
積極的損害とは、被害者が事故や権利侵害によって実際に支払った費用、または将来的に支払う必要のある費用のことを指します。これは財産的損害の一種であり、消極的損害(得られるはずだった利益の喪失)と対をなす概念です。
例えば、交通事故の場合、治療費や入院費、通院交通費などが積極的損害に該当します。著作権侵害のケースでは、権利回復のための弁護士費用などが含まれます。これらの損害は、加害者に対して損害賠償として請求することができます。
損害賠償制度の基本的な考え方は「被害者を被害前の状態に戻す」ことにあります。そのため、積極的損害の賠償額は原則として実費が基準となりますが、実際の裁判では様々な要素が考慮されて金額が決定されます。
交通事故における積極的損害は多岐にわたります。主なものとして以下が挙げられます。
これらの費用は、事故と相当因果関係があると認められる範囲で請求可能です。「相当因果関係」とは、単なる事実上の因果関係よりも狭い概念で、法的に賠償責任を負うべき範囲を画定するものです。
交通事故損害賠償における積極損害の詳細な基準について(日本損害保険協会)
積極的損害の算定方法は損害の種類によって異なります。基本的には実費が基準となりますが、一部の損害については定型化された基準が存在します。
例えば、入院雑費は1日あたり1,500円、近親者による付添看護費は入院の場合1日6,000円といった基準があります。これらの基準は裁判実務の積み重ねによって形成されてきたものです。
実際の裁判例を見ると、損害賠償額の相場がわかります。例えば、著作権侵害に関する「ヨミウリ・オンライン事件」では、読売新聞社が6,825万円の損害賠償を請求しましたが、裁判所が認めた額はわずか23万7,741円でした。
また、資産運用ブログの無断転載事件では、297万円の請求に対して100万円の賠償命令が出されています。このように、裁判所が認める賠償額は請求額よりも大幅に減額されるケースが多いことがわかります。
ブログや画像の無断転載などの著作権侵害事例では、おおよその目安として100万円程度までの賠償額におさまるケースが多いようです。
損害賠償請求において弁護士費用は特殊な位置づけにあります。一般的に、訴訟費用は敗訴者負担が原則ですが、弁護士費用については別途考慮されます。
交通事故や著作権侵害などの不法行為に基づく損害賠償請求では、弁護士費用の一部も損害として認められるのが通例です。具体的には、裁判で認められた賠償金額の10%程度が相当因果関係のある損害として認められます。
例えば、100万円の損害賠償が認められた場合、弁護士費用として別途10万円程度が認められる可能性があります。これは、被害者が権利回復のために弁護士に依頼することが必要かつ相当であるという考え方に基づいています。
ただし、弁護士との間で合意した報酬額がそのまま認められるわけではなく、あくまで相当因果関係のある範囲で認められるという点に注意が必要です。
弁護士費用の損害賠償における取扱いについて(弁護士保険会社)
著作権侵害における積極的損害は、交通事故などの人身被害と比べて特徴的な面があります。著作権法では、損害賠償の算定方法として以下のような規定があります。
著作権侵害の場合、実際の損害額の立証が難しいケースが多いため、使用料相当額が損害額として認められることが多くなっています。
実際の裁判例を見ると、ブログ記事や画像の無断転載の場合、請求額と裁判所が認める賠償額には大きな開きがあることがわかります。例えば、前述の「ヨミウリ・オンライン事件」では、請求額の約0.35%しか認められませんでした。
このように、著作権侵害における損害賠償額は、権利者の主張する額よりも大幅に減額されるケースが多いことが特徴的です。
交通事故などで後遺障害が残った場合、将来にわたって継続的に発生する損害についても賠償を請求することができます。例えば、将来の介護費用や装具・器具の購入費などが該当します。
将来分の損害については、平均余命までの期間を考慮して算定されるのが一般的です。ただし、将来の損害を現在価値に換算する際には「中間利息控除」という考え方が適用されます。
中間利息控除とは、将来発生する損害を現在一括で受け取ることによる利息分を控除するという考え方です。具体的には、法定利率(現在は年3%)を用いて計算されます。
例えば、10年後に100万円の費用が必要になる場合、現在価値は約74.4万円(100万円÷1.03^10)となります。このように、将来の損害は単純な掛け算ではなく、中間利息を控除して計算されます。
将来の装具・器具購入費なども同様に、取得価額を基準に使用開始時および交換が必要な時期に対応して中間利息が控除されます。
損害賠償請求において、損害の発生とその額を立証する責任は原則として被害者側にあります。特に積極的損害については、実際に支出した費用や将来支出する費用の証明が求められます。
効果的な立証のためには、以下のような証拠を収集・保管しておくことが重要です。
特に交通事故の場合、事故直後から証拠収集を始めることが重要です。また、著作権侵害の場合は、侵害の事実を示すスクリーンショットなどを保存しておくことが有効です。
立証が不十分だと、請求が認められなかったり、認められても金額が大幅に減額されたりする可能性があります。特に高額な損害賠償を請求する場合は、それに見合った綿密な証拠収集が必要です。
損害賠償における財産的損害は、「積極的損害」と「消極的損害」に大別されます。両者の違いを理解することで、損害賠償の全体像が見えてきます。
積極的損害は、実際に支出した費用や将来支出する費用のことで、いわば「出ていくお金」です。治療費、交通費、葬儀費用などが該当します。
一方、消極的損害は、得られるはずだった利益の喪失、いわば「入ってこなくなったお金」です。休業損害(働けなくなったことによる収入減)や逸失利益(死亡や後遺障害による将来の収入減)などが該当します。
総合的な損害賠償額は、これらの財産的損害に加えて、精神的損害(慰謝料)も含めて算定されます。慰謝料は、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料などに分けられます。
例えば、交通事故で重傷を負い、後遺障害が残った場合の損害賠償額は以下のように構成されます。
これらを合計した額が総合的な損害賠償額となります。ただし、過失相殺(被害者にも過失がある場合)や損益相殺(保険金などの給付がある場合)によって減額されることがあります。
損害賠償請求において、適正な賠償を受けるためには効果的な示談交渉が重要です。特に積極的損害については、実費を基準とするため、証拠に基づいた具体的な交渉が求められます。
示談交渉を有利に進めるためのポイントは以下の通りです。
示談交渉がまとまらない場合は、裁判外紛争解決手続(ADR)や訴訟という選択肢もあります。特に高額な損害賠償が見込まれる場合は、弁護士に依頼することを検討すべきでしょう。
交通事故の示談交渉に関するガイドライン(国民生活センター)
以上、積極的損害と損害賠償額について詳しく解説しました。損害賠償請求は複雑な法律問題を含むため、重大な事故や高額な損害が発生した場合は、専門家に相談することをお勧めします。適切な賠償を受けるためには、証拠の収集と保存、そして法的知識が不可欠です。