
セキュリティトークンの発行要件を理解するためには、まず金融商品取引法における分類体系を把握する必要があります。2020年5月1日施行の改正金商法により、セキュリティトークンは「電子記録移転有価証券表示権利等」として明確に位置付けられました。
金商法上、セキュリティトークンは以下の3つに分類されています。
発行者は、どの分類に該当するセキュリティトークンを発行するかによって、異なる規制要件を満たす必要があります。第一項有価証券に該当する場合は原則として発行・継続開示の義務が課される一方、適用除外電子記録移転権利に該当すれば開示規制を回避できるという重要な違いがあります。
🔍 発行者向け実務チェックポイント
適用除外電子記録移転権利として発行する場合、金商法は2つの技術的措置の実装を義務付けています。これらの措置は、ブロックチェーン技術を活用した独自の仕組みとして実現される必要があります。
要件①:取得者制限 📊
適格機関投資家または特例業務対象投資家に類する範囲の投資家以外の者には、トークンを取得・移転できないようにする技術的措置が必要です。具体的な実装方法
要件②:譲渡制限 🔒
権利保有者の申出と発行者の承諾なしには、トークンを移転できないようにする技術的措置の実装が求められます。この措置により、無制限な流通を防止し、発行者による投資家管理を可能にします。
興味深い点として、これらの技術的措置は必ずしも財産的価値自体に内在している必要はありません。つまり、トークンの設計に柔軟性があり、システム全体として要件を満たせば問題ないということです。
実務における技術的措置の設計例
セキュリティトークンの発行要件において最も複雑な部分が開示規制への対応です。発行者は自社の資金調達戦略に応じて、適切な私募要件を選択し、準拠する必要があります。
第一項有価証券としての開示義務 📋
トークン化された有価証券表示権利や電子記録移転権利に該当する場合、原則として発行・継続開示の義務が課されます。これを回避するためには以下の私募要件のいずれかを満たす必要があります。
適用除外電子記録移転権利の活用 🎯
開示規制を完全に回避したい場合、適用除外電子記録移転権利として設計する戦略が有効です。この場合、前述の技術的措置の実装が前提となりますが、第二項有価証券としての規制のみ受けることになります。
自己募集規制への対応 ⚠️
発行者が自ら投資家募集を行う場合、原則として第二種金融商品取引業の登録が必要となります。ただし、適格機関投資家等特例業務(いわゆるロクサン業務)の要件を満たせば、届出のみで自己私募が可能です。
🎯 規制回避のための実践的アプローチ
セキュリティトークンの発行と流通を支える市場インフラにも、金融商品取引法による厳格な業規制が適用されます。発行者は適切なライセンスを持つプラットフォーム事業者の選択が重要です。
発行市場における業規制 💼
セキュリティトークンの発行・販売を行う事業者は、取り扱う有価証券の種類に応じて以下のライセンスが必要です。
登録時の最低資本金は第一種が5,000万円、第二種が1,000万円と大きく異なります。また、自己資本比率等の継続的な財務要件も課されるため、プラットフォーム運営には相当な事業基盤が必要です。
流通市場の運営形態 🏛️
セキュリティトークンの売買プラットフォーム提供には、3つの可能性があります:
このうち、PTS業務は電子記録移転権利についても利用可能とされており、セキュリティトークンの流通基盤として期待されています。
海外市場との比較視点 🌐
米国・シンガポールでは、発行市場運営者自身がブロックチェーンベースの独自発行基盤を有し、この基盤上で募集するケースが多くなっています。日本でも同様のビジネスモデルの発展が予想され、規制対応と事業効率化の両立が課題となっています。
セキュリティトークンの発行要件を検討する際、金融規制だけでなく実体法上の権利移転要件への対応も不可欠です。特に、ブロックチェーン上でのトークン移転と連動した権利移転の実現は、技術的にも法的にも高度な設計が求められます。
主要な対象権利と移転要件 📜
実際にトークン化が検討される権利には以下があり、それぞれ異なる移転要件が適用されます。
流通性確保のための法的工夫 ⚙️
セキュリティトークンの流通性を高めるため、発行者は以下の方策を検討する必要があります。
ブロックチェーン上での完結性の実現
ブロックチェーン外譲渡の防止策
産業競争力強化法による特例措置 🏢
信託受益権と集団投資スキーム持分については、産業競争力強化法の改正により特例措置が設けられています。この特例により、ブロックチェーン上での権利移転がより簡便に実現可能となり、セキュリティトークンの実用性が大幅に向上しました。
実務での権利設計チェック項目