
相続手続きにおいて代理人が必要になる主なケースは以下の通りです。
未成年者と親権者がともに相続人になる場合
父が死亡して母と未成年の子が相続人になる場合、母と子の利害が形式的に対立するため、母が単独で遺産分割協議を行うことはできません。この場合、子の代理人として特別代理人を家庭裁判所で選任してもらう必要があります。
利益相反関係にあたるかどうかは行為の外形で判断されるため、実際には子供のためを思って遺産すべてを子供に相続させる内容で協議をするつもりであっても、特別代理人の選任が必要になります。
複数の未成年の子がいる場合の注意点
未成年の子が複数いる場合、子供同士で形式上利害が対立するため、それぞれについて特別代理人の選任が必要になります。
成年被後見人と成年後見人がともに相続人になる場合
認知症等で判断能力のない方(成年被後見人)とその成年後見人が相続人になる場合も、利益相反により特別代理人の選任が必要です。ただし、成年後見監督人が選任されている場合は、成年後見監督人が遺産分割協議等を行えるため、改めて特別代理人を選任する必要はありません。
代襲相続における特例
祖父が亡くなり未成年の子が代襲相続人になるケースでは、親が相続人にならないため、通常通り親が子を代理して遺産分割協議に参加すればよく、特別代理人の選任は不要です。
特別代理人の選任申立ては家庭裁判所で行います。手続きの流れは以下の通りです。
必要書類の準備
申立て先と審理期間
申立て先は未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所です。審理期間は通常1~2ヶ月程度ですが、事案によってはより長期間を要することもあります。
特別代理人の選び方
特別代理人には利害関係のない第三者を選ぶ必要があります。一般的には以下のような方が候補者となります。
審判確定後の手続き
家庭裁判所から特別代理人選任審判書が交付されたら、特別代理人が未成年者を代理して遺産分割協議に参加できるようになります。
遺産分割協議において代理人が果たす役割は重要です。
法定代理人との違い
通常の法定代理人(親権者等)は本人の利益のために広範囲な代理権を持ちますが、特別代理人は特定の法律行為(遺産分割協議等)に限定された代理権を持ちます。
遺産分割協議での注意点
特別代理人が遺産分割協議を行う際は、被代理人(未成年者等)の利益を最優先に考える必要があります。以下の点に注意が必要です。
実務上の特例
法定相続分どおりに相続登記を行う場合や、預貯金を相続する場合は、特別代理人の選任がなくても手続きが可能な場合があります。ただし、金融機関によっては手続きできない可能性もあるため、事前確認が重要です。
弁護士を代理人に立てる場合
相続問題が複雑化した場合、他の相続人が弁護士を代理人として立ててくることがあります。この場合、以下の点に注意が必要です。
相続放棄においても、一定の場合には特別代理人の選任が必要になります。
特別代理人が必要なケース
利益相反の判断基準
相続放棄をすることで親や特定の子の利益を図ることが可能なため、相続人同士に利益相反関係があると判断されます。
実際のケース例
亡くなった父に借金しかない状況で、母が借金をすべて背負うために子だけ相続放棄をさせるようなケースでも、特別代理人が必要です。
特別代理人が不要なケース
親と未成年の子(または成年後見人と被後見人)がともに(子が複数いる場合は全員)相続放棄をする場合は、未成年者等だけが不利益を被ることはないため、特別代理人の選任は不要です。
相続放棄の期限
未成年の子や成年被後見人が相続放棄する場合の期限は、法定代理人(親権者や成年後見人)が、本人のための相続の開始があったことを知ったときから3か月以内です。
相続代理人を選任する際の費用と選び方について、実務的な観点から解説します。
特別代理人選任にかかる費用
代理人への報酬
特別代理人への報酬は法律で定められていませんが、一般的な相場は以下の通りです。
公正証書遺言検索の代理人費用
行政書士へ公正証書遺言の検索を代理人として依頼する場合の費用相場は、公証役場1カ所への出張につき1万円です。
代理人選びの重要ポイント
相続に詳しくない専門家に相談してしまうと、問題が解決しない場合があります。税理士や司法書士でも、相続について詳しい方はごくわずかです。
特別代理人は被代理人と利害関係がない第三者である必要があります。親族であっても相続人でない場合は候補者となり得ます。
専門用語を多用せず、分かりやすく説明してくれる代理人を選ぶことが重要です。役所や法務局では専門用語で説明されて理解できないケースもあります。
相続案件の取扱い実績が豊富で、類似ケースの経験がある代理人を選ぶことで、スムーズな手続きが期待できます。
委任状作成時の注意点
代理人に検索等を任せる際は委任状が必要です。委任状には以下の権限を明記します。
委任状とともに、委任者の印鑑登録証明書・代理人の身分証明書も必要です。
トラブル回避のための事前準備
代理人選任前に以下の点を確認しておくことで、後のトラブルを回避できます。
相続代理人の選任は複雑な手続きを伴いますが、適切な代理人を選ぶことで、相続人全員の利益を守りながらスムーズな相続手続きを進めることができます。特に利益相反が生じる可能性がある場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします。