tugテストのやり方と正しい手順・注意点を解説

tugテストのやり方と正しい手順・注意点を解説

tugテストのやり方・手順と臨床での正しい実施方法

正しいやり方で実施しても、開始位置のズレ1cmで結果が平均0.3秒変わります。


🔍 この記事の3ポイント要約
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TUGテストの基本手順

椅子からの立ち上がり→3m歩行→折り返し→着座までの一連動作を計測。標準化された手順を守ることが信頼性の鍵です。

⚠️
見落とされがちな測定誤差の原因

スタートの掛け声タイミング・椅子の高さ・歩行路面の状態が結果に影響。施設間で条件をそろえることが比較精度を高めます。

📊
カットオフ値と臨床解釈

転倒リスク判定の目安は13.5秒以上。ただし対象者の年齢・疾患によって解釈が異なるため、単一値での判断は危険です。


tugテストとは何か:目的と臨床的意義

TUGテスト(Timed Up and Go Test)は、1991年にPodsiadloとRichardsonによって開発された、移動能力と動的バランスを簡便に評価するための臨床テストです。


もとは高齢者の転倒リスクスクリーニングを目的として考案されましたが、現在はリハビリテーション全般・整形外科・神経内科・老年医学の現場で広く活用されています。つまり、転倒予防だけでなく多様な場面で使われるテストです。


実施に必要な器具は、秒針付きストップウォッチと高さ46cmの肘掛け椅子、3mのマーキングテープのみ。コストゼロで始められます。


この手軽さが普及の理由の一つでもありますが、「簡単だから適当でいい」と思うと測定誤差が蓄積します。標準化された手順を正確に守ることが、結果の信頼性を担保する条件です。


臨床的には以下のような目的で使われています。



  • 🏥 高齢者・術後患者の転倒リスクスクリーニング

  • 🦵 下肢機能・動的バランスの客観的評価

  • 📈 リハビリテーション効果の経時的モニタリング

  • 🧠 パーキンソン病・認知症の機能低下の把握

  • 📋 地域包括ケアでの介入判断の根拠づくり


tugテストのやり方:正確な実施手順ステップ別解説

手順を一つでも飛ばすと、施設間・評価者間での比較ができなくなります。これが原則です。


【準備】


まず椅子の座面高さを46cmに設定します。高さが異なると立ち上がりに要する筋力が変わり、タイムに影響します。床面は滑りにくい水平な場所を選び、椅子から3m先にマーキングをつけます。対象者は普段使用している補助具(杖・歩行器)を持参させてください。


【測定手順(ステップ別)】



  1. 対象者を椅子に深く腰かけさせ、背をもたれさせる

  2. 両手は大腿部または肘掛けに置く(事前に統一して記録)

  3. 「スタート」の合図とともにストップウォッチを開始

  4. 対象者が立ち上がり、3m先のマークまで歩く

  5. マークを折り返し、椅子まで戻って着座する

  6. 対象者の背がもたれに触れた時点でストップウォッチを止める


着座完了のタイミングが評価者によってばらつきやすい点です。「臀部が椅子に触れた瞬間」ではなく、「背がもたれに接触した瞬間」が国際標準です。意外ですね。


【測定回数と記録】


1回の練習試行の後、本測定を1〜2回行い、平均値または最良値を記録します。施設内でルールを統一しておくことが重要です。


























項目 標準条件
椅子の高さ 46cm(座面)
折り返し距離 3m(椅子前端から)
補助具 通常使用しているものを使用可
履物 通常使用している靴を着用
測定終了タイミング 背がもたれに触れた瞬間


tugテストの結果の解釈:カットオフ値と転倒リスク判定

カットオフ値だけ見て判断するのは危険です。


最もよく引用されるカットオフ値は「13.5秒」で、これ以上かかる場合は転倒リスクが高いとされています。ただしこの値は地域在住高齢者を対象とした研究から導き出されたものであり、疾患・入院・施設入所者にそのまま適用すると誤判定が生じます。


