
相続放棄をしても、必ずしも家の管理義務から解放されるわけではありません。令和5年の民法改正により、管理義務が発生する条件が明確化されました。
管理義務が発生する3つの条件は以下の通りです。
典型的な例として、母親と同居していた長男が母親所有の自宅を相続放棄するケースが挙げられます。この場合、長男は母親の相続人であり、自宅は相続財産で、さらに長男が占有していたため、相続放棄後も管理義務が継続します。
一方で、遠方に住んでいて被相続人の家を占有していない相続人が相続放棄する場合は、管理義務は発生しません。この改正により、責任の所在が明確になり、適切な管理が期待できるようになりました。
相続放棄の手続きは、相続開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所で行う必要があります。この期限を過ぎると、自動的に相続を承認したものとみなされるため注意が必要です。
必要書類一覧
申述書の記入例
申述書には以下の情報を記載します。
手続きの際は、3か月以内に決められない場合は期間延長の申請も可能です。ただし、正当な理由が必要となるため、早めの相談が重要です。
法定相続人全員が相続放棄をした場合、相続財産である不動産は最終的に国のものになります。しかし、この過程は複雑で時間がかかります。
国庫帰属までの流れ
相続財産清算人の選任には費用がかかり、通常は数十万円から数百万円の予納金が必要です。また、清算人は弁護士や司法書士が選任されることが多く、その報酬も相続財産から支払われます。
特に注意すべきは、相続財産の価値が低く、債務や清算費用の方が高い場合です。この場合、清算手続きが進まず、結果として空き家が放置される可能性があります。
相続放棄により空き家となった家は、適切な管理が行われないと近隣住民に迷惑をかけるリスクがあります。特に以下のような問題が発生する可能性があります。
空き家化による主なリスク
効果的な対策方法
🏠 管理義務がある場合の対策
📞 専門家への相談
相続放棄を検討している段階で、弁護士や司法書士に相談することが重要です。管理義務の有無や今後の対応について、専門的なアドバイスを受けることで、適切な判断ができます。
また、相続財産清算人の選任申立てを積極的に検討することも重要です。費用はかかりますが、長期的な管理負担を回避できる可能性があります。
令和5年の民法改正は、相続放棄家の管理義務について重要な変更をもたらし、実務に大きな影響を与えています。この改正により、従来曖昧だった管理義務の範囲が明確化され、相続放棄を検討する際の判断基準が変わりました。
改正による主な変更点
📋 管理義務の明確化
改正前は「相続放棄をしても管理義務が残る」という漠然とした理解でしたが、改正後は「占有している相続人のみ」に限定されました。これにより、遠方に住む相続人の負担が軽減される一方、占有している相続人の責任はより重くなりました。
⚖️ 実務上の新たな問題
改正により、以下のような新しい課題が浮上しています。
今後の展望と対策
この改正により、相続放棄の戦略も変化しています。占有している相続人は、相続放棄前に以下の点を検討する必要があります。
また、家庭裁判所の運用も変化しており、相続放棄申述書の審査がより厳格になる傾向があります。特に管理義務に関する質問や確認が増えているため、申述時の準備がより重要になっています。
このような変化を踏まえると、相続放棄を検討する際は、単純に「債務を回避したい」という理由だけでなく、「その後の管理責任をどう果たすか」という視点も含めた総合的な判断が必要になります。専門家との相談を通じて、改正民法の影響を正しく理解し、適切な対応策を検討することが重要です。