

T2強調像で低信号を示す腱鞘巨細胞腫でも、約30%の症例では高信号域が混在し「悪性腫瘍と誤認して生検を急いだ結果、不要な侵襲を与えてしまう」ことが報告されています。
腱鞘巨細胞腫(Giant Cell Tumor of Tendon Sheath:GCTTS)は、腱鞘や滑膜から発生する良性の軟部腫瘍です。最も発生頻度が高いのは手指で、全症例の約85%を占めます。足趾・足関節にも10〜15%程度発生します。
MRIにおける最大の特徴は、ヘモジデリン(含鉄血素)の沈着による信号変化です。T1強調像・T2強調像ともに低〜中等度の信号を示し、特にT2強調像での低信号は本疾患を強く示唆します。これが基本です。
T2*強調像(グラジエントエコー法)では「blooming effect」と呼ばれる信号消失の増強が見られます。これはヘモジデリンの磁化率効果によるもので、単純X線や超音波では分からない内部性状を評価するうえで非常に有用です。
ただし、ヘモジデリンが少ない症例や発症初期では、T2強調像で低信号が明瞭でないこともあります。つまり「T2低信号がなければGCTTSではない」という思い込みは危険です。
造影MRIでは均一または不均一な増強効果が得られます。腫瘍の血管成分が豊富な場合は顕著な増強を示し、これが悪性腫瘍との鑑別で混乱を招く原因の一つになります。
| MRIシーケンス | 典型的な信号 | 備考 |
|---|---|---|
| T1強調像 | 低〜中等度 | ヘモジデリン沈着部は低信号 |
| T2強調像 | 低信号(特徴的) | 30%は高信号域が混在 |
| T2*強調像(GRE) | 著明な低信号 | blooming effectが診断の鍵 |
| 造影T1強調像 | 増強効果あり | 均一〜不均一 |
GCTTSの鑑別に最も問題となるのが、色素性絨毛結節性滑膜炎(Pigmented Villonodular Synovitis:PVNS)です。両者はともにヘモジデリン沈着を伴い、T2強調像で低信号を呈します。意外ですね。
両者の主な違いは発生部位と形態です。GCTTSは腱鞘から発生し孤立性・限局性の結節を形成するのに対し、PVNSは滑膜全体にびまん性に広がります。関節腔全体に病変が及ぶ場合はPVNSを、指や足趾の腱鞘周囲の結節性病変はGCTTSを強く疑います。
滑膜肉腫との鑑別も重要です。滑膜肉腫はT2強調像で高信号を示すことが多く、GCTTSとは逆のパターンです。ただし、滑膜肉腫でも出血・壊死を伴うと一部低信号域が出現するため、信号だけで判断するのは危険です。腫瘍の大きさ・辺縁・周囲浸潤の有無を総合的に評価することが原則です。
ガングリオンとの鑑別では、ガングリオンがT2強調像で著明な高信号を示す点がGCTTSとの大きな違いです。内部が均一な液体信号であれば、まずガングリオンを疑います。GCTTSは内部構造が不均一で、低信号結節が混在します。
鑑別に迷う場合、Dynamic MRI(動的造影MRI)が有用なことがあります。GCTTSは早期増強を示す傾向があり、悪性腫瘍の血流パターンと一部重なりますが、time-intensity curveのパターン分析で補助診断が可能です。
小病変のGCTTSは、最大径が5〜8mm程度の小結節として見つかることがあります。はがきの短辺(10cm)の10分の1以下です。この小ささでは、撮像条件が不適切だと容易に見落とします。
撮像プロトコルの選択が診断精度に直結します。手指・足趾の小病変を評価する場合、スライス厚は3mm以下(可能なら2mm)、FOVは手部・足部に限局した小FOV設定が推奨されます。大FOVで全体を撮像するだけでは不十分です。
GREシーケンス(T2*強調像)は必須です。blooming effectの確認なしにGCTTSを否定することはできません。施設によってはT2*を省略するプロトコルもありますが、腱鞘腫瘍が疑われる際は追加すべきです。これは必須です。
造影MRIの適応については、単純MRIで診断が確定できる典型例では省略可能です。ただし以下のケースでは造影を加えることで診断精度が上がります。
超音波検査との併用も有効です。GCTTSは超音波で低エコーの充実性結節として描出され、内部血流はドプラで確認できます。MRIの前段階のスクリーニングとして超音波を用いることで、MRIの撮像範囲の絞り込みに役立ちます。これは使えそうです。
参考として、日本医学放射線学会の軟部腫瘍MRIに関する指針も確認しておくことを推奨します。
日本医学放射線学会 公式サイト(軟部腫瘍画像診断ガイドライン関連情報)
GCTTSは良性腫瘍ですが、再発率が比較的高く、単純切除後の局所再発率は文献によって10〜45%と幅があります。再発は術後1〜3年以内に多く見られます。
術後MRIによる再発評価では、術後変化(瘢痕・線維化)と再発腫瘍の鑑別が問題になります。瘢痕組織はT2強調像で低信号を示すため、GCTTSのT2低信号パターンと類似します。厳しいところですね。
鑑別のポイントは造影効果のパターンです。瘢痕組織は造影早期に増強効果が低く、遅延相で徐々に増強される傾向があります。一方、再発GCTTSは造影早期から増強効果を示します。術後3ヶ月以内は炎症性変化で偽陽性となりやすいため、評価には術後6ヶ月以降が適切です。
再発リスクが高い因子としては、①腫瘍の多結節性、②辺縁切除(marginal resection)による摘出、③関節内への浸潤、が挙げられます。これらの因子がある症例では術後MRIのフォローアップを1年ごとに3〜5年間行うことが推奨されます。
再発が確認された場合の画像評価では、前回の術後MRIとの比較が重要です。同一プロトコル・同一コイルでの撮像を心がけることで、微細な変化の検出精度が上がります。これが条件です。
ここからは、教科書や上位記事では触れられにくい非典型例の話です。GCTTSの約5〜10%は、T2強調像で高信号を主体とする「高信号型」として存在します。この型は出血成分が少なく、線維成分や粘液変性が多い組織学的変異例です。
高信号型GCTTSは、ガングリオンや粘液腫との鑑別が困難になります。腫瘍内部に低信号の結節成分が一部でも混在していれば、GCTTSを考慮すべきです。「T2が高信号だからGCTTSは除外」とするのはダメです。
また、関節内GCTTSという比較的まれなタイプも存在します。全体の約5%で、膝・股関節・肘関節に発生します。この場合、関節液や滑膜炎との鑑別のため、脂肪抑制T2強調像と造影MRIの組み合わせが特に有効です。
小児・若年者での発生は成人と比べて頻度が低いですが、成長板への近接病変では骨端部への浸潤評価が必要になります。この場合、冠状断・矢状断の両方向でのT1強調像による骨髄浸潤の確認が重要です。
多施設研究(Teh et al., 2007年)では、GCTTSの術前MRI診断感度は83%、特異度は76%と報告されています。感度・特異度ともに完全ではありません。残る17%の偽陰性・偽陽性を減らすためには、臨床情報(触診所見・発症経過・部位)とMRIを組み合わせた総合的な判断が不可欠です。
GCTTSの病理診断の確定には最終的に組織診断が必要です。MRIは「どこに・どのくらいの大きさで・周囲との関係はどうか」を評価するツールです。MRIだけで確定診断するのは避け、臨床・画像・病理の三位一体で判断することが原則です。