
生活保護受給者の相続放棄については、原則として認められないというのが基本的な考え方です。この原則の根拠となるのが、生活保護法第4条の補足性の原理で、「利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と定められています。
具体的には、以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。
つまり、相続できる財産があるにもかかわらず相続放棄をすると、「利用しうる資産」があるのにそれを最低限度の生活を維持するために活用していないことになり、生活保護の受給資格を満たさなくなってしまいます。
しかし、最高裁昭和49年9月20日判決では「相続の放棄のような身分行為については、他人の意思によってこれを強制すべきではない」と判示されており、生活保護受給者であっても相続承認を強制されることはありません。
生活保護受給者であっても、以下の2つのケースでは例外的に相続放棄が認められます。
マイナス財産がプラス財産を上回るケース 🏠💸
相続財産において、借金やローンなどの負債が現金・預貯金や不動産などのプラス財産を上回る場合です。このような状況で単純承認すると、相続人は取得した財産をすべて売却してもなお借金を支払い続けなければならず、生活保護受給者がさらに困窮してしまいます。
多額の相続税や維持費が発生するケース 🏔️💰
これらの場合、相続することでかえって生活が困窮してしまうため、相続放棄が有効とされています。
処分が困難な山林などの不動産は、売却価値が低い一方で管理費や固定資産税などの維持費がかかるため、相続すると財産的にかえって厳しい立場となることが多いのです。
生活保護受給者が相続放棄を検討する場合、必ず担当のケースワーカーに事前相談することが重要です。相談なしに勝手に判断すると、生活保護の不正受給とみなされる可能性があります。
相談時に準備すべき情報 📋
財産調査の重要性 🔍
相続放棄の判断には、被相続人の財産状況を正確に把握することが不可欠です。主な調査対象は。
特に注意が必要なのは、一見プラスの財産に見える預金が実は債務の返済に充てられている可能性や、不動産の固定資産税・管理費用などの継続的な負担です。
相続放棄の期限 ⏰
相続放棄は相続の発生を知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。この期限は絶対的なものなので、司法書士やケースワーカーと相談しながら早めに検討することが重要です。
生活保護受給者が不適切な相続放棄を行うと、不正受給とみなされる重大なリスクがあります。不正受給と判断された場合、以下のペナルティが課される可能性があります。
不正受給のペナルティ ⚠️
不正受給とみなされる行為 ❌
生活保護なしでも生活できる程度の遺産があるにもかかわらず、生活保護継続のために相続放棄することは不正受給にあたります。
ケースワーカーや福祉事務所への相談なしに独断で相続放棄を決定することは、制度の趣旨に反します。
相続財産の存在を隠したり、虚偽の申告をして生活保護を受給し続けることは明確な不正受給です。
適切な対応方法 ✅
不正受給を避けるためには。
相続放棄が認められない場合でも、生活保護を継続できる可能性があります。これは比較的知られていない選択肢ですが、適切な財産活用により受給を継続することが可能です。
少額財産の相続 💰
実務においては、少額の財産であれば相続しても生活保護が継続されるケースがあります。これは「最低限度の生活を維持するために必要な範囲」という解釈によるものです。
具体的な基準は自治体により異なりますが、以下のような場合は継続が認められることがあります。
居住用不動産の特例 🏠
居住用の不動産については、生活に必要な住居として相続が認められる場合があります。ただし、以下の条件があります。
一方で、以下のような不動産は売却を求められる可能性が高いです。
分割相続による対応 👥
複数の相続人がいる場合、他の相続人に財産を集中させる遺産分割により、生活保護受給者の相続分を最小限に抑えることも可能です。この方法では。
専門家との連携体制 🤝
これらの方法を実行するには、以下の専門家との連携が重要です。
生活保護受給者の相続問題は、単純な法的手続きだけでなく、社会保障制度との複雑な関係性を理解した上で慎重に判断する必要があります。そのため、早期の専門家相談と綿密な計画立案が成功の鍵となるのです。