
ホールセール型CBDC(wCBDC)は、銀行やその他の認可を受けた金融機関の間で銀行間決済や証券取引に使用されるデジタル通貨の形態です。従来の中央銀行当座預金とは異なり、DLT(分散型台帳技術)やスマートコントラクトなどの新しい技術を活用してシステムを構築し、決済の利便性を高めることが期待されています。
現在のホールセール決済では、各銀行が独立した帳簿システムを持ち、銀行間決済はRTGS(Real Time Gross Settlement)システムを通じて処理されています。しかし、wCBDCでは全参加者が台帳・システムを共有することで、クリアリングプロセスが不要になり、シンプルで低コストな決済を実現できます。
この技術革新により、従来の決済システムが抱える複雑性や高コストの問題が解決され、24時間365日の稼働も可能になります。特に大口取引において、金融機関同士の決済処理が大幅に効率化されることが期待されています。
wCBDCの技術的基盤には、分散型台帳技術(DLT)とブロックチェーン技術が採用されています。このシステムでは、複数の金融機関が同一の台帳を共有することで、従来の複数台帳間でのクリアリング処理が不要になります。
決済プロセスは以下のような流れで実行されます。
プログラマビリティ機能により、スマートコントラクトを活用した自動決済処理も可能になり、従来の手作業による処理と比較して大幅な効率化を実現できます。また、**証券取引やデリバティブ取引の決済においても、資金と証券の同時決済(DVP)**が迅速に行えるようになります。
この技術的優位性により、金融機関は決済リスクの軽減と運用コストの削減を同時に実現できると期待されています。
国際的なwCBDCプロジェクトでは、クロスボーダー決済の効率化が主要な目標となっています。注目すべき事例として、シンガポール金融管理局(MAS)とカナダ銀行(BOC)が2019年に実施したUbinとJasperプロジェクトの接続実証があります。
このプロジェクトでは、外国為替取引やクロスボーダー証券取引の合理化において一定の成果を上げており、従来の決済システムと比較して処理時間の短縮とコスト削減を実現しました。
国際決済銀行(BIS)も積極的にwCBDCの研究を推進しており、プロジェクト・ジュラではホールセール型CBDCを利用した外貨清算の実現可能性を実証しています。この実験では、フランス銀行、スイス国立銀行、アクセンチュアが共同で参加し、技術的な課題と解決策を検証しました。
現在、wCBDCを用いたクロスボーダー決済には3つの主要なモデルが検討されています。
モデル3が最も高い相互運用性を提供する一方で、国際的な協調と統一されたガバナンス体制が必要となります。
wCBDCの導入は、金融機関に対して多面的な影響をもたらします。主要なメリットとして以下が挙げられます。
運営効率の向上 📈
リスク管理の改善 🛡️
一方で、導入に伴うリスクや課題も存在します。
技術的リスク ⚠️
制度的課題 📋
現在、**オーストラリア準備銀行では「プロジェクト・アカシア」**を通じて、これらの課題解決に向けた実証実験を進めており、2025年には具体的な成果報告が予定されています。
wCBDCの本格導入は、金融業界の構造的変化を促進する可能性があります。特に注目すべきは、従来の金融仲介機能の再定義です。
銀行業務の変革 🏦
現在の銀行間決済では、複数の中間銀行や決済システムを経由する必要がありますが、wCBDCによって直接的な金融機関間取引が可能になります。これにより、一部の仲介業務が不要になる一方で、新たな付加価値サービスの創出が求められます。
証券業界への影響 📊
wCBDCとセキュリティトークンの組み合わせにより、証券取引の決済プロセスが革新されます。特に、**資金と証券の同時決済(DvP: Delivery versus Payment)**が瞬時に実行できるようになり、決済リスクが大幅に軽減されます。
新たなビジネス機会 💡
wCBDCの導入により、これまで技術的・コスト的制約で実現困難だった金融サービスが可能になります。
競争環境の変化 ⚔️
従来の決済インフラに依存していた大手金融機関と、技術革新を活用する新興フィンテック企業との競争構造が変化する可能性があります。wCBDC技術を効果的に活用できる機関が競争優位性を獲得すると予想されます。
ただし、この構造変化には段階的なアプローチが必要であり、急激な変化は金融システムの安定性を脅かすリスクもあります。そのため、各国の中央銀行は慎重な導入戦略を検討しており、段階的な実証実験を通じて最適な実装方法を模索しています。
日本においても、国際的なプロジェクトの動向を注視しつつ、将来的な実用化に向けて技術や制度設計への積極的な参加が求められています。