
確定拠出年金の加入者が受給開始前に死亡した場合、遺族は死亡一時金として積立資産の全額を受け取ることができます。この死亡一時金は、投資信託などの運用商品を売却して現金化された上で、手数料を差し引いた金額が一括で支払われます。
死亡一時金の特徴として、年金のように分割受取はできず、一括払いのみとなっている点があります。また、受給中に加入者が亡くなった場合は、既に受け取った年金額を差し引いた残りの資産が死亡一時金として支払われます。
申請から受取までの期間は、必要書類の提出後1~2ヶ月程度が一般的ですが、運用商品の種類確認などに時間がかかる場合は半年以上かかることもあります。遺族側で運用商品の売却タイミングを指定することはできないため、市場状況によって受取金額が変動する可能性があります。
確定拠出年金の死亡一時金を受け取れる遺族の範囲と優先順位は、民法上の法定相続人とは異なる独自の仕組みになっています。
受取人の優先順位は以下の通りです。
特に注目すべき点は、事実婚のパートナーも配偶者として認められることです。これは一般的な相続制度とは大きく異なる特徴で、確定拠出年金制度が生計維持に重きを置いていることを示しています。
生前に受取人を指定する場合は、配偶者、子、父母、祖父母、兄弟姉妹の中から選択することができます。指定受取人は最優先で死亡一時金を受け取る権利を持つため、確実に特定の人に資産を残したい場合は事前の指定が重要です。
死亡一時金の受取手続きは、企業型と個人型で若干異なります。企業型確定拠出年金の場合、事業主による資格喪失データの作成・送信が必要で、その後に遺族への案内が行われます。
一般的な手続きの流れは以下の通りです。
必要書類には通常、以下のようなものが含まれます。
個人型確定拠出年金(iDeCo)の場合、家族が加入していることに気づかない可能性があるため、日頃から家族との情報共有が重要です。運営管理機関から自動的に案内が送られることはないため、遺族自身が手続きを開始する必要があります。
死亡一時金の税制上の取扱いは、受取時期によって大きく異なるため注意が必要です。
死亡後3年以内の受取
死亡後3年以内に受け取った場合はみなし相続財産として扱われ、相続税の課税対象となります。ただし、「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額が適用されるため、多くの場合で相続税負担を軽減できます。
例えば、法定相続人が3人いる場合、1,500万円までは非課税となります。
死亡後3年経過後の受取
3年を経過してから受け取った場合は、受取人の一時所得として扱われます。この場合、みなし相続財産の非課税枠は使えませんが、一時所得の特別控除50万円が適用されます。50万円を超える部分について所得税・住民税が課税され、確定申告が必要になります。
死亡後5年経過後の扱い
死亡後5年を経過すると、死亡一時金は通常の相続財産として扱われ、遺産分割協議の対象となります。この段階では確定拠出年金法上の遺族が単独で請求することはできず、法的な相続手続きが必要になります。
特に事実婚のパートナーは、現行法では法定相続人になれないため、5年経過後の請求は困難になる可能性があります。
企業型確定拠出年金と個人型確定拠出年金(iDeCo)では、死亡時の手続きや注意点に重要な違いがあります。
企業型確定拠出年金の特徴
企業型の場合、事業主が手続きの窓口となるため、遺族にとって比較的手続きが分かりやすいというメリットがあります。事業主は死亡による資格喪失データを作成し、運営管理機関に送信する義務があります。
ただし、事業主から遺族への連絡は自動では行われないため、事業主側で遺族への適切な案内が必要です。また、退職手当制度からの移行資産がある場合は、速やかに一括移換を実施する必要があります。
個人型確定拠出年金(iDeCo)の注意点
個人型の場合、最も大きな問題は家族が加入していることを知らない可能性があることです。企業型のように会社経由での案内がないため、遺族自身が加入の事実を把握し、手続きを開始する必要があります。
このリスクを避けるため、以下の対策が重要です。
共通の対策ポイント
企業型・個人型に関わらず、以下の点に注意することで遺族の負担を軽減できます。
また、意外と知られていないのが、企業型確定拠出年金でも転職時の手続き漏れにより、個人型への移管が完了していないケースです。このような場合、死亡時の手続きが複雑になる可能性があるため、転職時の年金資産の移管状況を定期的に確認することが重要です。
確定拠出年金の死亡時手続きは、通常の相続とは異なる独特の仕組みを持っています。特に受取人の優先順位や税制上の取扱いについては、一般的な相続知識では対応できない部分があるため、事前の理解と準備が遺族にとって重要な意味を持ちます。