
2017年に改正された金融商品取引法により、高頻度取引規制の対象が明確に定義されました。規制対象となる「高速取引行為」は、以下の要件を満たす取引として定義されています。
主要な規制対象要件:
この定義により、従来の証券会社や金融機関とは異なる高頻度取引専門業者も規制の網にかかることになりました。金融庁への登録制導入により、これまで監視が困難だった高頻度取引業者についても、検査や監督が可能な体制が整備されています。
特に注目すべきは、欧州のMiFID IIと異なり、日本の規制では高頻度性の要件は求められていない点です。つまり、発注の自動化と高速性が認められれば、メッセージ頻度の高低に関わらず規制対象となる可能性があります。
2018年4月より施行された登録制度により、高頻度取引業者は金融庁への登録が義務付けられました。現在、登録業者数は約60社程度になると予想されています。
登録制導入の背景と意義:
登録制により、高頻度取引業者は以下の義務を負うことになります。
また、証券会社等は、登録済みの高速取引行為者以外の者が行う高速取引行為に係る売買を受託することが禁止されています。これにより規制の実効性が確保されています。
規制対象となる高頻度取引業者には、厳格なシステム管理とリスク管理体制の構築が求められています。
必要なシステム要件:
欧州の規制を参考に、日本でも包括的なシステム・リスク管理義務が課されています。特に、アルゴリズム取引に起因するリスクへの対応として、以下の対策が必要です。
さらに、取引所レベルでの対策として、注文回数に応じた課金制度や、サーキットブレーカー制度も導入されています。これらの多層的な規制により、高頻度取引が市場に与える潜在的なリスクを最小化することを目指しています。
国際的な規制の動向を見ると、ドイツが高頻度取引規制の先駆けとして注目されます。2013年5月に施行された「高頻度取引法」では、より厳格な規制が導入されています。
ドイツの規制対象の特徴:
ドイツでは、「高頻度アルゴリズム取引手法を用いた自己の計算による金融商品の売買」を行う者に対してBaFin(連邦金融監督庁)の許可取得を義務付けています。これは、従来は銀行業や金融サービス業の許可が不要だった自然人・企業であっても、プロップ・トレードとして高頻度取引を行う場合には許可が必要となることを意味します。
日本の制度設計においても、このドイツ法の経験が参考とされており、登録制の導入や体制整備要件の設定に影響を与えています。ただし、日本では登録制を採用し、許可制よりも参入障壁を低く設定している点が特徴的です。
高頻度取引技術の進歩に伴い、規制対象の範囲や要件も継続的に見直しが行われています。特に、AI技術の発展により、従来の定義では捉えきれない新しい取引手法が登場している可能性があります。
今後の課題と対応方向:
金融庁の研究では、アルゴリズム化基準による新たなHFT判定手法も提案されており、「取引自動化」と「仮想サーバーの専有」を基準とした識別方法が検討されています。これにより、より精緻な規制対象の特定が可能になることが期待されています。
また、スピード競争の激化に伴い、マイクロ秒単位での取引が行われる現状を踏まえ、技術的な規制手法の高度化も必要となっています。今後は、リアルタイム監視システムの強化や、AIを活用した異常取引検知システムの導入が重要な課題となるでしょう。
規制当局としては、技術革新を阻害することなく、市場の公正性と安定性を確保するバランスの取れた規制運営が求められています。継続的な制度見直しと業界との対話を通じて、適切な規制枠組みの維持・発展が図られることになります。