
マッチング拠出とは、企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入している企業において、会社が出してくれる確定拠出年金の掛け金に加えて、給与天引で自分のお金を積み増せる制度です。この制度は2012年1月の法改正によって導入され、従業員の自助努力による老後資産形成を支援する重要な仕組みとなっています。
マッチング拠出の金額には厳格な上限が設けられています。
具体例として、会社拠出分が15,000円の場合、従業員がマッチング拠出できるのは最大15,000円までとなり、確定拠出年金口座への拠出合計は30,000円が上限となります。
この上限設定には「企業年金は主たる拠出者は会社である」という考えが反映されており、企業の福利厚生制度としての性格を維持しながら、従業員の自助努力を促進するバランスの取れた制度設計となっています。
マッチング拠出の最大の魅力は、拠出した掛金が全額所得控除の対象となることです。これにより所得税と住民税の負担が軽減され、実質的な手取り収入の向上につながります。
具体的な節税効果の計算例。
所得税10%、住民税10%を課税されている従業員が月20,000円のマッチング拠出を行う場合。
つまり、年間24万円の拠出に対して実質負担は約19万円となり、約2割の税制優遇を受けられることになります。
さらに、運用面でも大きなメリットがあります。
実務面では、確定申告は不要で、年末調整での「小規模企業共済等掛金控除」により所得税の還付を受け、翌年の住民税も自動的に控除されます。
マッチング拠出を導入している企業の従業員は、個人型確定拠出年金(iDeCo)を併用することができません。この排他的な関係は、確定拠出年金制度全体の拠出限度額を適切に管理するために設けられています。
マッチング拠出とiDeCoの主要な違い。
項目 | マッチング拠出 | iDeCo |
---|---|---|
運営管理機関の選定 | 企業が決定 | 個人が選択 |
運営管理手数料 | 会社負担 | 個人負担 |
運用商品 | 企業型DCの商品ラインナップ | 個人型の商品ラインナップ |
口座管理 | 企業型で一括管理 | 個人で管理 |
手続きの簡便性 | 給与天引きで自動 | 個人で手続き |
注目すべき将来の制度変更として、2020年をめどにマッチング拠出とiDeCoの併用が可能になる制度改正が検討されていることが言及されています。これにより、従業員の選択肢がさらに拡大する可能性があります。
マッチング拠出の方が一般的には手続きが簡単で、会社負担部分が多いため従業員の負担が少ないという特徴があります。一方、iDeCoは運営管理機関や運用商品を自分で選択できる自由度の高さが魅力です。
転職時の取り扱いも重要なポイントです。マッチング拠出で積み立てた資産は、転職先でも企業型DCがあれば移管可能ですが、転職先にマッチング拠出制度がない場合はiDeCoへの移管を検討する必要があります。
マッチング拠出の手続きには、いくつかの重要な制約と注意点があります。まず、掛金変更は年1回に限り行えるという制限があります。ただし、やむを得ない理由により掛金拠出を停止し0円にすることや、0円から再開することはいつでも可能です。
多くの企業では、財形や共済の募集と同様に年1回の申込期間を設定しており、「○月○日~○月○日に加入の申出・掛金額変更を行ってください」といった形で運用されています。
マッチング拠出導入企業の現状。
この低い利用率の背景には、制度の認知度不足があります。従業員向けの十分な説明や教育が行われていない企業も多く、せっかくの税制優遇制度が活用されていない実態があります。
重要な注意点。
マッチング拠出を検討する際は、ライフプランシミュレーションを行い、家計全体の最適化を図ることが重要です。
マッチング拠出を効果的に活用するためには、長期的な視点での資産形成戦略が不可欠です。特に30代から40代の働き盛りの世代にとって、マッチング拠出は老後資産形成の中核となる制度の一つです。
年代別活用戦略。
30代前半の活用法。
30代後半〜40代の活用法。
50代の活用法。
マッチング拠出制度の将来展望。
企業年金連合会の調査結果を見ると、マッチング拠出制度はまだ発展途上にあります。利用率の向上に向けて、以下のような改善が期待されています。
税制改正の動向にも注目が必要です。拠出限度額の引き上げや、マッチング拠出とiDeCoの併用解禁など、制度改善に向けた議論が継続的に行われています。
企業にとってのメリットも見逃せません。
マッチング拠出は単なる節税手段ではなく、企業と従業員が協力して取り組む長期的な資産形成プログラムとして位置づけることが重要です。特に人生100年時代を迎える現在、60歳以降の長い老後生活を支える重要な基盤となる制度です。
制度を最大限活用するためには、定期的な見直しと家計全体での最適化を継続することが成功の鍵となります。まずは勤務先の制度内容を確認し、少額からでも始めてみることをお勧めします。