
相続放棄を検討している場合、最も注意すべきは相続財産の処分行為です。処分行為とは、相続財産の状態や性質を変える行為のことで、これを行うと法定単純承認が成立し、相続放棄ができなくなります。
預貯金関連の禁止行為:
預貯金の引き出しについて、「引き出しただけで使用していないなら処分ではない」という見解もありますが、相続放棄が認められなくなるリスクがある以上、手をつけないのが賢明です。万が一引き出してしまった場合は、そのお金を使わずに別途保管し、可能であれば被相続人の口座に再入金することが推奨されます。
不動産関連の禁止行為:
不動産の売却や解体は典型的な処分行為とされており、たとえ空き家であっても相続方法が確定するまでは処分してはいけません。
その他の金融資産:
これらの行為は、相続人として相続財産を承継する意思があるとみなされ、法定単純承認が成立する原因となります。
相続放棄が家庭裁判所で受理された後も、注意すべき行為があります。相続放棄後の相続財産の隠匿や消費は、せっかく受理された相続放棄を無効にしてしまう可能性があります。
隠匿行為の具体例:
相続財産の隠匿とは、相続財産のありかをわからなくすることを指します。相続放棄をすると、相続財産は他の相続人または次の順位の相続人のものになるため、これらの人に迷惑をかける行為は厳禁です。
消費行為の具体例:
相続財産の消費は、勝手に相続財産を処分して元の価値を失わせることを意味します。これらの行為により、相続放棄が無効となり、マイナスの遺産を含めて一切の遺産を相続しなければならなくなります。
相続放棄後の管理義務:
相続放棄をしても、占有している不動産については、他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存義務があります。この保存とは単に放置することではなく、壊れたら修理するなどの適切な管理が必要です。
相続放棄には厳格な期間制限があり、これを過ぎると相続放棄の権利を失います。自分が相続人になったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。
期間制限の詳細:
この3か月という期間は、相続財産や借金の調査、相続人間の調整、次の相続人への連絡など必要な手続きを全て完了するには短いと考えられています。そのため、相続放棄を検討する場合は早めの行動が重要です。
手続きの流れ:
期間内に決められない特別な事情がある場合は、家庭裁判所に申立てを行い熟慮期間を延長してもらうことも可能です。ただし、期間経過後に遡って延長することはできないため、早めの判断と手続きが不可欠です。
相続放棄を検討している場合でも、すべての行為が禁止されているわけではありません。民法では保存行為と短期の賃貸については例外的に認められています。
保存行為の具体例:
保存行為とは、財産の価値を減らさないように守る行為のことです。例えば、空き家になるよりも人が住んでいる方が建物の劣化を防げるため、相続放棄する前に故人名義の家に住み続けることも許可されています。
短期賃貸の条件:
葬儀費用の支払い:
社会通念上常識的な範囲の葬儀であれば、遺産から葬儀費用を支払っても問題ありません。ただし、過度に豪華な葬儀は処分行為とみなされる可能性があります。
判断が困難なケース:
これらの行為については、その状況や金額により判断が分かれるケースが多く、専門家への相談が推奨されます。経済的価値が重要なものについては、判断に悩む場合は受け取らないことが鉄則です。
相続放棄の手続きは書類作成自体は難しくありませんが、事前の判断や注意点が複雑で、失敗するリスクも存在します。万が一、知らずに法定単純承認に該当する行為をしてしまった場合の対処法を理解しておくことが重要です。
失敗パターンと対処法:
遺産分割協議書に署名してしまった場合:
遺産分割協議書への署名は相続人としての行為であり、原則として相続放棄できません。ただし、署名してしまった場合でも、特別な事情があれば専門家に相談することで解決策が見つかる可能性があります。
預貯金を引き出してしまった場合:
専門家相談のタイミング:
専門家選びのポイント:
予防策としての事前準備:
相続放棄を成功させるためには、手続き開始前からの準備が重要です。相続が発生する前から家族間で相続についての話し合いを行い、必要に応じて専門家との関係を築いておくことで、いざという時の迅速な対応が可能になります。
また、相続放棄は取り消しができない手続きのため、十分な検討が必要です。債務の全容把握、他の相続人への影響、後順位相続人への通知など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。
継続的な注意義務:
相続放棄が受理された後も、相続財産の管理義務は継続します。特に不動産を占有している場合は、他の相続人や相続財産清算人への引き渡しまで適切な管理を続ける必要があり、この点についても専門家のアドバイスを受けることが重要です。