問題の法的支援情報
法テラス公式サイト