相続放棄遺留分の違いと手続きの注意点を解説

相続放棄遺留分の違いと手続きの注意点を解説

相続放棄と遺留分の関係

相続放棄と遺留分の基本知識
⚖️
相続放棄の効力

初めから相続人でなかったとみなされ、資産も負債も一切相続しない

💰
遺留分の保障

兄弟姉妹以外の相続人に認められた最低限の相続分

両立不可の関係

相続放棄をすると遺留分侵害額請求権も失う

相続放棄とは何か基本的な効力と注意点

相続放棄とは、民法939条に基づき、被相続人の遺産について資産・負債のいずれも一切相続しない旨の意思表示です。この制度の最大の特徴は、相続放棄をした者は「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」という効力にあります。

 

相続放棄の主な特徴は以下の通りです。

  • 📋 家庭裁判所への申述書提出が必要
  • ⏰ 相続開始を知った日から3か月以内の期限
  • 🔄 原則として撤回不可
  • 💸 借金などの負債を回避できる
  • 👥 相続争いに巻き込まれることを避けられる

相続放棄を検討する典型的なケースとして、被相続人に多額の借金がある場合や、相続争いに関わりたくない場合が挙げられます。ただし、一度相続放棄を行うと、後から「やはり遺産が欲しい」と思っても撤回できないため、慎重な判断が必要です。

 

特に注意すべきは、相続放棄により相続人の構成が変わることです。例えば、子の一人が相続放棄をすると、残りの子の相続分が増加し、相続人がいなくなった順位の相続人(直系尊属や兄弟姉妹)が新たに相続人となる可能性があります。

 

遺留分侵害額請求権を失う理由

相続放棄をした相続人は、遺留分侵害額請求をおこなうことができません。これは民法939条の「初めから相続人とならなかったものとみなす」という規定により、遺留分を有する相続人の地位そのものを失うためです。

 

遺留分制度の基本構造を理解することが重要です。

  • 👨‍👩‍👧 対象者: 兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、直系尊属)
  • 💯 割合: 原則として法定相続分の2分の1
  • 💰 請求内容: 遺留分侵害額に相当する金銭
  • 📅 時効: 遺留分侵害を知った時から1年間

相続放棄と遺留分侵害額請求は「いずれかを選択する」関係にあります。借金などの相続を避けるために相続放棄をしたいものの、遺留分は確保したいと考える方がいらっしゃいますが、残念ながら両方は認められません。

 

この制度設計の背景には、相続制度の一貫性があります。相続放棄により相続人でなくなった者が、一方で遺留分という相続人の権利を主張することは矛盾するためです。また、相続放棄の効果を明確にすることで、法的安定性を保っています。

 

実務的には、相続放棄を検討する際に、遺留分として得られる可能性のある金額と、相続する負債の額を比較検討することが重要です。専門家のアドバイスを受けながら、総合的な判断を行うことをお勧めします。

 

相続放棄後の遺留分計算の変化

相続人の一人が相続放棄をすると、残りの相続人の遺留分計算に大きな影響を与えます。相続放棄により相続人の構成が変わるため、各相続人の法定相続分が変化し、それに伴って遺留分の割合も変わるのです。

 

具体例で説明すると、父が亡くなり相続人が長男・長女・次男の3人だった場合。
相続放棄前の状況

  • 各相続人の法定相続分:1/3ずつ
  • 各相続人の遺留分:1/6ずつ(法定相続分1/3×1/2)

長女が相続放棄した後の状況

  • 長男・次男の法定相続分:1/2ずつ
  • 長男・次男の遺留分:1/4ずつ(法定相続分1/2×1/2)

このように、相続放棄により残った相続人の遺留分が増加します。これは相続放棄をした者が「初めから相続人ではなかった」とみなされるため、相続分の再計算が行われるからです。

 

一方、遺留分の放棄の場合は全く異なります。民法1049条2項により、「共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない」と定められています。つまり、遺留分を放棄した者の分が他の相続人に移ることはありません。

 

