

痛みが「組織が治っても消えない」のは、あなたの治療が間違っているのではなく、神経系そのものが変わってしまっているからです。
末梢感作(peripheral sensitization)は、組織の炎症や神経損傷が長期化したときに起きる、侵害受容器レベルでの感受性変化です。 炎症性メディエーター(ブラジキニン、プロスタグランジン、NGFなど)が蓄積すると、CファイバーおよびAδファイバーの発火閾値が下がります。 結果として、通常なら痛みを引き起こさない程度の機械的・温熱刺激でも強い疼痛として伝わるようになります。 entry.jiho(https://entry.jiho.jp/Portals/0/JiMagazine/010_insight/202512/index.html)
これが「一次性痛覚過敏」です。 損傷部位の周囲に限定された圧痛や、熱への過敏反応がサインになります。注意が必要なのは、末梢感作は原因を取り除けば原則として回復できる点で、中枢感作とは根本的に異なります。 dnmjapan(https://dnmjapan.jp/central-peripheral-sensitization/)
末梢感作が持続する主な背景には以下があります。
- 🔴 炎症の慢性化(変形性関節症、滑膜炎)
- 🔴 末梢神経の微細損傷(術後神経痛、絞扼性神経障害)
- 🔴 筋筋膜の持続的な機械的ストレス
1. 脊髄後角ニューロンの興奮性亢進(WDR細胞のwindup現象)
2. 下行性疼痛抑制系の機能低下(PAG–RVM経路、青斑核–脊髄経路の活動低下)
3. シナプス可塑性の変化(LTP様変化による閾値の恒常的低下)
4. グリア細胞の活性化(ミクログリア・アストロサイトによる神経炎症)
中枢感作が成立すると、痛みは当初の損傷部位を超えて広がります。 損傷がないはずの部位にも二次性痛覚過敏や異痛症が現れ、「先週は腰が痛かったのに今週は肩も痛い」という臨床像になります。 dnmjapan(https://dnmjapan.jp/central-peripheral-sensitization/)
これは中枢感作の典型です。末梢から入力がなくても「痛い」という感覚だけが独立して残る状態であり、局所治療に反応しにくい理由がここにあります。 中枢感作が関与している可能性に早期に気づくことが、無効な反復治療を防ぐ鍵になります。 jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic(https://jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic.com/shinkei/29605/)
末梢感作と中枢感作を臨床で区別するには、「痛みの広がり」「刺激の種類」「部位の一致性」を系統的に評価することが重要です。
| 特徴 | 末梢感作 | 中枢感作 |
|---|---|---|
| 痛みの範囲 | 損傷部位に限局(一次性痛覚過敏) | 部位を超えて拡大(二次性痛覚過敏) |
| 非侵害刺激への反応 | 軽度〜なし | 異痛症として現れる |
| 局所介入の効果 | 有効なことが多い | 反応が乏しい or 悪化することも |
| 組織所見との一致 | 比較的一致 | 乖離が大きい |
| 随伴症状 | 少ない | 疲労・睡眠障害・気分障害を伴いやすい |
中枢感作の評価に有用なツールがCSI(Central Sensitization Inventory)です。 パートAでは25の症状を0〜4点で評価し、最大100点満点で中枢性感作症候群(CSS)の症状負荷を数値化します。 CSIのカットオフ値は疾患によって異なり、腰部脊柱管狭窄症の研究では軽度(0〜29)、中等度(30〜39)、高度(40以上)の3群に分けた検討が報告されており、術前CSIスコアが高いほど術後の治療成績が低下する相関が示されています。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15106/j_seikei75_1184)
慢性疼痛に運動を勧めることへの抵抗感は、臨床現場でも少なくありません。しかし運動療法のエビデンスは積み上がっています。これは使えそうです。
研究によると、慢性痛患者が週数回のペースで運動を3週間以上継続すると、主観的な痛みスコアの改善に「先立って」中枢性疼痛調節系の賦活が認められています。 つまり「まだ痛いけど神経系は変わっている」という段階が3週間前後に訪れることを示しています。 患者に「3週間は経過をみましょう」と伝える根拠がここにあります。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K01399/)
運動の種類については、以下の組み合わせが最も効果的という報告があります。 naruoseikei(https://naruoseikei.com/blog/2025/01/excersicepain.html)
- 🏃 ストレッチ+筋力トレーニング:単独ストレッチより痛み軽減効果が高い
- 🚴 ストレッチ+筋力トレーニング+有酸素運動:3種複合が上位に位置
- ❌ 単独ストレッチのみ:他の方法と比較して効果が低い傾向
単独ストレッチは期待しすぎないことが原則です。 運動誘発性鎮痛(EIH:Exercise-Induced Hypoalgesia)のメカニズムとして、内因性オピオイドの放出やドパミン—セロトニン—ノルアドレナリン系を介した下行性抑制の賦活が想定されており、中枢感作を直接ターゲットにしている点が重要です。 credentials(https://credentials.jp/2022-10/special/)
また、低強度運動であっても健常者で中枢感作の抑制効果が確認されており、高強度運動が困難な患者でも積極的に導入できる根拠となっています。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-15K01399/)
参考:慢性疼痛に対するリハビリテーション治療のエビデンスについて詳しく解説されています(運動療法の推奨度に関する記述を含む)。
局所介入と運動療法だけでは、中枢感作への対応として不十分なことがあります。その理由が「疼痛信念」です。 note(https://note.com/tomosan_bbptnote/n/n6b38a97f7de4)
中枢感作が関与している患者の多くは、運動恐怖(kinesiophobia)や破局的思考(pain catastrophizing)を抱えています。 これらは下行性疼痛抑制系をさらに抑圧し、中枢感作を維持・増悪させるフィードバックループを形成します。たとえば「動かすと組織が壊れる」という誤信念は、回避行動を生み出し、中枢感作の慢性化を促進します。 xpert(https://xpert.link/5120/)
そこで有効なのがPNE(Pain Neuroscience Education)です。
PNEは単なる「説明」ではありません。神経科学的な知識を用いて患者の痛みのモデルを書き換え、運動への恐怖を緩和する介入法です。 オーストラリア発のCFT(Cognitive Functional Therapy)やTBC(Treatment-Based Classification)の枠組みでも、このアプローチが組み込まれています。 xpert(https://xpert.link/5120/)
PNEを組み込む際の順序は以下の通りです。
1. CSIスコアで中枢感作の程度を確認する
2. 患者の現在の「痛みの説明モデル」を問診で把握する
3. 「痛みは組織損傷の量に比例しない」という神経科学的事実を説明する
4. 段階的な運動課題(graded activity)を導入する
5. 2週目・3週目で痛覚感受性の変化を再評価する
説明を先に、運動は後から、が原則です。 「運動を始めてください」とだけ伝えた場合と、神経科学的背景を説明してから運動を導入した場合では、患者のアドヒアランスと疼痛アウトカムに有意な差が出るとされています。臨床でこの順序を守るだけで、中枢感作への介入の成功率は大きく変わります。 note(https://note.com/tomosan_bbptnote/n/n6b38a97f7de4)
参考:中枢性感作と末梢性感作の違いをペインサイエンスの視点から詳しく解説しています。
中枢性感作と末梢性感作の違い|慢性疼痛を神経科学から理解する – DNM Japan
参考:CSI(中枢性感作性インベントリ)の採点・解釈方法と臨床活用法。
中枢性感作性インベントリ(CSI)|PDF & オンライン計算機 – Physiotutors
参考:神経生理学からみた痛みのメカニズムと分類について、J-STAGEに掲載された理学療法士向けの詳細解説。