
金融取引税(Financial Transaction Tax、FTT)は、金融商品の譲渡を課税対象とする流通税の一種です。この税制の特徴は、取引によって利益が生じたかどうかにかかわらず課税される点にあります。
欧州委員会の提案によると、課税対象となる金融取引の範囲は極めて広範囲に設定されています。具体的には以下の取引が含まれます:
取引所取引だけでなく店頭取引も対象となり、課税はネッティングや決済を行う前の取引額に対して行われます。また、取引が取り消された場合も、過誤による場合を除き課税されるという厳格な仕組みとなっています。
課税対象となる主体は、金融取引を行う金融機関に限定されています。金融機関に該当しない一般個人や事業法人等には課税されませんが、金融機関の定義は広く設定されており、以下が含まれます:
一方で、金融取引税の適用除外とされている取引も存在します:
FX(外国為替証拠金取引)の課税範囲における位置づけは複雑です。現在の日本におけるFX取引は、申告分離課税で税率一律20%(所得税15%、住民税5%)として「先物取引に係る雑所得等」で課税されています。
欧州の金融取引税提案では、スポットでの通貨取引は対象外となっているものの、FXなどの通貨デリバティブ取引については課税対象に含まれる可能性があります。この場合、想定元本の0.01%の税率が適用されることになります。
FX取引における現行の税制上の特徴として、以下の点が重要です。
金融取引税が導入された場合、これらの既存の税制との調整が必要になると考えられます。
金融取引税の課税範囲における最も注目すべき特徴の一つは、その国際的な適用原則です。欧州の強化された協力の枠組みでは、以下の条件のいずれかを満たす場合に課税対象となります:
この仕組みにより、参加国で設立された金融機関が海外で取引を行った場合でも課税対象となります。これは税収の逃避を防ぐ目的がありますが、一方で金融機関の国際競争力への影響も懸念されています。
実際に、過去にスウェーデンが金融取引税を導入した際には、近隣に大規模な金融市場があり、海外の仲介サービスを課税対象としなかったため、課税対象とされた取引が海外に移転してしまった経験があります。
金融取引税の課税範囲を理解する上で重要なのは、従来の金融課税制度との根本的な違いです。現在の日本の金融課税制度では、利益が生じた場合にのみ課税される「所得課税」が基本となっています。
一方、金融取引税は「取引そのものに対する課税」であり、以下の特徴があります。
従来の消費税制度でも、金融取引については「消費税としての性格上課税対象とすることになじみにくい」という理由で、手数料等を除き課税していません。これは、有価証券や金融商品について他の物と同様に消費の対象として観念できないためとされています。
金融取引税は、この従来の考え方を大きく転換し、金融取引を新たな課税ベースとして位置づけるものです。導入された場合、金融市場の構造や投資家行動に大きな影響を与える可能性があります。