この違いを理解することは、相続戦略を立てる上で非常に重要です。特に事業承継の場面では、相続放棄と遺留分放棄のどちらを選択するかにより、後継者の取得できる財産の割合が大きく変わる可能性があります。

 

相続放棄と遺留分放棄の手続き違い

相続放棄と遺留分放棄は、名前は似ていますが全く異なる制度です。手続き方法や効果について詳しく比較してみましょう。

 

相続放棄の手続き
相続放棄は家庭裁判所での正式な手続きが必要です。

  • 📋 申述書の提出が必要
  • 🏛️ 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
  • ⏰ 相続開始を知った日から3か月以内
  • 💰 申述料:800円(収入印紙)
  • 📄 必要書類:戸籍謄本住民票の除票など

手続きが完了すると、家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が交付されます。この通知書は、債権者への証明書類として重要な役割を果たします。

 

遺留分放棄の手続き
遺留分放棄は、実施時期により手続きが大きく異なります。

時期 手続き 必要な許可
被相続人の生前 家庭裁判所への申立て 家庭裁判所の許可が必要
被相続人の死後 意思表示のみ 特別な手続き不要

生前の遺留分放棄では、家庭裁判所が以下の点を審査します。

  • 🎯 放棄の理由が合理的か
  • 💰 代償措置(代償金の支払いなど)が適切か
  • 🤝 自由意思による放棄か(強制されていないか)

死後の遺留分放棄は、遺留分侵害額請求権を行使しないという意思表示で足ります。ただし、トラブル防止のため書面での意思表示が推奨されます。

 

相続放棄は「相続人の地位自体を失う」のに対し、遺留分放棄は「遺留分に関する権利のみを放棄する」点が大きな違いです。遺留分を放棄しても相続人であることに変わりはなく、債務があれば支払義務を負います。

 

相続放棄前に知るべき特別受益の影響

相続放棄を検討する際、見落としがちなのが特別受益の取り扱いです。特別受益とは、相続人が被相続人から生前に受けた贈与や遺贈のことで、相続放棄の前後でその法的な意味が大きく変わります。

 

相続放棄前の特別受益
相続人として特別受益を受けていた場合。

  • 🗓️ 原則として相続開始前10年以内の贈与が対象
  • ⚖️ 遺留分侵害額請求の対象となる
  • 📊 遺留分の算定基礎に含まれる

相続放棄後の特別受益の変化
相続放棄により相続人でなくなると、過去に受けた贈与の法的性質が変わります。

  • 👥 「相続人以外への贈与」として扱われる
  • 📅 遺留分算定の対象は相続開始前1年以内の贈与のみ
  • 🧠 双方が害意を知っていた場合のみ例外的に対象

具体的な影響例
被相続人Aが死亡5年前に子Bに1000万円を贈与し、死亡時の財産が200万円だった場合を考えてみましょう。
Bが相続放棄しない場合

  • 子Aの遺留分:(1000万円+200万円)×1/2×1/2-200万円=100万円
  • BはAに100万円の遺留分侵害額請求が可能

Bが相続放棄した場合

  • 5年前の贈与は遺留分算定の基礎に含まれない
  • 遺留分の侵害なし
  • Aは遺留分侵害額請求ができない可能性

この仕組みを理解することで、相続放棄が遺留分侵害額請求を免れる手段として機能する場合があることがわかります。特に多額の生前贈与を受けた相続人にとって、相続放棄は戦略的な選択肢となり得ます。

 

ただし、この判断には高度な法的知識が必要です。生前贈与の時期、金額、当事者の認識など、様々な要素を総合的に検討する必要があるため、専門家への相談が不可欠です。

 

また、相続放棄により他の相続人の遺留分が増加することも考慮しなければなりません。家族全体の利益を考えた上で、最適な選択を行うことが重要です。

 

相続放棄と遺留分の関係は複雑で、一度決定すると原則として撤回できません。十分な情報収集と専門家のアドバイスを得た上で、慎重に判断することをお勧めします。