

BMIが正常範囲でも、SMIが低下している患者の転倒リスクは最大2.3倍に跳ね上がります。
SMI(Skeletal Muscle Mass Index、骨格筋肉量指数)とは、四肢の骨格筋量を身長の二乗で除した値のことです。計算式は以下のとおりです。
「四肢」とは両腕と両脚の筋肉量を合計したもので、体幹の筋肉は含みません。体幹を除くのには理由があります。四肢の筋肉は加齢に伴う筋萎縮の影響を受けやすく、ADL(日常生活動作)との相関も高いためです。つまり機能的な筋肉評価に最も適した部位が四肢ということです。
BMIと混同しやすい指標ですね。BMIが体重全体を身長で割るのに対し、SMIは「筋肉量だけ」に着目します。同じBMI 22の患者でも、脂肪が多く筋肉が少なければSMIは低値になります。肥満型サルコペニアを見落とさないためにも、SMIを独立して評価することが重要です。
DXA(二重エネルギーX線吸収測定法)を用いた測定がゴールドスタンダードとされています。四肢を明確に分離して計測でき、体水分量の影響も受けにくい利点があります。一方でBIA(生体電気インピーダンス法)は装置が安価で外来でも使いやすいため、スクリーニングとして広く使われています。
BIA法での注意点は水分状態です。浮腫のある患者や透析患者では筋肉量が過大評価されるリスクがあります。測定は食後2時間以上空け、排尿後に行うのが原則です。
AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)が2019年に改定したガイドラインでは、SMIのカットオフ値が以下のように設定されています。
| 測定法 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| DXA法 | 7.0 kg/m²未満 | 5.4 kg/m²未満 |
| BIA法 | 7.0 kg/m²未満 | 5.7 kg/m²未満 |
2014年版と2019年版では女性のBIA法基準値が変わっています。2014年版では女性BIAのカットオフは5.7 kg/m²でしたが、DXAは5.4 kg/m²と別値です。これは測定原理の違いによる系統誤差を考慮した補正です。
意外ですね。「男女同じ基準値を使っている」と思っている方も多いですが、測定機器によってカットオフが異なります。
加齢に伴うSMIの変化も重要です。日本人のコホート研究では、60代以降で年間0.3〜0.5%程度の筋肉量低下が報告されています。60歳でSMIが7.2 kg/m²(男性)の場合、10年後には低下リスクが高い水準になりえます。早期から定期的なフォローが求められます。
性差については、男性は加齢初期から絶対値が大きいため、カットオフに達するまでの余裕があります。しかし女性は絶対値が低いスタート地点のため、閉経後の急激な筋肉量低下で短期間にカットオフを下回るケースが珍しくありません。閉経後の女性患者には特に注意が必要です。
サルコペニアの診断はSMI単独では完結しません。AWGS2019では以下の3指標を組み合わせます。
診断フローは「筋力低下または身体機能低下 → SMI低下」で確定診断となります。筋肉量だけ低下していても筋力・機能が正常であれば「サルコペニアの可能性あり」にとどまります。
結論は「SMIはスクリーニングの起点」です。
臨床で見落としやすいのが「高体重者のSMI偽正常」です。体重が重い患者は四肢筋量の絶対値も大きくなりがちで、SMIが見かけ上正常範囲に収まることがあります。しかし握力を測定すると基準以下、という乖離がよく起きます。これはSMIが身長補正のみで体重補正をしていないことに起因します。
体重補正指標(四肢筋肉量÷体重×100、ASM/BW)と組み合わせることで、肥満型サルコペニアの検出精度が上がります。これは検索上位の記事ではあまり取り上げられていない視点ですが、肥満患者を多く診る循環器・内分泌科のスタッフには特に意識してほしい点です。
握力計は1台2〜4万円程度で導入可能です。SMI測定と併用することで診断精度が大きく改善します。機器導入コストを考えると、まず握力計から始めるのが現実的な選択肢です。
SMIが低下したサルコペニア患者では、様々な臨床アウトカムが悪化します。具体的な数値で見てみましょう。
特に見落とされがちなのが薬物動態への影響です。筋肉は水溶性薬物の主要な分布先となります。筋肉量が20%低下すると、水溶性薬物の血中濃度が予想より高くなるケースがあります。
これは使えそうです。腎機能だけでなくSMIを参照した投与量設計という視点は、薬剤師との連携にも広がります。
周術期管理においても、術前のSMI値は術後合併症の独立した予測因子として認められています。大腸がん手術では、SMI低値群の術後感染性合併症発生率が高値群の約2.4倍というデータもあります。術前栄養介入の対象者選定にSMIを使うことが、現在のエビデンスでは推奨されています。
SMI低下への介入は「運動」と「栄養」の両輪が基本です。どちらか一方だけでは効果が限定的であることが、複数のRCTで示されています。
運動療法のポイントは以下のとおりです。
栄養面では、たんぱく質摂取量が鍵を握ります。
高齢者における推奨摂取量は体重1kgあたり1.2〜1.5gとされており、これは成人一般の推奨値(0.8 g/kg/日)より大幅に高い水準です。高齢者の多くが0.8 g/kg/日程度しか摂取できていないという調査データもあり、現状との乖離は大きいです。
たんぱく質の摂取タイミングも重要です。運動後30分以内の摂取が筋たんぱく合成を最大化するとされています。病院食の提供タイミングとリハビリのスケジュールを合わせることが、実際の臨床では意識されにくい点です。
ロイシン含有量が高いホエイプロテインや、BCAAサプリメントの補助的使用も選択肢になります。ただし腎機能が低下している患者では過剰なたんぱく質負荷に注意が必要です。腎機能確認が条件です。
ビタミンDも見逃せない栄養素です。血清25(OH)D濃度が20 ng/mL未満の患者では筋力低下との関連が報告されており、SMI改善介入と並行してビタミンD補充を行うことが推奨される場合があります。
厚生労働省:日本人の食事摂取基準2020年版(たんぱく質・高齢者の推奨量記載あり)
介入効果の評価には、3〜6か月ごとのSMI再測定が目安となります。短期間での再測定では変化が小さく見えることがあるため、介入前後の比較には最低12週間の期間を設けるのが原則です。