元本保証での出資金受入れ・預り金禁止違反と刑事罰の実務的解釈

元本保証での出資金受入れ・預り金禁止違反と刑事罰の実務的解釈

元本保証での出資金受入れと預り金禁止違反の刑事罰

出資法違反の基本知識
⚖️
元本保証の禁止

不特定多数に対して出資金の全額または超える金額の払い戻しを約束する行為は違法です

🏦
預り金の禁止

銀行など法律で認められた金融機関以外が業として預金を受け入れることは禁止されています

⚠️
刑事罰

違反した場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金、もしくはその両方が科されます

元本保証での出資金受入れ禁止の法的根拠と具体例

出資法第1条では、不特定かつ多数の者に対して、後日出資の払い戻しとして「出資金の全額もしくはこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨」を明示または暗黙のうちに示して、出資金を受け入れることを禁止しています。

 

この規制の目的は、一般大衆から資金を集める際に、元本保証や確定的な利益配当を約束することで投資リスクを隠し、結果的に多くの被害者を生み出す詐欺的行為を防止することにあります。

 

具体的に禁止される行為の例

  • 「3カ月後に10%の利息を付けて出資金を払い戻します」と言って不特定多数から出資を募る行為
  • 「出資すれば高配当を約束します」といった勧誘で資金を集める行為
  • 「元本は保証されているから利息分を払い戻す」と投資話をもちかける行為
  • 過去の成功例を示しながら「この出資は安全確実」と勧誘する行為

これらの行為は、事業の成功・不成功を問わず、確定的に出資した元本またはそれを上回る利益配当の支払いを約束するものであり、出資法違反となります。

 

預り金禁止規制の対象となる行為と判断基準

出資法第2条では、銀行や信用金庫など他の法律に特別の規定のある者を除き、何人も「業として預り金」をすることを禁止しています。

 

「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受け入れであって、以下に該当するものを指します。

  1. 預金、貯金または定期積金の受け入れ
  2. 社債、借入金その他いかなる名義であっても、上記と同様の経済的性質を有するもの

金融庁のガイドラインによると、預り金に該当するための要件は以下の4つです。

  • 相手が不特定多数であること
  • 金銭の受け入れであること
  • 元本返還が約されていること
  • 主として預け主の便宜のために金銭を保管することを目的としていること

違反例

  • 利息が付くことを保証して、不特定多数の顧客から預金を受け入れる行為
  • 年3%の利息を付与することを約束して、不特定かつ多数の顧客から預金を受け入れる行為

重要なのは、どのような名目であっても、その経済的効果が預金や貯金など金融機関が行うような行為であれば該当するという点です。「業として」とは、反復継続の意思をもって預り金をすることを意味し、必ずしも営利目的は必要ありません。

 

元本保証での出資金受入れ・預り金禁止違反の刑事罰と両罰規定

出資法違反に対する刑事罰は厳しく設定されています。元本保証での出資金受入れ禁止(第1条)および預り金禁止(第2条)のいずれの規定に違反した場合も、同じ罰則が適用されます。

 

具体的な刑罰。

  • 3年以下の懲役
  • 300万円以下の罰金
  • またはその両方(併科あり)

これは出資法第8条第3項に規定されています。

 

さらに、出資法には両罰規定が設けられており、法人の代表者や従業員が違反行為を行った場合、行為者本人だけでなく、その法人に対しても300万円以下の罰金刑が科されます(出資法第9条第1項第3号)。

 

これは、組織的に行われる違法な資金集めに対して、法人としての責任も問うことで、より効果的な抑止力を持たせる目的があります。

 

金融庁による出資法に関するガイドライン - 貸金業法等の解釈に関する詳細な指針が掲載されています

出資金受入れ制限違反と詐欺罪の関係性

出資法違反の行為が同時に詐欺罪の要件も満たす場合、法律上は詐欺罪のみが成立するという特別な規定があります(出資法第8条第4項)。

 

詐欺罪(刑法第246条)の構成要件。

  • 欺罔行為(人を欺く行為)
  • 錯誤(相手方が錯誤に陥ること)
  • 処分行為(錯誤に基づいて財産の処分をすること)
  • 財産上の損害(財産的損害が生じること)

出資法違反と詐欺罪の違いは、主に「詐欺的意図」の有無にあります。出資法違反は、元本保証などの約束をして出資金を集める行為自体を禁止していますが、必ずしも最初から返済する意思がないという詐欺的意図までは要件としていません。

 

一方、詐欺罪は、最初から返済する意思がなく、虚偽の事実を告げて相手を騙して財物を交付させる意図が必要です。

 

実務上の処理

  1. 最初から返済する意思がなく、投資家を騙す目的で元本保証をうたって資金を集めた場合 → 詐欺罪
  2. 返済する意思はあったが、法律で禁止されている元本保証をうたって資金を集めた場合 → 出資法違反

詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役であり、出資法違反(3年以下の懲役)より重いため、悪質なケースでは詐欺罪で起訴されることが多いです。

 

元本保証での出資金受入れと金融商品取引法違反の境界線

出資法違反と混同されやすいものに金融商品取引法違反があります。両者は規制対象や目的が異なるため、正確に区別することが重要です。

 

