
山林相続では、一般的な不動産相続に加えて特別な手続きが必要です。まず、故人が山林を所有していた場合、法定相続人が山林を相続することになります。
法定相続人の順位
相続人が複数いて遺言書がない場合、相続人全員で「遺産分割協議」を行い、誰が山林を相続するかを決定する必要があります。
山林相続に必要な書類
これらの書類は相続登記と市町村への届出の両方で必要となるため、早めに準備することが重要です。
山林を相続した場合、2つの重要な手続きを期限内に完了させる必要があります。
相続登記の義務化
2024年4月より、相続登記の申請が3年以内に義務化されました。それ以前に相続した場合は2027年3月31日までに手続きを完了させる必要があります。
相続登記は山林を管轄する法務局で行い、登録免許税として固定資産税評価額の0.4%を納付します。手続きが複雑な場合は、司法書士などの専門家に依頼することをおすすめします。
市町村への所有者届出
山林を相続したら、90日以内に市町村へ「所有者の届出」をしなければなりません。この届出は、都道府県の地域森林計画の対象となっている森林について義務付けられています。
届出に必要な書類。
届出を怠ると10万円以下の過料が科される可能性があるため、必ず期限内に手続きを行いましょう。
相続人申告登記という選択肢
相続人が多くて遺産分割協議がまとまらない場合、「相続人申告登記」により一時的に相続登記の義務を履行することも可能です。ただし、これは暫定的な措置であり、最終的には正式な相続登記が必要となります。
山林の相続税評価は、その立地や周辺環境により3つの区分に分けられ、それぞれ異なる評価方法が適用されます。
山林の3つの区分
評価方法の詳細
純山林・中間山林の評価(倍率方式)
相続税評価額 = 固定資産税評価額 × 倍率
例:固定資産税評価額200万円、倍率3.3倍の場合
相続税評価額 = 200万円 × 3.3 = 660万円
市街地山林の評価(宅地比準方式)
相続税評価額 = 宅地とした場合の価額 - 造成費
例:宅地評価額2,000万円、造成費1,400万円の場合
相続税評価額 = 2,000万円 - 1,400万円 = 600万円
ただし、市街地山林が倍率方式の区域にある場合は、宅地比準方式ではなく倍率方式で評価します。また、宅地に転用できない市街地山林は純山林として評価することも可能です。
評価減額の特例
伐採等に制限がある山林については、その制限の程度に応じて評価額が減額される場合があります。これにより相続税の負担軽減が図れることもあります。
山林を相続したものの、管理が困難な場合は様々な処分方法があります。
山林売却の方法
売却時の注意点
山林の売却では、測量費用が莫大になるため、登記簿の情報を基にした「公簿売買」が一般的です。また、立木の価値があっても、伐採・運搬費用を考慮すると採算が合わない場合が多いのが現実です。
その他の処分方法
相続土地国庫帰属制度の条件
この制度により、山林のみを手放すことができ、他の相続財産は引き継ぐことが可能です。
山林引き取りサービスなど、民間による有償での引き取りサービスも存在し、相続税の節税効果が期待できる場合があります。
山林相続には、一般的な不動産にはない特有のリスクと課題があります。将来的な資産価値を考慮した対策が重要です。
山林保有のリスク
山林を所有することで発生する最大のリスクは、土砂崩れによる近隣への損害です。遺産分割後に発生した土砂崩れについては、山林を相続した人が損害賠償責任を負うことになります。土砂崩れによる被害が深刻な場合、予期せず多額の損害賠償責任を負う可能性があります。
管理費用の継続的負担
活用の困難さ
山林の活用方法として以下が考えられますが、いずれも収益性の確保が困難です。
将来的な資産価値の見通し
日本の人口減少や林業の衰退により、山林の資産価値は長期的に下落傾向にあります。特に以下の要因が影響しています。
早期対策の重要性
これらの状況を踏まえ、山林を相続する可能性がある場合は、以下の早期対策を検討することが重要です。
山林相続は単なる資産承継ではなく、長期的な管理責任を伴う重要な決定です。相続前から十分な検討と準備を行い、必要に応じて専門家のアドバイスを求めることで、適切な判断を下すことができます。
林野庁の森林・林業に関する統計情報
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/toukei/
国税庁の財産評価基準書(山林の評価倍率表)
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/hyoka/