
連結範囲の判定基準は、企業グループの財務諸表を適切に表示するための重要な要素です。連結財務諸表の作成において、親会社はすべての子会社を連結の範囲に含めることが原則とされています。
この判定プロセスは主に4つのステップで構成されています:
子会社の判定には支配力基準と持株基準という2つの重要な考え方が存在します。
持株基準は、議決権のある株式の過半数(50%超)を所有しているか否かによって子会社を判定する考え方です。議決権の過半数を実質的に所有していれば子会社となり、所有していなければ子会社ではないと判定されます。
一方、支配力基準は他の会社を実質的に支配しているか否かによって子会社を判定する考え方です。持株基準のように議決権のある株式の過半数を所有していなくても、人事、資金、技術、取引等を通じて実質的に支配されていると認められる会社は子会社と判定されることになります。
実際の判定では、以下の段階的な判定を行います:
重要性の判断には量的重要性と質的重要性の両方の観点から検討する必要があります。
量的重要性は4つの基準により算出されます。
量的基準について、非連結子会社の割合が何割であれば重要性が低いと判断できる、といった一定の数値基準はないため、実質的な判断を行う必要があります。
質的重要性については以下の要素が考慮されます:
上場企業における監査法人の会計監査の観点では、最近の傾向として、量的な重要性がなくても、質的な重要性の有無を重視することが増えています。
実際の企業グループでは、単純な親子関係ではなく、より複雑な支配構造が存在することがあります。
間接保有のケースでは、親会社が子会社を通じて他の会社を支配する構造があります。例えば、P社がA社の株式を60%、A社がB社の株式を30%保有している場合、P社のB社株式の所有割合は30%であるものの、P社の子会社であるA社がB社の株式を30%所有しているため、合計するとB社の株式を60%所有することになり、B社はP社の子会社となります。
三角持株のケースでは、親会社が複数の子会社を通じて他の会社を支配する構造があります。P社がA社、B社をそれぞれ子会社とし、A社とB社がC社の株式を合計で70%保有している場合、P社はC社の株式をまったく保有していませんが、C社はP社の子会社となります。
これらの複雑な支配関係を判定する際の重要なポイントは以下の通りです。
企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」では、支配力基準に関する包括的かつ一般的な規定が設けられており、実態を踏まえた実質的な判断が求められています。
実務においては、公認会計士協会の監査・保証実務委員会報告第52号「連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い」をもとに検討を行います。
金融商品取引法の規制を受けるFX業界では、連結範囲の判定において特有の要素と実務上の留意点があります。
FX業界特有の支配関係判定要素。
実務上の重要な留意点。
FX業界では、レバレッジ規制や顧客資産の分別管理など、厳格な規制要件が存在します。これらの規制は連結グループ全体で遵守する必要があるため、形式的な株式保有関係だけでなく、実際の業務運営における支配関係が重要になります。
特に以下の場面では慎重な判定が求められます。
また、FX業界では顧客資産の分別管理義務があるため、連結処理における債権債務の相殺消去時にも、顧客資産部分を適切に識別・管理する必要があります。
監査法人による実務チェックでは、これらの業界特有の要素を踏まえた連結範囲の妥当性が重点的に検証されます。そのため、判定を誤らないよう必ず専門家に相談しながら進めることが重要です。
子会社以外の投資先企業については、関連会社に該当するかどうかを判定し、該当する場合には持分法を適用する必要があります。
関連会社の定義は、企業が出資、人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、子会社以外の他の企業の財務及び営業又は事業の方針の決定に対して重要な影響を与えることができる場合における当該子会社以外の他の企業とされています。
影響力基準による判定では以下の段階があります:
持分法適用の判定では、関連会社と判定された会社及び連結の範囲から除かれた子会社(非連結子会社)に対して、重要性がない場合を除き持分法が適用されます。
実務上の重要なポイントとして、影響力を与えることができないことが明らかな場合には、議決権の保有割合に関係なく関連会社に該当しないとされています。これにより、単純な財務投資の場合と、戦略的な事業投資の場合を区別した適切な会計処理が可能となります。
投資先企業との関係について、役員関係などの一定の条件に該当するかどうかが判定要素になり、実質的な影響力の有無を慎重に検討する必要があります。
連結の範囲から除外することができる例外的なケースとして、支配が一時的であると認められる企業や、連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業がありますが、これらの判定には高度な専門的判断が必要となります。