

ERMを正しく導入しても、リーマンショックで7割超の金融機関が損失を出しました。
ERMフレームワークとは、組織が直面するあらゆるリスクを体系的に識別・評価・対応する仕組みのことです。 中でも最も広く参照されるのが「COSO-ERM(Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)」で、2004年に第1版が公表され、2017年に大幅改訂されました。 abitus.co(https://www.abitus.co.jp/column_voice/cia/column_voice22.html)
COSOの名称は設立団体の略称で、米国の主要な会計・監査団体5つが共同で運営しています。 日本でも金融庁や日本内部監査協会が参照基準として位置付けており、銀行・保険・投資会社を問わず導入が進んでいます。 iiajapan(https://www.iiajapan.com/leg/data/ERM_TOP.html)
ERMという言葉は「Enterprise Risk Management(全社的リスク管理)」の頭文字です。 部門単位でリスクを管理する従来型の手法と違い、グループ全体を俯瞰してリスクのポートフォリオを把握する点が特徴です。 pwc(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/prmagazine/pwcs-view/202212/41-03.html)
2017年版COSO-ERMは、5つの構成要素と20の原則で体系化されています。 旧版(2004年)の8つの構成要素から大幅に再編され、「戦略との統合」が新たに強調されました。 javcerm(https://javcerm.jp/download/journal/2018-03.pdf)
5つの構成要素は以下のとおりです。 legalontech(https://www.legalontech.com/jp/startup-jam/coso)
旧版では「目標設定」「事象の識別」など8項目が横並びでしたが、2017年版は戦略立案の段階からリスクを組み込む設計に変わりました。 これは「リスク管理=守りの話」という固定観念を覆す重要な転換点です。 javcerm(https://javcerm.jp/download/journal/2018-03.pdf)
つまり、ERMは守るためだけでなく、攻めの意思決定にも使う枠組みです。 newton-consulting.co(https://www.newton-consulting.co.jp/bcmnavi/column/20170421_cosoerm2017.html)
リスクアペタイト(Risk Appetite)とは「組織が戦略目標を追求する中で許容できるリスクの量と種類」です。 ERMの核心概念であり、ここを設定しないままリスクマップを作っても「役に立っている気がしない」という状態に陥ります。 saa.or(https://www.saa.or.jp/dc/sale/apps/journal/JournalShowDetail.do?goDownload=&itmNo=35196)
金融機関での具体的な設定例を見ると、銀行なら「自己資本比率8%を下回るリスクは許容しない」「特定セクターの与信集中は総資産の15%以内」といった定量的な閾値で表現することが一般的です。 保険会社では「ソルベンシー比率が150%を下回るような事象を重大リスクとして管理する」という形が多用されています。 jp.smartsheet(https://jp.smartsheet.com/content/enterprise-risk-management-framework-model)
設定の手順は3ステップです。
リスクアペタイトが数値化されていないと、現場と経営層でリスクへの感覚がズレます。 例えばトップが「数百万円の損失リスクは積極的にとれ」と考えている一方、管理部門が「数百万円の損失可能性は絶対に排除すべき」と動いていた結果、意思統一が取れず好機を逃した事例が国内でも報告されています。 newton-consulting.co(https://www.newton-consulting.co.jp/bcmnavi/column/20150718_to_function_erm.html)
これは痛いですね。
2008年のリーマンショックは、ERMフレームワーク関係者にとって最大の衝撃でした。 金融業界は「あらゆる業界の中で最も強力で成熟したリスクマネジメント能力がある」と広く認識されていたにもかかわらず、世界的な金融危機で深刻な打撃を受けたからです。 javcerm(https://javcerm.jp/download/journal/2018-03.pdf)
失敗の原因として浮かび上がったのは、主に3点です。 acfe(https://www.acfe.jp/wp-content/uploads/2016/10/japan-conference-7th-report_11.pdf)
この反省を踏まえ、2017年版COSO-ERMでは「エマージングリスク(新興リスク)」の識別と、リスクの「速度・複雑性・持続性・回復度」といった新しい評価軸が追加されました。 javcerm(https://javcerm.jp/download/journal/2018-03.pdf)
意外ですね。ERM導入済みでも危機を防げなかった事実は、「導入=安心」という思い込みを正す重要な教訓です。 acfe(https://www.acfe.jp/wp-content/uploads/2016/10/japan-conference-7th-report_11.pdf)
ERMの機能不全を防ぐための参考情報として、ニュートンコンサルティングによる国内向け解説コラムが役立ちます。
ERMはなぜ機能しないのか|リスク管理Navi(ニュートンコンサルティング)
ERMフレームワークの次の進化として注目されているのが、ESGリスクとの統合です。 従来のERMが扱う市場リスク・信用リスク・流動性リスクに加え、気候変動リスク・社会的リスク・ガバナンスリスクをERMの枠組みに組み込む動きが2020年代に入って急速に広がっています。 controlrisks(https://www.controlrisks.com/jp/our-thinking/japanese/emerging-risk-iso-ts31050)
金融に関心を持つ個人投資家にとって、この点は意外に重要です。たとえば、ある企業がERMを導入していても、ESGリスクをスコープ外にしていた場合、気候関連規制が強化された際に想定外の損失が発生するリスクがあります。 実際、欧州の金融監督機関(EBA)は2024年から気候リスクのERMへの組み込みを大手金融機関に義務付けており、日本でも金融庁がガイドラインを整備中です。 controlrisks(https://www.controlrisks.com/jp/our-thinking/japanese/emerging-risk-iso-ts31050)
ESGとERMの統合状況を把握するには、企業が公開している「統合報告書」や「リスク管理体制の開示」を読む習慣が有効です。 SOMPOホールディングスなど国内大手保険グループは、ERMの枠組みの中に気候・自然災害リスクを明示的に位置付けており、IR資料から確認できます。 sompo-hd(https://www.sompo-hd.com/company/risk/deployment/)
これは使えそうです。
新興リスクへのERM対応については、Control Risksによる解説が参考になります。
新興リスクにどう備える?ISO/TS31050が示す全社的リスク管理の進化|Control Risks
ERMを「書類仕事」で終わらせないためには、実務的な導入ステップを押さえることが重要です。 一般的には年1回のフェーズI(全社リスクの洗い出し・評価・優先順位付け)と、日常的なフェーズII(選定されたリスクへの継続モニタリング)の2段階で運用します。 jipdec.or(https://www.jipdec.or.jp/library/report/20181018.html)
具体的な進め方は以下のとおりです。
活用ツールとして、SmartsheetなどのプロジェクトツールにERMテンプレートが用意されており、中小規模の金融機関でも比較的低コストで導入できます。 野村総合研究所のERMグロッサリーでは用語の標準定義を無料で確認できるため、社内の用語統一に役立ちます。 nri(https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/erm.html)
ERM(統合型リスク管理)用語解説|野村総合研究所(NRI)
ERMは導入して終わりではなく、継続的に更新することで初めて機能します。 PwC Japanの調査では、ERMの成熟度を5段階で評価した場合、「戦略との統合」と「リスクデータのインフラ整備」の2点が最も成熟度に差がつきやすい領域と報告されています。 この2点を優先的に整備することが、ERMを実質的に機能させる近道です。 pwc(https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/prmagazine/pwcs-view/202212/41-03.html)
ERMの全体像をさらに深く学びたい場合は、日本内部監査協会が公開しているERM資料集が包括的な情報源になります。