
企業型確定拠出年金の最大のデメリットは、原則として60歳まで資産を引き出すことができないという流動性の制約です。この制度は老後の資産形成を支援することを目的としているため、早期の現金化は想定されていません。
この流動性制約が問題となるケースは以下の通りです。
転職した場合の手続きも複雑で、転職先に企業型DCがある場合は移換手続きが必要で、ない場合はiDeCoへの移換が必要となります。この手続きを怠ると、資産が特定運営管理機関に移換され、管理手数料が継続的に差し引かれるリスクもあります。
特に若い世代にとって、30年以上という長期間にわたる資金拘束は、ライフプランニングの柔軟性を大きく制限する要因となります。
企業型確定拠出年金では、加入者が自己責任で資産運用を行うため、元本割れのリスクが常に存在します。このリスクは特に投資信託を選択した場合に顕著に現れます。
運用商品の種類とリスクレベル。
投資知識が不足している加入者にとって、適切な商品選択は困難を極めます。多くの企業では投資教育を実施していますが、限られた時間での理解には限界があります。
実際の運用では、以下のような失敗例が報告されています。
これらのリスクを軽減するためには、継続的な投資教育と適切な分散投資の知識が不可欠ですが、すべての加入者がこれを身につけることは現実的ではありません。
企業型確定拠出年金では、様々な手数料が発生し、これらのコストが運用成果を圧迫する重要なデメリットとなります。手数料の種類と負担者は企業の規約によって異なりますが、主要なコストは以下の通りです。
加入者が負担する可能性がある手数料。
これらの手数料は小額に見えますが、長期間の積み立てでは大きなコスト負担となります。例えば、月額2万円を30年間積み立てる場合、手数料率1%の差で最終的な受取額は数十万円の差が生じる可能性があります。
特に問題となるのは、企業が選定した運営管理機関のコスト構造です。加入者は運営管理機関を選ぶことができないため、高コスト体質の機関が選ばれていても変更することができません。
企業側の視点では、導入時の初期費用として制度設計費用、規約申請代行費用、システム導入費用などで数十万円から数百万円のコストが発生します。さらに継続的なランニングコストとして、毎年の投資教育費用、事務代行費用、システム維持費用が必要となります。
企業型確定拠出年金の大きな制約として、加入者が運用管理機関を自由に選択できないという問題があります。これは個人型確定拠出年金(iDeCo)との大きな違いでもあります。
運用管理機関選択の制約による具体的な問題。
この制約は、投資経験豊富な加入者にとって特に大きなフラストレーションとなります。例えば、個人でiDeCoや証券口座を利用している加入者が、より良い条件の金融機関を知っていても、企業型DCではその選択肢を利用できません。
運用商品の選択肢についても、企業が保守的な選定を行った場合、以下のような問題が生じます。
企業側の商品選定では、安全性を重視するあまり保守的になりがちで、結果として加入者の多様な投資ニーズに応えられない場合が多くあります。特に若い世代の積極的な運用志向や、投資経験豊富な社員の高度なニーズには対応しきれない現状があります。
企業型確定拠出年金の導入企業が直面する独自の課題は、従業員だけでなく経営層にも大きな負担をもたらします。これらの課題は他の福利厚生制度にはない、企業型DC特有のデメリットとして認識する必要があります。
継続的な投資教育義務による負担
企業には法的に従業員への継続的な投資教育義務が課せられています。この教育は一度実施すれば終わりではなく、定期的な実施が求められます。
人事労務部門への業務負担増加
企業型DC導入により、人事部門の業務は大幅に増加します。
選択制DC導入時の社会保険料問題
選択制企業型DCを導入した場合、従業員の社会保険料算定基礎となる報酬額が減少し、将来の厚生年金給付額が減る可能性があります。これは企業にとって以下のリスクを生みます。
システム運用とセキュリティリスク
企業型DCの運用では、機密性の高い個人情報を扱うため、厳格なセキュリティ管理が求められます。
これらの課題は、企業型DC導入を検討する企業にとって、単純な福利厚生制度の追加では済まない複雑な経営判断を求める要因となっています。特に中小企業では、これらの管理負担が経営資源に与える影響は無視できません。
厚生労働省の確定拠出年金制度に関する詳細情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/index.html