瑕疵担保責任と契約不適合責任の変更点と違い

瑕疵担保責任と契約不適合責任の変更点と違い

瑕疵担保責任と契約不適合責任

瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更ポイント
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名称の変更

2020年4月の民法改正により「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ名称が変更されました

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買主保護の強化

追完請求権と代金減額請求権が追加され、買主の権利が拡充されました

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責任範囲の変更

「隠れた瑕疵」から「契約の内容に適合しない」という基準に変わりました

瑕疵担保責任の基本概念と不動産における瑕疵とは

瑕疵担保責任とは、売買契約において引き渡された目的物に欠陥(瑕疵)があった場合に、売主が買主に対して負う責任のことを指します。特に不動産取引においては重要な概念で、物件引き渡し後に判明した瑕疵に対して売主が責任を負うことを意味します。

 

不動産における瑕疵は、大きく分けて以下の4種類に分類されます。

  1. 物理的瑕疵:建物の構造や設備の欠陥により本来の機能が果たせていない状態
    • 外壁や屋根からの雨漏り
    • シロアリなどの虫食い
    • 地中埋設物の存在や土壌汚染
    • 床の傾き
  2. 法律的瑕疵:建物に関係する法律の条件を満たしていない状態
    • 建築基準法で定められた容積率・建ぺい率違反
    • 消防法で定められた消防設備の設置義務違反
    • 都市計画法で定められた区域区分の規定違反
    • 再建築不可物件
  3. 心理的瑕疵:建物の利用者が心理的に抵抗を抱きやすい環境にある状態
    • 物件内で過去に自殺・殺人などの事件が起こっている
    • 物件の周辺で自殺・殺人などの事件が起こっている
    • いわゆる「事故物件」
  4. 環境的瑕疵:物件を取り巻く状況に問題がある状態
    • 物件の周辺に廃棄物処理場、火葬場などの嫌悪施設がある
    • 騒音、異臭が発生する環境
    • 反社会的勢力の事務所が近隣にある

また、物理的瑕疵のなかには、実際に目に見える瑕疵だけではなく、建物内の目に見えない部分も「隠れた瑕疵」として瑕疵とみなされます。この「隠れた瑕疵」が従来の瑕疵担保責任の中心的な対象でした。

 

瑕疵担保責任から契約不適合責任への民法改正による変更点

2020年4月の民法改正により、「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へと名称が変更されました。この変更は単なる名称変更にとどまらず、責任の内容や考え方にも大きな変化をもたらしました。主な変更点は以下の通りです。

  1. 基本的な考え方の変更
    • 瑕疵担保責任:売買時点の「隠れた瑕疵」に対して責任を追及できる
    • 契約不適合責任:「売買契約書に書かれていなかった瑕疵」に対して責任を追及できる
  2. 責任が発生する期間の変更
    • 瑕疵担保責任:契約までに存在した瑕疵が対象
    • 契約不適合責任:物件を引き渡した時までに存在した不適合が対象
  3. 不適合(瑕疵)の範囲の変更
    • 瑕疵担保責任:隠れた瑕疵が対象
    • 契約不適合責任:契約の内容に含まれているかによって決まる
  4. 買主が請求できる権利の拡充
    • 瑕疵担保責任:「損害賠償」と「契約解除」の2つのみ
    • 契約不適合責任:上記2つに加えて「追完請求」と「代金減額請求」の2つが追加
  5. 請求できる期間の変更
    • 瑕疵担保責任:買主が瑕疵を知った日から1年以内(瑕疵によって損害があったことの証明、契約解除や損害賠償請求の権利の行使を1年以内に行う)
    • 契約不適合責任:1年以内に売主に当該不適合を通知すればOK
  6. 権利を行使できる期間の変更
    • 瑕疵担保責任:引き渡しから10年
    • 契約不適合責任:引き渡しから10年 or 自らの権利を行使できると知った時、もしくは契約不適合を知った時から5年のどちらか早い期間が満了すると債権が時効で消滅する

これらの変更により、基本的には買主をより強く保護する内容になっているため、不動産売却を考えている売主は、大きな失敗をしないためにも、よく理解しておく必要があります。

 

瑕疵担保責任と契約不適合責任の買主と売主への影響

民法改正による瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更は、買主と売主それぞれに異なる影響をもたらしています。

 

買主への影響

  1. 権利の拡充
    • 追完請求権の追加:瑕疵のある物件の修補や代替物の引渡しを請求できるようになりました
    • 代金減額請求権の追加:瑕疵の程度に応じて代金の減額を請求できるようになりました
    • これにより、買主は状況に応じて最適な救済方法を選択できるようになりました
  2. 通知期間の簡素化
    • 従来は瑕疵を発見してから1年以内に権利行使する必要がありましたが、改正後は1年以内に通知するだけでよくなりました
    • これにより、買主の負担が軽減されました
  3. 責任追及の基準変更
    • 「隠れた瑕疵」から「契約の内容に適合しない」という基準に変わったことで、契約書の記載内容がより重要になりました
    • 買主は契約時に物件の品質や性能について詳細に確認し、契約書に明記することが重要になりました

売主への影響

  1. 責任の範囲拡大
    • 契約不適合責任では、契約書に記載されていない瑕疵に対しても責任を負う可能性が高まりました
    • 売主は契約時に物件の状態を詳細に開示し、免責事項を明確にする必要性が高まりました
  2. 責任期間の変更
    • 物件引渡し時までに存在した不適合が対象となるため、契約締結から引渡しまでの間の物件管理がより重要になりました
    • 時効の計算方法が変わり、場合によっては責任期間が短くなるケースもあります
  3. 契約不適合責任免責の重要性
    • 個人間売買では、特約で契約不適合責任を免責にすることができますが、その場合は一般的に売却価格が下がる傾向があります
    • 売主は早期売却と責任リスクのバランスを考慮する必要があります