年齢別の参考タイム(地域在住高齢者の目安)は以下の通りです。



  • 🟢 60〜69歳:8〜10秒程度が正常範囲の目安

  • 🟡 70〜79歳:9〜12秒程度

  • 🔴 80歳以上:12秒を超えると要注意


パーキンソン病患者では、健常高齢者と同じ基準で評価すると感度が低くなることが報告されています。疾患特異的なカットオフ値の使用が推奨されます。これは使えそうです。


また、TUGテスト単体で転倒を予測する感度・特異度はそれぞれ約80%・56%程度(対象集団によって変動)とされており、他の評価指標(BBS:Berg Balance Scale、FRT:Functional Reach Testなど)と組み合わせることで精度が上がります。


結論は、単一の数値で判断しないことが基本です。


J-STAGE(理学療法学):TUGテスト関連の国内研究論文を検索できます。転倒予測精度・疾患別カットオフ値の根拠として活用可能


tugテスト実施時の注意点と測定誤差を防ぐポイント

同じ患者を同じ日に2人の評価者が計測すると、平均1.2秒のばらつきが出ることがあります。厳しいところですね。


評価者間信頼性を高めるためには、施設内でマニュアルを統一し、定期的に測定手順を確認し合うことが必要です。以下は特に見落とされやすい誤差要因です。



  • 📍 「スタート」合図とストップウォッチ操作のタイムラグ(0.1〜0.3秒の誤差)

  • 🪑 椅子の配置角度(壁に対して平行かどうかで歩き出しの方向が変わる)

  • 👟 評価日によって履物が変わっている(患者が毎回同じ靴を履いているとは限らない)

  • 🌡️ 時間帯の違い(午前と午後では筋緊張・覚醒水準が異なる)

  • 🗣️ 「できるだけ速く」の教示の有無(通常は「安全に、普通のペースで」が標準)


「できるだけ速く歩いてください」と指示すると、通常のTUGよりも平均2〜3秒速くなる場合があります。これは「Fast TUG」と呼ばれる別プロトコルであり、通常版と混同しないよう注意が必要です。


測定誤差を防ぐための実践的対策として、施設内チェックリストの作成が効果的です。1枚のA4用紙に手順を図解したものを計測場所に貼っておくだけで、評価者間のばらつきを大幅に減らせます。


tugテストの応用と他評価指標との組み合わせ:独自視点

TUGテストは「歩く速さ」だけでなく、動作の質的観察にこそ真の価値があります。


タイム計測に意識が集中しがちですが、熟練した評価者は計測中に以下の点を同時に観察しています。



  • 👁️ 立ち上がり時の体幹前傾の開始タイミング

  • 🦵 歩行中のステップ幅・歩隔の左右差

  • 🔄 折り返し時のターン方法(複数ステップか1回転か)

  • 🪑 着座時に手を使うかどうか、どの程度使うか


これらの質的所見はタイムには反映されませんが、転倒リスク因子や介入ポイントの特定に直結します。タイムだけが全てではありません。


近年では、スマートフォンのアプリや加速度センサーをTUG測定に組み合わせ、歩行フェーズを自動分解する手法も研究されています。例えばSTEPウォッチやGAITRiteシステムとの併用で、立ち上がり時間・歩行時間・着座時間を個別に分離して評価することが可能になっています。これにより「どのフェーズで時間を要しているか」という介入の優先順位づけが精度よくできます。


また、TUGをデュアルタスク(数を数えながら歩くなど)条件で実施する「Dual Task TUG(DT-TUG)」は、認知機能低下を反映する指標として注目されています。通常TUGとDT-TUGのタイム差が大きいほど、転倒リスクと認知機能低下の双方が疑われます。


厚生労働省:高齢者の身体機能評価に関するガイドライン(TUGテストの位置づけ・活用場面の記載あり)


認知症を疑う高齢者に対しては、MMSEやMoCAといった認知機能スクリーニングと組み合わせることで、転倒リスクと認知機能の複合評価が可能になります。これが現場での実践的な活用法として広がっています。


総じて、TUGテストは「秒数を測る作業」から「患者の機能像を読む技術」へと昇華させることが、医療従事者として求められる姿勢です。数字を出して終わりにしないのが専門職の仕事です。