
出資法第1条では、不特定かつ多数の者に対して、後日出資の払い戻しとして「出資金の全額もしくはこれを超える金額に相当する金銭を支払うべき旨」を明示または暗黙のうちに示して、出資金を受け入れることを禁止しています。
この規制の目的は、一般大衆から資金を集める際に、元本保証や確定的な利益配当を約束することで投資リスクを隠し、結果的に多くの被害者を生み出す詐欺的行為を防止することにあります。
具体的に禁止される行為の例
これらの行為は、事業の成功・不成功を問わず、確定的に出資した元本またはそれを上回る利益配当の支払いを約束するものであり、出資法違反となります。
出資法第2条では、銀行や信用金庫など他の法律に特別の規定のある者を除き、何人も「業として預り金」をすることを禁止しています。
「預り金」とは、不特定かつ多数の者からの金銭の受け入れであって、以下に該当するものを指します。
金融庁のガイドラインによると、預り金に該当するための要件は以下の4つです。
違反例
重要なのは、どのような名目であっても、その経済的効果が預金や貯金など金融機関が行うような行為であれば該当するという点です。「業として」とは、反復継続の意思をもって預り金をすることを意味し、必ずしも営利目的は必要ありません。
出資法違反に対する刑事罰は厳しく設定されています。元本保証での出資金受入れ禁止(第1条)および預り金禁止(第2条)のいずれの規定に違反した場合も、同じ罰則が適用されます。
具体的な刑罰。
これは出資法第8条第3項に規定されています。
さらに、出資法には両罰規定が設けられており、法人の代表者や従業員が違反行為を行った場合、行為者本人だけでなく、その法人に対しても300万円以下の罰金刑が科されます(出資法第9条第1項第3号)。
これは、組織的に行われる違法な資金集めに対して、法人としての責任も問うことで、より効果的な抑止力を持たせる目的があります。
金融庁による出資法に関するガイドライン - 貸金業法等の解釈に関する詳細な指針が掲載されています
出資法違反の行為が同時に詐欺罪の要件も満たす場合、法律上は詐欺罪のみが成立するという特別な規定があります(出資法第8条第4項)。
詐欺罪(刑法第246条)の構成要件。
出資法違反と詐欺罪の違いは、主に「詐欺的意図」の有無にあります。出資法違反は、元本保証などの約束をして出資金を集める行為自体を禁止していますが、必ずしも最初から返済する意思がないという詐欺的意図までは要件としていません。
一方、詐欺罪は、最初から返済する意思がなく、虚偽の事実を告げて相手を騙して財物を交付させる意図が必要です。
実務上の処理
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役であり、出資法違反(3年以下の懲役)より重いため、悪質なケースでは詐欺罪で起訴されることが多いです。
出資法違反と混同されやすいものに金融商品取引法違反があります。両者は規制対象や目的が異なるため、正確に区別することが重要です。
金融商品取引法は、金融商品の取引や投資運用業を規制する法律で、無登録で投資運用業や投資助言業を行うことを禁止しています。一方、出資法は、元本保証をうたった出資金の受入れや預り金を禁止する法律です。
主な違いは以下の通りです。
項目 | 出資法違反 | 金融商品取引法違反 |
---|---|---|
規制対象 | 元本保証をうたった出資金受入れ、預り金 | 無登録での金融商品取引業、投資運用業等 |
主な目的 | 一般大衆の保護、詐欺的行為の防止 | 投資者保護、金融商品取引の公正確保 |
違反例 | 「元本保証」で不特定多数から資金集め | 無登録で投資ファンドの運用・助言 |
罰則 | 3年以下の懲役/300万円以下の罰金 | 5年以下の懲役/500万円以下の罰金など |
実務上、以下のような区別がされます。
両方の法律に違反する可能性がある場合は、より重い罰則を定める金融商品取引法違反として処罰されることが多いです。
金融商品取引法に関する解説 - 金融庁による詳細な法解釈が確認できます
出資法違反で摘発された実例を見ることで、具体的にどのような行為が違法とされるのか理解を深めましょう。
【事例1】ミカンのオーナー商法での出資法違反
2024年に発生したケースでは、ミカン農園のオーナー制度を利用して投資を募り、「元本保証」をうたって資金を集めた事業者が出資法違反で逮捕されました。投資家には「毎年一定の収益が得られる」と説明し、元本割れのリスクがないことを強調していました。
【事例2】仮想通貨投資を装った出資法違反
仮想通貨投資の専門家を名乗り、「毎月10%の確実な利益」「元本は絶対に保証」などと謳って不特定多数から資金を集めた事業者が出資法違反で摘発されました。実際には投資は行われておらず、新規投資家からの資金で古い投資家への配当を支払うポンジ・スキーム(自転車操業)となっていました。
【事例3】会員制クラブを装った預り金禁止違反
会員制の投資クラブを名乗り、会員から「預かり金」として資金を集め、運用益を分配すると約束していた事業者が出資法違反で逮捕されました。会員制としていましたが、会員の流動性が高く実質的に「不特定多数」からの資金集めと判断されました。
逮捕から刑事手続きの流れ。
出資法違反の場合、詐欺罪などの他の犯罪と併せて立件されることも多く、その場合はより重い刑罰が科される可能性があります。
企業や個人が出資法違反を避けるための実務的な対策について解説します。
【出資を募る際の注意点】
【預り金禁止規制への対応】
【企業のコンプライアンス体制】
これらの対策を講じることで、出資法違反のリスクを大幅に減らすことができます。特に新しいビジネスモデルを検討する際は、専門家への相談を欠かさないことが重要です。
金融規制に関する最新の法改正情報 - 金融庁による最新の規制動向が確認できます
以上の対策を実施することで、企業や個人は出資法違反のリスクを最小化し、合法的に事業を展開することができます。法令遵守は単なるリスク回避だけでなく、顧客からの信頼獲得にもつながる重要な経営課題です。