
流動性回復計画の策定要件は、2008年の金融危機以降に国際的に強化された金融規制の一環として位置づけられています。バーゼルⅢでは、流動性カバレッジ比率(LCR)と安定調達比率(NSFR)という2つの主要な定量的流動性規制が設けられています。
LCRは、30日間の流動性ストレス・シナリオの下で必要な流動性を確保するため、銀行に適格流動資産ストック(HQLA ストック)の保有を要求する資金流動性に関する最低基準です。この制度により、ストレス・シナリオの下で銀行が少なくとも30日間は存続できるようになり、銀行経営者および監督当局がその間に適切な是正措置を講じることが可能になります。
特に重要なのは、中央銀行が本来の役割である「最後の貸し手」(lender of last resort)としての機能ではなく、「最初の貸し手」(lender of first resort)となることを避けるという目的です。これにより、金融機関の自立的な流動性管理が強化されます。
金融商品取引業者における流動性リスク管理態勢は、金融庁の監督指針において詳細に規定されています。流動性リスクとは、金融商品取引業者の業績の悪化等により必要な資金が確保できなくなり、資金繰りがつかなくなる場合や、資金の確保に通常よりも著しく高い金利での調達を余儀なくされることにより損失を被るリスクと定義されています。
FX業界においては、個人顧客を相手方とするFX取引に係る証拠金規制が重要な位置を占めています。2010年に実施された規制では、業者等に対して個人顧客を相手方とするFX取引において、取引の額(想定元本)の4%以上の証拠金の預託を受けず当該顧客にFX取引を行わせることが禁止されました。
さらに、ロスカットルールの整備・遵守の義務化により、投資者の損失の拡大を防止するための仕組みが確立されています。これらの規制は、市場の健全性を確保し、流動性危機時の損失拡大を防ぐ重要な役割を果たしています。
流動性回復計画において、ストレステストは最重要部分として位置づけられています。監督当局は、ストレステストが適切に開発され、しっかり実施されており、上級管理職が十分に組み込まれていることを期待しています。
銀行は誤解をさけるため、ストレステストの結果を監督当局に報告するに際し細心の注意を払う必要があります。特に、自行のリスク選好、コストと調達の確実性とのバランスをどこで取るかということに基づいて独自の結論を出さねばなりません。
実際のストレステストでは、以下の要素が重要となります。
2008年の金融危機の教訓を踏まえて、G-SIBs等の大手金融機関は破綻処理可能性(Resolvability)を高めるために、再建・破綻処理計画(RRP)の策定、態勢の整備・高度化を進めてきました。この計画は、公的資金を使わずに破綻処理を行うことが狙いであり、国際的な枠組みとしてはFSB(金融安定理事会)が「Key Attributes」(主要な特性)を公表しています。
景気後退期などのストレスが掛かった状況では、ストレステストを実施し、資本や流動性がこの先どの程度悪化するのかを予測しながら業務を行います。特に重要なのは、流動性回復計画とRRPの連携により、金融機関が危機時に自立的な回復能力を持つことです。
本邦では、G-SIBs等の大手金融機関にRRPの策定が求められており、2020年頃からは当局や金融機関の間で「訓練」の実施が重視されるようになりました。2023年には複数の米国地銀の破綻や欧州G-SIBs間の救済合併などもあり、足もとでRRPや訓練に対する注目度が高まっています。
従来の流動性回復計画は主に金融機関内部の資金調達に焦点を当てていましたが、市場全体の流動性供給メカニズムとの連携という独自の視点が重要性を増しています。財務省が実施している流動性供給入札は、この新たな視点を示す好例です。
流動性供給入札は市場流動性を改善させるための施策で、特に有効となるのは、ある投資家が特定の銘柄の国債を多く保有しており、市場での流通量が減少しているような状況です。このような時に投資家が求める国債を追加供給し流通量を回復させることで流動性を高める仕組みです。
この仕組みをFX業界に応用すると、以下のような革新的アプローチが考えられます。
量的引き締め環境下では、過剰流動性の吸収により市場環境が変化しており、FRBは資金需給のバランスを崩さないよう慎重に市場環境を操作しています。このような環境変化を踏まえ、FX業界においても市場全体の流動性動向を考慮した回復計画の策定が求められています。
特に、リバースレポファシリティ(RRP)や常設レポファシリティ(SRF)などの中央銀行の政策ツールの動向を監視し、それらがFX市場の流動性に与える影響を事前に分析することが重要です。担保付翌日物調達金利(SOFR)の変動パターンを参考に、FX市場における流動性指標の開発と活用も今後の課題となるでしょう。
このような包括的なアプローチにより、個別金融機関の流動性回復計画が市場全体の安定性向上に貢献する新たな枠組みの構築が期待されます。