

金利が下がるほどCMO投資家の手元に戻るお金が増えて、かえって損をする。
CMO(Collateralized Mortgage Obligation、モーゲージ担保証券)は、住宅ローン(モーゲージ)を担保として発行されるMBS(Mortgage-Backed Securities)をさらに加工・再構成した金融商品です。MBSが「住宅ローンをまとめて証券化したもの」であるのに対し、CMOはそのキャッシュフロー(元利金の流れ)を複数のクラスに分割し、投資家ごとに異なるリスク・リターン特性を持たせた「二次的証券化商品」と位置づけられます。
米国ではジニーメイ(GNMA)・ファニーメイ(FNMA)・フレディマック(FHLMC)という3つの政府系機関(GSE)が、金融機関から住宅ローン債権を買い取り、プールしてMBSを発行します。CMOはこのMBSやパススルー証券を担保にして組成されます。つまり、住宅ローン → MBS(パススルー証券) → CMOという2段階の証券化構造がCMOの本質です。
CMOが生まれた背景には、パススルー型MBSが抱える「期限前償還リスク(プリペイメントリスク)」があります。住宅ローンの借り手はいつでも繰り上げ返済できるため、投資家が受け取るキャッシュフローのタイミングが読めず、機関投資家にとって運用しにくい商品でした。CMOはこの不確実なキャッシュフローを「トランシェ(Tranche)」と呼ばれる複数の優先順位クラスに振り分けることで、特定の投資家が望む残存期間・リスク水準に合わせた投資を可能にしました。これは使えそうです。
1983年にフレディマックが初めてCMOを発行して以降、この商品は急速に普及しました。米国のMBS市場残高は現在11兆ドル以上(約1,700兆円超)に達し、米国債に次ぐ第2位の債券市場となっています。政府系MBSだけで約8〜9兆ドルと市場の大部分を占め、毎日の取引高も約3,000億ドルに及ぶ巨大市場です。
| 商品名 | 特徴 | 主な発行体 |
|---|---|---|
| パススルーMBS | 住宅ローンの元利金をそのまま投資家にパスする基本形 | GNMA・FNMA・FHLMC |
| CMO | パススルーMBSのキャッシュフローをトランシェに分割・再構成 | FNMA・FHLMC・民間金融機関 |
| 非政府系MBS(RMBS) | 政府保証なし。信用リスクを投資家が直接負担 | 民間金融機関 |
つまり、CMOはMBSの進化形です。
参考リンク(PIMCOによるRMBS・CMOの詳細解説)。
RMBS(住宅ローン担保証券)とは | PIMCO
CMOの核心はトランシェ(クラス)の設計にあります。CMOには投資家ニーズに応じた多彩なトランシェが存在し、それぞれキャッシュフローの受取タイミング・リスクの大きさが大きく異なります。トランシェが原則です。
シークエンシャル(Sequential)型は最も基本的な構造で、金利収入は各トランシェに同時に配分されますが、元本返済(期限前償還を含む)は第1トランシェから優先的に行われます。第1トランシェが完全に返済されて初めて第2トランシェへ、という順番で元本が配分されるため、各トランシェで平均残存期間が大きく異なります。短期志向の投資家は前順位トランシェを、長期志向の投資家は後順位トランシェを選ぶことができます。
PAC(Planned Amortization Class)トランシェは、事前に設定されたスケジュール通りのキャッシュフロー配分を優先的に受け取る構造です。期限前償還速度が想定の範囲内に収まっている限り、安定したキャッシュフローが保証されます。余剰分や不足分は「コンパニオン(サポート)・トランシェ」が吸収する仕組みです。コンパニオントランシェはPACの安定性を支える代わりに、期限前償還リスクを多く引き受けることになります。PACが安定している分、コンパニオントランシェのリスクは集中します。
