
相続において現金を手渡しで渡す方法は、最もシンプルで手数料がかからないメリットがあります。しかし、この方法には重大なリスクが伴います。
現金手渡しの主なリスク:
現金手渡しを行う場合は、必ず贈与契約書を作成することが重要です。契約書には以下の内容を記載する必要があります。
贈与契約書は贈与の度に作成する必要があります。まとめて作成すると定期贈与と認定され、暦年贈与の非課税枠が適用されない可能性があります。
銀行振込による現金贈与も選択肢の一つです。振込記録が残るため証拠能力が高く、税務調査の際にも説明しやすいメリットがあります。振込を利用する場合は、いつ、どの口座にいくら送金したかを記録として残しておくことが重要です。
遺言書は相続において最も確実にお金を渡す方法の一つです。遺言書を作成することで、自分の意思で誰にどれくらい相続させるかを決められ、法定相続人以外の人にも財産を渡すことが可能になります。
遺言書の主なメリット:
遺言書には主に自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類があります。
自筆証書遺言は自分で作成できる手軽な方法ですが、法的要件を満たさない場合は無効になるリスクがあります。一方、公正証書遺言は公証人が関与して作成されるため法的安定性が高く、確実性の高い方法です。
遺言書を作成する際は、遺留分に配慮することが重要です。遺留分とは法定相続人が最低限受け取れる相続分のことで、これを侵害すると後にトラブルの原因となる可能性があります。
また、遺言書には財産目録を記載することで、遺産に何が含まれているのかをすぐに把握できるメリットもあります。
生前贈与は相続税の負担を軽減する効果的な方法です。生前贈与とは、亡くなってから財産を受け渡す相続と異なり、生きているうちに財産を受け渡すことです。
生前贈与の主な特徴:
生前贈与には暦年課税と相続時精算課税制度の2つの方法があります。
暦年課税では、1年間110万円までの贈与について贈与税がかかりません。この非課税枠を毎年活用することで、長期間にわたって計画的に財産を移転できます。
相続時精算課税制度は、生前贈与時には贈与税を軽減し、相続時に相続税として精算する制度です。この制度では2500万円まで贈与税がかからないメリットがあります。
生前贈与を行う際は、生前贈与加算に注意が必要です。相続開始前7年以内の贈与については、相続税の計算に加算される可能性があります。
生命保険を活用した生前贈与も有効な方法です。生存給付金付の保険商品を活用する方法や、保険料として生前贈与する方法があります。
相続税を効果的に軽減するためには、複数の制度を組み合わせて活用することが重要です。
基礎控除の活用
相続税には基礎控除があり、「3000万円 + 600万円 × 法定相続人数」までは相続税がかかりません。この基礎控除を超える財産がある場合に、生前贈与などの対策を検討する必要があります。
分割方法による税負担の違い
相続財産の分割方法には、現物分割と換価分割があります。
現物分割は財産の価値を変えずに分割できるメリットがありますが、財産の性質上分割が難しい場合もあります。換価分割は公平な分配を実現しやすいですが、売却による財産価値の減少や売却に時間がかかるデメリットがあります。
生命保険の非課税枠
生命保険金には「500万円 × 法定相続人数」の非課税枠があります。この枠を活用することで、相続税の負担を軽減できます。
配偶者控除の活用
配偶者には1億6000万円または法定相続分のどちらか多い方まで無税で相続できる配偶者控除があります。この制度を活用することで大幅な税負担軽減が可能です。
相続において最も重要なのは、家族間のトラブルを避けることです。実際の相続事例では、わずかな遺産でも兄弟間でトラブルが発生することが少なくありません。
トラブル回避のための基本原則:
透明性の確保
すべての財産について、誰がいくら受け取るかを明確にしておくことが重要です。隠し財産や不明な取引があると、後に大きなトラブルの原因となります。
公平性への配慮
法定相続人間で著しく不公平な分割を行う場合は、その理由を明確に説明し、理解を得ておくことが必要です。実家住まいの相続人がいる場合などは、寄与分の考慮も重要になります。
早期の意思疎通
相続が発生する前から、家族間で財産の分け方について話し合っておくことが大切です。突然の相続発生でパニックになることを避けられます。
専門家の活用
複雑な相続案件では、税理士や弁護士などの専門家に相談することで、適切なアドバイスを受けられます。費用はかかりますが、後のトラブル回避のための投資と考えるべきです。
記録の保持
すべての贈与や財産移転について、適切な記録を保持することが重要です。贈与契約書、銀行振込記録、不動産移転登記書類など、証拠となる書類は大切に保管しましょう。
定期的な見直し
家族構成の変化や財産状況の変化に応じて、相続対策を定期的に見直すことが必要です。一度作成した遺言書も、状況に応じて更新することが大切です。
相続でお金を渡す方法は多岐にわたりますが、それぞれにメリットとデメリットがあります。重要なのは、自身の状況に最も適した方法を選択し、家族間のトラブルを避けながら円滑な財産移転を実現することです。専門家と相談しながら、長期的な視点で最適な相続戦略を立てることをおすすめします。