
相続共有財産とは、被相続人が亡くなってから遺産分割が完了するまでの間、相続人全員で共有している状態の財産のことです。民法第898条では「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と規定されており、これを法的根拠としています。
共有財産となる範囲は、基本的に被相続人の相続財産すべてが対象となります。具体的には以下のようなものが含まれます。
一方で、共有財産とならないものもあります。受取人があらかじめ決まっている死亡保険金や退職金は、遺産分割の対象外となるため共有財産にはなりません。
共有財産が発生する主な原因は、遺産分割協議がまとまらない場合や、相続人間で平等に分割したい場合です。特に不動産のように分割が困難な財産については、共有分割が選択されることが多くなります。
相続共有財産には明確なメリットがある一方で、深刻なデメリットも存在します。まずメリットから見てみましょう。
✅ 共有財産のメリット
公平な分割が可能:不動産などの分割困難な財産でも、持分割合に応じて平等に相続できます。法定相続割合に基づいた分割により、相続人間の不公平感を解消できます。
節税効果が期待できる:共有不動産を賃貸物件として活用する場合、収益を分散することで各相続人の所得を抑え、所得税の節約が可能です。また、将来的に売却する際は譲渡所得税の3,000万円控除を人数分適用できるため、大きな節税効果が期待できます。
住宅ローン控除の適用:共有名義の場合、各共有者がそれぞれ住宅ローン控除を受けられる可能性があります。
❌ 共有財産の重大なデメリット
全員の同意が必要:不動産の売却や大規模な改修には共有者全員の同意が必須です。一人でも反対すれば何もできなくなります。
権利関係の複雑化:共有者に子どもや孫ができると権利関係がさらに複雑になり、将来的に意思決定が困難になります。兄弟2人の共有が、次世代では甥・姪を含む複数人の共有になる可能性があります。
固定資産税の問題:固定資産税は共有者全員に連帯納税義務が生じますが、実際の支払い分担方法でトラブルになることが多々あります。
持分の勝手な売却リスク:共有者は自分の持分のみであれば、他の共有者の同意なく第三者に売却できます。突然知らない人が共有者になるリスクがあります。
共有状態を解消する方法は大きく5つの方法があります。それぞれの特徴と手続きの流れを詳しく解説します。
1. 現物分割(物理的分割)
不動産を物理的に分筆して、各相続人が単独で所有する方法です。例えば100㎡の土地を2人で共有している場合、50㎡ずつに分割します。
2. 代償分割
特定の相続人が不動産をすべて取得し、他の相続人に代償金を支払う方法です。
3. 換価分割
不動産を売却して、売却代金を相続人間で分割する方法です。
4. 共有持分の売却
自分の持分のみを他の共有者や第三者に売却する方法です。
5. 共有持分の贈与・放棄
持分を他の共有者に贈与または放棄する方法です。
共有物分割請求という最終手段
話し合いがまとまらない場合は、共有物分割請求を裁判所に申し立てることができます。調停や訴訟を通じて法的に分割方法を決定する制度です。
共有財産の相続では、様々な税金が関わってくるため、事前の理解と対策が重要です。
相続税における共有財産の取り扱い
共有財産は各相続人の持分割合に応じて相続税が課税されます。例えば2,000万円の不動産を兄弟で1/2ずつ共有する場合、それぞれ1,000万円相当の相続として扱われます。
💡 活用できる節税策
小規模宅地等の特例:被相続人が居住していた宅地について、条件を満たせば最大80%の評価減が適用されます。共有名義でも相続人が実際に居住継続する場合は適用される可能性があります。
借家建付地としての評価減:賃貸に出している不動産は、借地人がいることで利用制限があるとして評価額が下がります。共有名義でも適用されるケースがあります。
共有持分の評価減:共有不動産は「単独では処分しづらい」という理由で評価額が下がる傾向があります。不動産鑑定士による個別評価で、さらなる評価減を実現できる場合があります。
譲渡所得税の特例活用
将来的に共有不動産を売却する場合、3,000万円控除が人数分適用できるため、大きな節税効果があります。例えば夫婦で共有している場合、最大6,000万円まで控除を受けられます。
所得税の分散効果
共有不動産を賃貸に出す場合、家賃収入を持分割合で分散することで、各人の所得税率を下げる効果があります。高所得者の場合、特に有効な節税策となります。
注意すべき課税関係
税務処理は複雑なため、税理士への相談を強く推奨します。
共有財産によるトラブルを未然に防ぐためには、相続発生前と発生後の両方で適切な対策を講じることが重要です。
🔒 相続発生前の予防策
遺言書の作成:被相続人が明確な意思を示すことで、共有状態の発生を防げます。特定の相続人に不動産を単独相続させる内容にすることで、将来のトラブルを回避できます。
生前の共有名義解消:既に共有名義になっている不動産がある場合は、生前に整理しておくことが賢明です。持分の買い取りや売却を通じて、単独名義に変更することをお勧めします。
家族会議の定期開催:相続について家族で話し合う機会を設け、各人の意向を事前に把握しておくことが重要です。感情的な対立を避けるためにも、冷静に話し合える環境作りが必要です。
不動産の価値把握:相続財産となる不動産の適正な価値を把握しておくことで、公平な分割方法を検討できます。定期的な不動産鑑定の実施をお勧めします。
⚡ 相続発生後の迅速な対応
早期の遺産分割協議:相続開始後は速やかに相続人間で協議を行い、共有持分の整理を進めることが重要です。時間が経つほど関係者が増え、話し合いが困難になります。
専門家の早期関与:弁護士、税理士、司法書士などの専門家に早い段階で相談することで、法的トラブルを未然に防げます。感情的な対立になる前に、客観的なアドバイスを受けることが大切です。
共有状態の放置禁止:「とりあえず共有にしておこう」という安易な判断は避けるべきです。共有状態は一時的な措置として捉え、できるだけ早期の解消を目指しましょう。
💼 実務上の重要ポイント
管理方法の明文化:やむを得ず共有状態が続く場合は、固定資産税の負担方法、修繕費の分担、収益の分配方法などを書面で明確化しておくことが重要です。
定期的な見直し:共有者の状況変化(結婚、転職、転居など)に応じて、定期的に共有関係の見直しを行うことをお勧めします。
次世代への影響考慮:現在の共有者だけでなく、次世代への影響も考慮した長期的な視点での対策が必要です。相続が重なることで権利関係がさらに複雑化することを避けるため、計画的な対応を心がけましょう。
これらの対策を講じることで、相続共有財産に関するトラブルの多くは回避できます。重要なのは早期の対応と専門家との連携です。一人で悩まず、適切なサポートを受けながら最適な解決策を見つけることが、円満な相続実現の鍵となります。