両者にとって共通して重要なのは、契約書の内容がより重要になったということです。契約書に何が書かれているか、何が書かれていないかによって、契約不適合責任の範囲が決まるため、契約締結時の交渉と確認がより重要になりました。

 

瑕疵担保責任の期間と新築・中古住宅での違い

瑕疵担保責任(現在の契約不適合責任)の期間は、物件の種類や売主の属性によって大きく異なります。新築住宅と中古住宅では、適用される法律や一般的な慣行に違いがあります。

 

新築住宅の場合

  1. 法定の責任期間
    • 住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)により、建物の基本構造部分については、引き渡しから10年間の瑕疵担保責任が義務付けられています
    • 基本構造部分とは、基礎や柱、梁など建物を支えている「構造耐力上主要な部分」と、屋根や窓など「雨水の浸入を防いでいる部分」を指します
  2. 特約による延長
    • 売主や施工会社と特約を結ぶことで、瑕疵担保責任の期間を基本構造部分以外も含めて20年まで延長することも可能です
  3. 請求期間の制限
    • 瑕疵が発覚した場合、買主は売主に対し、発覚後1年以内にその旨を通知し、発覚後5年以内に損害賠償等の請求を行わなければなりません
    • 10年間の責任期間と5年間の請求期間の時効は、早いほうが優先されます
    • 例:2年目に瑕疵が発覚した場合、損害賠償等の請求が可能な期間は「7年(2年+5年)」
    • 例:7年目に瑕疵が発覚した場合、損害賠償等の請求が可能な期間は「3年(10年-7年)」
  4. 資力確保義務
    • 住宅瑕疵担保履行法により、売主等には瑕疵担保責任を履行するための「資力確保」が義務付けられています
    • 具体的な方法として、「住宅瑕疵担保責任保険への加入」または「保証金の供託」のいずれかが必要です

中古住宅の場合

  1. 個人間売買の場合
    • 売主、買主ともに個人の場合、契約不適合責任の期間は両者の合意によって決められます
    • 一般的には1カ月、3カ月などの短い期間となるか、「売主の契約不適合責任を免除する」という特約が付されることも珍しくありません
  2. 宅建業者が売主の場合
    • 売主が不動産会社(宅地建物取引業者)の場合は、宅地建物取引業法により、契約不適合責任の期間を2年以上とすることが義務付けられています
  3. アフターサービスの活用
    • 中古住宅でも、売主が提供するアフターサービスを利用できる場合があります
    • 契約時に住宅の部位別に修理期間を定めた「アフターサービス規準」が渡されることがあるので、確認しておくことが重要です

新築住宅と中古住宅では、適用される法律や一般的な慣行に大きな違いがあるため、住宅購入時には瑕疵担保責任(契約不適合責任)の期間や内容について十分に理解し、必要に応じて専門家に相談することが重要です。

 

瑕疵担保責任と金融取引における影響と対策

瑕疵担保責任(契約不適合責任)は不動産取引だけでなく、金融取引にも重要な影響を与えます。特に不動産投資や住宅ローンを利用する際には、瑕疵担保責任の理解が資産価値の保全や将来的なリスク管理に直結します。

 

金融取引における瑕疵担保責任の影響

  1. 住宅ローンへの影響
    • 瑕疵が発見された場合、物件価値の下落により担保価値が減少する可能性があります
    • 重大な瑕疵の場合、物件の資産価値が大きく下がり、ローン残高が物件価値を上回る「オーバーローン状態」になるリスクがあります
    • 契約不適合責任に基づく契約解除となった場合、住宅ローン特約による一括返済が求められる可能性があります
  2. 不動産投資への影響
    • 投資物件に瑕疵が見つかった場合、修繕費用の発生や賃料収入の減少により投資利回りが悪化する可能性があります
    • 契約不適合責任の期間中は、売却時に責任を問われるリスクがあるため、投資回収計画に影響を与えます
  3. 不動産担保融資への影響
    • 不動産を担保とした融資において、担保物件に瑕疵が発見された場合、担保価値の再評価が必要になる可能性があります
    • 担保価値の下落により、追加担保の提供や一部繰上返済を求められるケースもあります

金融取引における対策

  1. 住宅購入時の対策
    • インスペクション(建物状況調査)の活用:専門家による建物検査を実施し、隠れた瑕疵を事前に発見する
    • 住宅瑕疵担保責任保険の確認:新築住宅の場合、売主が加入している保険の内容を確認する
    • 重要事項説明書の精査:不動産会社から提供される重要事項説明書に記載されている瑕疵担保責任に関する条項を確認する
  2. 不動産投資における対策
    • デューデリジェンスの徹底:投資物件購入前に、法的・物理的・環境的な調査を徹底して行う
    • 瑕疵担保責任免責特約の検討:個人間売買の場合、価格交渉と合わせて瑕疵担保責任免責特約の是非を検討する
    • 修繕積立金の確保:将来的な瑕疵発見に備え、十分な修繕積立金を確保しておく
  3. 金融機関との関係における対策
    • ローン契約時の特約確認:住宅ローン契約における瑕疵発見時の取扱いに関する特約を確認する
    • 物件価値の定期的な見直し:長期的な資産管理の観点から、物件価値の定期的な見直しを行う
    • 保険の活用:瑕疵担保責任保険以外にも、火災保険や地震保険などを活用してリスクをヘッジする

金融取引においては、瑕疵担保責任(契約不適合責任)に関するリスクを適切に評価し、必要な対策を講じることが重要です。特に不動産投資や高額