
相続保証債務とは、被相続人(亡くなった方)が他人の借金等について保証人となっていた場合に、その保証人としての義務を相続人が引き継ぐことを指します。
民法第896条では「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と規定されており、この「義務」の中に保証債務も含まれます。
保証債務の具体例
保証債務には「補充性」という特徴があり、債権者は原則として主債務者に対して先に請求する必要があります。これにより保証人には「催告の抗弁権」と「検索の抗弁権」が認められています。
催告の抗弁権とは「まず主債務者に請求してください」と主張できる権利で、検索の抗弁権とは「まず主債務者の財産を差し押さえてください」と主張できる権利です。
保証債務にはいくつかの種類があり、それぞれ相続時の扱いが異なります。特に重要なのが普通保証と連帯保証の違いです。
連帯保証の特徴
連帯保証の場合、債権者は主債務者に請求することなく、直接連帯保証人に対して全額の支払いを求めることができます。これは普通保証とは大きく異なる点で、相続人にとってより重い負担となります。
身元保証債務の特殊性
身元保証債務は例外的に相続の対象とならないとされています。身元保証契約は雇用主と従業員の関係において、従業員の行為により雇用主が受けた損害を保証人が賠償する契約です。
裁判所は「身元保証契約によって生ずる債務が相続人にとって予測のできない責任を生ずる可能性がある」ことから、相続性がないと判断しています。
ただし、身元保証人の生前に具体的な損害賠償請求権が発生している場合は、その債務は相続の対象となるため注意が必要です。
保証債務を相続したくない場合、最も確実な方法は相続放棄です。相続放棄により「はじめから相続人ではなかった」扱いとなり、保証債務を含むすべての債務から解放されます。
相続放棄の手続き
相続放棄には重要な注意点があります。
相続放棄の注意点
相続放棄を検討する際は、主債務者の支払い能力や残債務額を調査することが重要です。主債務者がきちんと返済を続けており、完済の見込みがある場合は、相続放棄により資産を失う方が不利益となる可能性があります。
複数相続人がいる場合の分割相続
相続人が複数いる場合、保証債務は法定相続分に応じて分割されます。例えば配偶者と子2人が相続人の場合、配偶者が2分の1、子がそれぞれ4分の1ずつの責任を負うことになります。
保証債務にも消滅時効制度が適用されます。民法改正により、2020年4月1日以降に締結された保証契約については新しい時効期間が適用されます。
新しい時効期間
この時効制度は相続人にとって重要な防御手段となります。被相続人が保証人となってから長期間経過している場合、時効の完成により債務が消滅している可能性があります。
相続税における債務控除の扱い
保証債務は相続税計算において特殊な扱いを受けます。原則として保証債務は債務控除の対象となりません。
債務控除が認められない理由。
ただし、主債務者が既に債務不履行となっており、保証人が現実に弁済を求められている場合は例外的に債務控除が認められることがあります。
相続放棄の期限を過ぎてから保証債務が発覚した場合でも、諦める必要はありません。いくつかの対処法が考えられます。
債務減額交渉のポイント
保証契約の中には法的に無効となるものも存在します。例えば、個人根保証契約で極度額の定めがない場合は無効となります。また、説明義務違反や錯誤による契約無効を主張できるケースもあります。
任意整理や個人再生の活用
保証債務の金額が高額で一括返済が困難な場合、債務整理手続きの活用も検討できます。
任意整理では。
個人再生では。
相続放棄の期間伸長申立て
相続財産の調査に時間がかかる場合、家庭裁判所に期間伸長の申立てを行うことができます。この制度を活用すれば、十分な調査時間を確保できます。
見落としがちな保証債務の発見方法
被相続人が事業者や経営者だった場合、以下の方法で隠れた保証債務を発見できます。
特に根保証契約の場合、被相続人の死後に新たな債務が発生する可能性もあるため、継続的な注意が必要です。
相続保証債務の問題は複雑で、個別の事情により最適な対処法が異なります。早期に専門家に相談し、適切な対応を取ることが重要です。