金融商品取引法は、金融商品の取引や投資運用業を規制する法律で、無登録で投資運用業や投資助言業を行うことを禁止しています。一方、出資法は、元本保証をうたった出資金の受入れや預り金を禁止する法律です。

 

主な違いは以下の通りです。

項目 出資法違反 金融商品取引法違反
規制対象 元本保証をうたった出資金受入れ、預り金 無登録での金融商品取引業、投資運用業等
主な目的 一般大衆の保護、詐欺的行為の防止 投資者保護、金融商品取引の公正確保
違反例 「元本保証」で不特定多数から資金集め 無登録で投資ファンドの運用・助言
罰則 3年以下の懲役/300万円以下の罰金 5年以下の懲役/500万円以下の罰金など

実務上、以下のような区別がされます。

  • 単に「元本保証」をうたって不特定多数から資金を集めた場合 → 出資法違反
  • 業として(反復・継続して)投資の運用や助言を行った場合 → 金融商品取引法違反

両方の法律に違反する可能性がある場合は、より重い罰則を定める金融商品取引法違反として処罰されることが多いです。

 

金融商品取引法に関する解説 - 金融庁による詳細な法解釈が確認できます

元本保証での出資金受入れ・預り金禁止違反の実例と逮捕事例

出資法違反で摘発された実例を見ることで、具体的にどのような行為が違法とされるのか理解を深めましょう。

 

【事例1】ミカンのオーナー商法での出資法違反
2024年に発生したケースでは、ミカン農園のオーナー制度を利用して投資を募り、「元本保証」をうたって資金を集めた事業者が出資法違反で逮捕されました。投資家には「毎年一定の収益が得られる」と説明し、元本割れのリスクがないことを強調していました。

 

【事例2】仮想通貨投資を装った出資法違反
仮想通貨投資の専門家を名乗り、「毎月10%の確実な利益」「元本は絶対に保証」などと謳って不特定多数から資金を集めた事業者が出資法違反で摘発されました。実際には投資は行われておらず、新規投資家からの資金で古い投資家への配当を支払うポンジ・スキーム(自転車操業)となっていました。

 

【事例3】会員制クラブを装った預り金禁止違反
会員制の投資クラブを名乗り、会員から「預かり金」として資金を集め、運用益を分配すると約束していた事業者が出資法違反で逮捕されました。会員制としていましたが、会員の流動性が高く実質的に「不特定多数」からの資金集めと判断されました。

 

逮捕から刑事手続きの流れ。

  1. 逮捕(最大72時間の身柄拘束)
  2. 検察官による勾留請求(最大20日間)
  3. 起訴または不起訴の決定
  4. 起訴された場合は公判(裁判)へ

出資法違反の場合、詐欺罪などの他の犯罪と併せて立件されることも多く、その場合はより重い刑罰が科される可能性があります。

 

裁判例検索 - 出資法違反に関する過去の判例が検索できます

元本保証での出資金受入れ・預り金禁止違反を避けるための実務的対策

企業や個人が出資法違反を避けるための実務的な対策について解説します。

 

【出資を募る際の注意点】

  1. 元本保証の表現を避ける
    • 「元本保証」「必ず儲かる」「確実に返還」などの表現は絶対に使用しない
    • 投資にはリスクがあることを明示する
    • 過去の実績を示す場合も「将来の成果を保証するものではない」と明記する
  2. 適切な投資スキームの選択
    • 出資法に違反せず合法的に資金調達するには、適切な投資スキームを選ぶ
    • 匿名組合契約、任意組合、投資事業有限責任組合など、法律で認められた枠組みを利用する
    • 必要に応じて金融商品取引業の登録を検討する
  3. 対象者の限定
    • 不特定多数ではなく、特定の投資家に限定する
    • プロ投資家(適格機関投資家等)向けの私募形式を検討する
    • ただし、形式的に「会員制」としても実質的に不特定多数と判断されるリスクがある

【預り金禁止規制への対応】

  1. 前払い金の取扱い
    • 商品・サービスの前払い金は、確実に対応する商品・サービスを提供する
    • 返金条件を明確にし、預金類似性を排除する
  2. ポイント・電子マネーの発行
    • 返金や換金性を制限し、預金類似性を排除する
    • 発行総額や残高に応じた供託金の準備を検討する
  3. 専門家への相談
    • 新しいビジネスモデルを検討する際は、事前に弁護士や金融の専門家に相談する
    • グレーゾーンの場合は、金融庁に事前相談することも検討する

【企業のコンプライアンス体制】

  • 社内研修の実施:出資法を含む金融関連法規の教育を定期的に行う
  • 広告・勧誘資料のチェック体制:法務部門による事前チェックを徹底する
  • 内部通報制度:違法行為の早期発見のための仕組みを整える

これらの対策を講じることで、出資法違反のリスクを大幅に減らすことができます。特に新しいビジネスモデルを検討する際は、専門家への相談を欠かさないことが重要です。

 

金融規制に関する最新の法改正情報 - 金融庁による最新の規制動向が確認できます
以上の対策を実施することで、企業や個人は出資法違反のリスクを最小化し、合法的に事業を展開することができます。法令遵守は単なるリスク回避だけでなく、顧客からの信頼獲得にもつながる重要な経営課題です。