ユーティリティトークン判定基準の詳細解説と規制要件

ユーティリティトークン判定基準の詳細解説と規制要件

ユーティリティトークン判定基準

ユーティリティトークン判定基準の重要ポイント
⚖️
暗号資産該当性

代価弁済目的での使用制限と価格・発行数量の要件

🏛️
証券性判断

Howey基準による投資契約性の判定

📋
実務的要件

発行者の意図明示と技術的仕様の整備

ユーティリティトークンの定義と基本的性質

ユーティリティトークンは、特定のサービスやプラットフォームへのアクセス手段として機能するデジタルトークンです。映画鑑賞用のチケットや図書カード、遊園地への入場券といった従来の実用性のあるトークンのデジタル版として位置づけられます。
このトークンの最も重要な特徴は、価値が発行元に依存するという点です。ユーティリティトークン自体には独立した価値がなく、トークンの発行元であるサービスやコミュニティの価値向上に連動してトークンの価値も高まります。
📝 実用性の重要性

  • サービス利用権としての機能
  • プラットフォーム内での専用通貨としての役割
  • コミュニティメンバーシップの証明

ユーティリティトークンの暗号資産該当性判定基準

金融庁が2023年に改正した事務ガイドラインでは、ユーティリティトークンが暗号資産に該当するかどうかの判定基準が明確化されました。
暗号資産非該当となる要件(イ・ロ要件):
🔵 イ要件:使用意図の明確化

  • 発行者又は取扱事業者の規約や商品説明等で決済手段としての使用の禁止を明示
  • システム上、決済手段として使用されない仕様の実装

🔵 ロ要件:経済的制限

  • 価格:例えば1,000円以上(最小取引単位当たり)
  • 発行数量:例えば100万個以下(同じ種類のトークン)

これらの要件は「又は」の関係にあるため、どちらか一方を満たせば経済的制限の例示に該当します。ただし、発行後の使用実態によって判定が変わる可能性があることに注意が必要です。

ユーティリティトークンの証券性判断における Howey基準

米国SECは、ユーティリティトークンの証券性判断においてHowey基準を適用しています。この基準では以下の3要件をすべて満たす場合、投資契約として有価証券に該当するとされます:

  1. 資金の投資 💰
  2. 収益に対する合理的な期待 📈
  3. 他者の努力による収益の実現 🤝

Munchee事件の教訓 ⚠️
Munchee社のMUNトークンは当初ユーティリティトークンとして発行予定でしたが、SECは以下の理由で証券性を認定しました:

  • プラットフォームがトークンの需要を生み価値を高めること
  • ICO直後からセカンダリーマーケットでの取引が可能となること
  • トークン自体の価値上昇による収益への合理的な期待を生じさせたこと

この事件により、SECは「経済的実体に即した判断」を行うという立場を明確にしています。

ユーティリティトークンの分割可能性と価格判定

ユーティリティトークンの判定において、分割可能性は重要な検討要素となります。
分割可能なトークン(FT)の特別な考慮事項:
🔍 最小単位での判定
分割可能なトークンについては、その仕様上「一番小さい単位に分割された場合」を想定して価格や発行数量を検討する必要があります。
📊 価格算出の基準

  • 無償発行の場合:判断基準となる価格は0円
  • セカンダリー市場での取引:市場価格を考慮
  • 同じ種類のトークン:資金決済法第63条の11の2第1項の基準で判断

実務上の注意点:

  • 異なる性質・機能のトークンは別々に判定
  • 提供サービスのコンテンツごとにトークン種類が異なる場合は個別算出
  • 発行後の状況変化も見据えた設計が重要

ユーティリティトークンの実務的判定手順と対応策

ユーティリティトークンの適切な判定と運用のためには、体系的なアプローチが必要です。

 

📋 判定手順のチェックリスト
第1段階:基本設計の確認

  • トークンの用途と機能の明確化
  • サービス利用権としての性質の確立
  • 投資性を排除した設計の実装

第2段階:規制要件の充足確認

  • イ要件:決済手段使用禁止の明示
  • ロ要件:価格または発行数量の制限
  • 技術的仕様による制限の実装

第3段階:継続的モニタリング体制

  • 使用実態の定期的監視
  • セカンダリー市場での取引状況確認
  • 規制環境の変化への対応

🛡️ リスク軽減策
発行者側の対応:

  • 利用規約での決済手段使用禁止の明記
  • システム的な制限機能の実装
  • ユーザーへの継続的な注意喚起

マーケットプレイス運営者との連携:
複数のマーケットプレイスで取引される場合、それぞれにおいて決済手段としての使用禁止の明示が必要です。
技術的仕様の重要性:
システム上で決済手段として使用されない仕様を実装することで、より確実な非該当性を確保できます。
⚖️ 国際的な規制動向への対応
EU圏では、MiCAR(Markets in Crypto-Assets Regulation)において、日本と異なる暗号資産の定義が採用されており、「NFTにあたらないユーティリティトークン」については基本的にフルの規制がかかっています。
このような国際的な規制の違いを踏まえ、グローバルに事業展開する場合は各地域の規制要件を個別に検討する必要があります。日本国内で適切に判定されたユーティリティトークンでも、他国では異なる規制対象となる可能性があることを十分に認識しておくことが重要です。