
教育資金贈与制度は、30歳未満の子や孫に対して最大1,500万円まで非課税で贈与できる制度です。しかし、贈与した教育資金を使い切れずに口座に残額がある場合、以下の4つの条件をすべて満たすと贈与税の課税対象となります。
贈与税がかかる4つの条件
これらの条件がすべて揃った場合、残額から贈与税の基礎控除額110万円を差し引いた金額に対して贈与税が課税されます。教育資金贈与の非課税措置により贈与された資金が残った場合、その残額は教育目的以外の贈与とみなされるためです。
特に注意すべき点は、一度教育資金口座に入金したお金は贈与者の手元に戻せないということです。そのため、必要以上に多額の贈与を行うと、使い切れないリスクが高まります。
一方で、使い切れない教育資金があっても贈与税がかからないケースも存在します。以下のいずれかに該当する場合は、残額に対して贈与税は課税されません。
贈与税がかからない3つのケース
最初のケースでは、30歳時点でまだ受贈者が学校等を卒業していないため、教育資金としての目的が継続しているとみなされます。学校を卒業していなければ、その時点で贈与税がかかることはありません。
2番目のケースは、教育訓練給付金の支給対象となる教育を受けている場合に適用されます。教育資金管理契約継続届を提出することで、最長40歳まで契約を継続でき、その間に残高を使い切れば贈与税はかかりません。
3番目のケースでは、贈与者が亡くなった時点で口座の残高は相続財産となります。この場合、贈与税はかかりませんが、相続税の課税対象となる点に注意が必要です。
教育資金贈与を使い切れずに贈与税がかかる場合の具体的な計算方法を理解しておくことが重要です。税額は残額から基礎控除額を差し引いた金額に贈与税率を適用して算出されます。
贈与税の計算例
教育資金残高700万円の場合。
贈与税率は課税対象額によって異なり、直系尊属(祖父母、父母)から20歳以上の子、孫への贈与の場合は特例税率が適用されます。特例税率は一般税率よりも低く設定されており、例えば400万円超600万円以下の場合は税率30%、控除額65万円となります。
なお、贈与税を支払えば、その後は使途を教育資金として限定せずに受贈者が自由に使用することができます。つまり、税金を支払うことで資金の使途制限が解除される仕組みです。
計算を行う際は、受贈者の年齢や贈与者との関係性も考慮する必要があります。孫やひ孫のような相続人以外の人への贈与では、将来的に相続税の2割加算の対象となる可能性もあります。
教育資金贈与で使い切れないリスクを回避するためには、事前の計画と対策が不可欠です。以下の対策を検討することで、無駄な税負担を避けることができます。
効果的な対策方法
教育資金贈与の使い道は学校等への直接支払い(学費、入学金等)と学校等以外への支払い(学習塾、習い事等)に分かれており、学校等以外への支払いは500万円が上限となっています。この制限を理解せずに贈与すると、想定外の課税リスクが生じる可能性があります。
また、必要な教育費をその都度贈与する場合は、教育資金贈与制度を利用しなくても贈与税の対象にはなりません。年間110万円の基礎控除の範囲内であれば、通常の贈与でも税負担なく教育費を支援できます。
さらに重要な注意点として、教育資金贈与は一度契約すると解約できないケースがほとんどです。そのため、贈与額の決定は慎重に行い、将来の教育計画と照らし合わせて適切な金額を設定することが重要です。
年金受給世代にとって、教育資金贈与は相続税対策の重要な手段の一つですが、使い切れないリスクを考慮した総合的な相続対策が必要です。特に、贈与者の将来の生活資金との兼ね合いを慎重に検討する必要があります。
年金世代が考慮すべき要素
年金世代の方が教育資金贈与を行う際は、まず自身の老後生活に必要な資金を確保した上で、余剰資金から贈与を検討することが重要です。教育資金贈与により相続財産を減らすことができますが、贈与後に生活資金が不足しては本末転倒です。
また、贈与者の相続税の課税価格が5億円を超える場合には、管理残額にも相続税がかかる点に注意が必要です。この場合、通常の相続税に加えて追加の税負担が生じる可能性があります。
さらに、孫やひ孫への贈与では相続税の2割加算が適用されるため、贈与者が亡くなった場合の税負担も考慮する必要があります。これらの要素を総合的に判断し、税理士等の専門家と相談しながら最適な贈与戦略を立てることが推奨されます。
年金世代の相続対策では、教育資金贈与以外にも暦年贈与や不動産贈与など複数の選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを比較検討し、家族全体の税負担を最小化する総合的なアプローチが重要です。