Z債(Zトランシェ・アクリュアル・トランシェ)は独特の構造を持ちます。他のトランシェが残存している間は利息の支払いが繰り延べられ、その分だけ元本に加算(アクリュアル)され続けます。他のトランシェが全て返済されて初めて、元本と蓄積された利息が一括で支払われる仕組みです。これにより、Z債は非常に長い実質残存期間を持つことになり、長期安定キャッシュフローを求める生命保険会社や年金基金に人気があります。
IO(Interest Only)とPO(Principal Only)は、CMOから利息部分だけ・元本部分だけを切り離した証券です。
IO・POはそれぞれ反対方向の金利感応度を持つため、ヘッジ目的でも使われます。意外ですね。
参考リンク(CMOのPACトランシェなど詳細な商品性解説)。
有価証券届出書(EDINET):PAC・CMOトランシェの詳細説明
CMO・MBSに投資する上で最も理解しておくべきリスクが「期限前償還リスク(プリペイメント・リスク)」です。住宅ローンの借り手は、元利金の一部または全額を予定より早く繰り上げ返済する権利を持っています。これがそのまま投資家のキャッシュフローに影響を与えます。
金利が低下すると、住宅ローン保有者は既存の高金利ローンを低金利ローンに借り換えるインセンティブが高まります。その結果、元本の早期返済が急増し、CMO投資家に元本が早期に戻ってきます。問題は、その資金を同等の利回りで再投資できないことです。金利が下がっているため、同水準のリターンを得るには、より低い利回りの商品で運用するしかありません。これが「再投資リスク」です。
逆に金利が上昇すると、借り換えが少なくなり期限前償還が減少します。すると、CMO・MBSのデュレーション(金利感応度の指標)が想定以上に長期化し、債券価格は通常の債券よりもさらに大きく下落します。
この「金利低下でも上昇でも通常の債券より不利になりやすい」という特性を「ネガティブ・コンベクシティ」と呼びます。
ネガティブ・コンベクシティが条件です。これを補うために、CMO・MBSは同格付けの一般社債や国債と比較して高めの利回りが設定されています。この利回りプレミアムがCMO投資の魅力であると同時に、リスクの対価でもあります。
PACトランシェは期限前償還速度が想定の範囲内(一般的にPSAモデルで100%〜300%程度)に収まっている限りは安定したキャッシュフローを実現できますが、速度が想定範囲を大きく外れた場合はその安定性が保証されなくなります。安定していると思って投資していたPACトランシェが、急激な金利変動局面で計画通りのキャッシュフローを生まないケースも現実に起こりえます。期限前償還の不確実性に注意すれば大丈夫です。
なお、政府系MBSは信用リスクがほぼゼロである一方、この期限前償還リスクが最大のリスクです。一方で非政府系MBS(プライベートラベルMBS)は信用リスクも加わります。結論は、どのタイプに投資するかでリスクの性質が根本的に変わります。
参考リンク(政府系MBSの期限前償還リスクの仕組みを詳説)。
証券化商品戦略(政府系モーゲージ担保証券) | Russell Investments
2008年のリーマンショックは、CMOをはじめとするMBS・証券化商品が世界的な金融危機を引き起こした歴史的な事例として知られています。この教訓は現在のCMO投資を考える上でも非常に重要です。
危機の発端はサブプライムローン(信用力の低い借り手向け住宅ローン)の急拡大です。2000年代前半、住宅価格が上昇し続ける中、信用力の低い借り手にも積極的にローンが組まれ、それが大量にRMBS(住宅ローン担保証券)として証券化されました。さらにこれをCDO(債務担保証券)として再証券化した「ABS CDO」が市場に大量供給されました。
格付け機関はこれらの上位トランシェにAAAという最高格付けを付与しました。しかし金融庁金融研究研修センターの分析によると、ABS CDOの損失率(損失見込額÷残高)は6〜7割に達したとされています。AAAの格付けがついていても、証券化が繰り返されることで「クリフ効果」(小さなショックで損失が急激に拡大する現象)が生じていたのです。痛いですね。
なぜこうなったのでしょうか? 証券化の優先劣後構造では、個別ローンの分散効果が働く一方で、住宅市場の悪化などのシステマティック・リスク(全体に影響するリスク)に対する感応度が実は高まるという性質があります。つまり、分散しているからリスクが低いと思うのは間違いで、同じ方向に損失が膨らむリスクがむしろ内在していたのです。
リーマンショック後、非政府系MBSの発行は激減しました。2006年にはMBS新規発行額の44%を占めていた非政府系MBSが、サブプライム危機以降はほぼゼロに近い水準まで落ち込みました。現在では政府系MBSが発行額のほぼ全てを占めており、信用リスクの観点では市場の安全性は格段に向上しています。リーマン以前と現在では、CMO市場の構造が根本的に変わっています。
参考リンク(ABS CDOのリスク特性と金融危機のメカニズムを詳細分析した金融庁資料)。
証券化と金融危機―ABS CDOのリスク特性とその評価 | 金融庁金融研究研修センター
CMOやMBSへの投資は、かつては大手機関投資家(年金・保険会社・中央銀行など)の専管領域でした。しかし現在は、日本の個人投資家も投資信託やETFを通じて比較的簡単にアクセスできるようになっています。これは使えそうです。
代表的な米国MBS ETFとして、以下の商品が楽天証券などの国内証券会社を通じて購入できます。
これらETFの特徴は、個別CMOを直接購入せずともMBS市場全体に分散投資できる点です。ETFを1口買うだけで数千本の住宅ローンに間接的に分散投資しているイメージです。
国内の投資信託でも、「野村PIMCO・世界インカム戦略ファンド」「損保ジャパン-TCW・MBSファンド」などがMBSを主要投資対象として組み入れています。グローバル債券ファンドの多くも、資産の一部としてMBS・CMOを保有しています。
ただし、投資する際には以下の点に注意が必要です。
MBS・CMOへの投資を検討する際は、既に保有している国内債券・外国債券ファンドにMBSが含まれていないかも確認しておくと二重投資を避けられます。目論見書の「主要投資対象」欄を確認する、これだけ覚えておけばOKです。
参考リンク(米国MBS ETFの詳細・市場規模・投資方法の解説)。
モーゲージ証券とは?米国MBS市場の特徴とETFの例 | 投信まるごとQ&A
多くのCMO・MBS解説記事では触れられていませんが、現在のMBS市場で最も大きな「隠れたリスク要因」の一つが、FRB(米連邦準備制度理事会)による大量保有とその売却(量的引き締め・QT)問題です。
FRBはコロナ禍の量的緩和(QE)で米国債とMBSを大量購入し、総資産はピーク時に約9兆ドルに達しました。2022年からのQTで総資産は徐々に圧縮されていますが、2025年9月時点でもFRBはMBSを約1.5〜2兆ドル規模で保有しています。問題は、MBSは満期が長く期限前償還に依存するため、FRBが保有残高を意図的に削減しようとしても自然消滅(期限前償還や満期到来)を待つしかないという点です。
2024年9月のロイターの報道によると、FRBは「10年後にもMBS残高が約6,000億ドル残る可能性がある」と試算しています。つまりFRBは長期にわたってMBS市場の最大保有者であり続け、その動向が市場のスプレッド(利回りの上乗せ)や流動性に影響を与え続けます。6,000億ドルということですね。
この視点が重要な理由は、FRBがもし方針転換してMBSを積極的に売却した場合、市場に大量の売り圧力がかかり、MBS・CMO全体の価格が下落するリスクがあるからです。逆に、FRBが市場安定化のためにMBS購入を再開するような局面(過去の量的緩和のような政策)では、MBS・CMO価格のサポート要因になります。
CMOやMBSに投資する際、FRBのバランスシート政策の方向性は必ずチェックしておきたい情報です。FOMC(米連邦公開市場委員会)の声明文やFRBの会見で「MBS保有」「QT」というキーワードが出た際は、特に注意が必要です。FRBの動向確認が原則です。
参考リンク(FRBのMBS保有と出口戦略に関する報道)。
米FRB、10年後MBS残高6000億ドルと予想 削減に苦慮 | ロイター