
その他有価証券の公正価値とは、「測定日時点で、市場参加者間の秩序ある取引において、資産を売却するために受け取るであろう価格または負債を移転するために支払うであろう価格」として定義されている。この概念は、企業固有の測定ではなく、市場に基礎を置く測定であることが重要なポイントとなる。
日本基準において、その他有価証券は原則として期末日の市場価格に基づいて時価を算定するが、期末前1ヵ月間の市場価格の平均を用いることも認められている。この選択は毎期継続適用が要求されており、従来の会計方針を変更する場合は慎重な検討が必要である。
市場参加者は独立の立場で専門知識を有し、取引を行う能力があり、かつ取引を自ら行う意思があるという4つの要件を満たす売り手・買い手のことを指している。この視点から、公正価値は市場における価値を表すものとして位置づけられる。
公正価値を算定するにあたって用いられる評価技法は、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチ、コスト・アプローチの3つに分類される。これらの手法は、資産の性質や利用可能な情報に応じて適切に選択される必要がある。
マーケット・アプローチでは、同一の又は比較可能な資産又は負債に関する市場取引から得られる価格情報を用いて公正価値を算定する。上場株式の場合は活発な市場での取引価格が利用され、これがレベル1インプットとして分類される。
インカム・アプローチは、将来キャッシュ・フローを貨幣の時間価値と投資の相対的リスクを考慮した利回りで現在価値に割り引く方法である。非上場株式の評価において割引キャッシュ・フロー法が多く用いられており、事業計画や予算が基礎となる将来キャッシュ・フローと割引率、永久成長率が重要な観察可能でないインプットとなる。
類似会社比較法も頻繁に使用される手法で、投資先の類似会社(上場企業)を複数社選定し、類似会社の株価などを用いて投資先の企業価値を測定する。EBITDA倍率などの評価倍率が重要な観察可能でないインプットとして開示される場合が多い。
公正価値測定は、使用するインプットの観察可能性に基づいてレベル1からレベル3までの3段階のヒエラルキーに分類される。レベル1は活発な市場での取引価格、レベル2は直接的または間接的に観察可能なインプット、レベル3は観察可能でないインプットを用いた測定を指す。
レベル3での測定における主観性の問題が重要なリスクとして挙げられる。限定的な情報しか利用できない場合には観察可能でないインプット(レベル3)を多く用いることとなり、公正価値測定における主観性が高まる。この結果、管理者バイアスが公正価値報告に影響を与えるリスクや確認バイアスのリスクが存在する。
破綻時の相殺権の考慮も重要な論点である。マスター・ネッティング契約などにより法的に強制力のある相殺権がある場合には、公正価値を算定するにあたって、取引相手の信用リスク・ポジションの相殺を考慮することができる。
市場の流動性変動への対応として、特に流動性に乏しいリスクが高いその他有価証券については、市場環境の変化に応じた適切な評価手法の見直しが求められる。
その他有価証券の減損処理は、時価が著しく下落したときに回復する見込みがあると認められる場合を除いて実施される。減損を行うか否かの判断については、期末前1ヶ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる取扱いが維持されている。
COVID-19等の市場変動環境下での留意点として、従来の会計方針を変更したいと考える企業があっても、この選択は毎期継続適用が要求されているため、従来から継続している評価方法に基づいて期末の時価を算定する必要がある。
非上場株式の公正価値測定の複雑性については、日本基準とは異なり、IFRSでは非上場株式も公正価値で測定される。各対象企業に適した公正価値評価モデルを用いて行われるが、当該モデルやモデルで使用されるインプットが適切に算定できているか、あらためて検討する必要がある。
修正純資産方式の注意点として、投資先の保有する資産の公正価値から負債の公正価値を控除して企業価値を算定する方法は、財産保有会社や投資会社などにおいては適切な方式となる可能性が高いが、その他においては使用が適切ではないケースもあると考えられるため留意が必要である。
監査実務においては、公正価値の監査に特有の課題が存在する。監査人は企業が提示する数値にアンカリング(固定化)する傾向があり、監査努力にもかかわらず、報告される公正価値には経営陣のバイアスが生じる実質的なリスクが存在する。
監査手続きの限界として、監査人が公正価値監査を実行する方法を開発する必要性が指摘されている。特に観察可能でないインプットを多用するレベル3の測定においては、より厳格な監査手続きが求められる。
会計基準の変化への対応では、歴史的原価アプローチから公正価値アプリケーションへの転換により、経済的実体をよりよく反映する利点がある一方で、財務報告における不確実性と主観性を引き起こす可能性がある。これにより、財務諸表の監査リスクが増大している。
文書化されたリスク管理戦略の重要性として、正味の未決済のリスク・ポジションに基づいて金融商品を管理している場合、以下の要件を満たす必要がある:
これらの要件を満たすことで、ビッド・アスク・スプレッド間の価格を用いた公正価値測定の信頼性を高めることができる。