術前評価ガイドラインで変わる周術期管理の質と安全

術前評価ガイドラインで変わる周術期管理の質と安全

術前評価ガイドラインで押さえる周術期リスク管理の要点

定期的に「全例で術前心電図を取れば安心」と思っていませんか?実は最新ガイドラインでは、低リスク患者への一律検査は推奨されておらず、過剰検査が術前遅延や医療コスト増加につながるとされています。


術前評価ガイドライン 3つのポイント
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リスク層別化が基本

患者の手術リスクと身体状態をスコアで層別化し、必要な検査を絞り込むことで、無駄な術前待機を削減できます。

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薬剤管理の最新推奨

抗血小板薬・抗凝固薬の周術期管理はガイドラインが数年ごとに改訂されており、古い知識のまま運用するとリスクが生じます。

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多職種チームでの評価

麻酔科・外科・内科・看護師が連携する多職種術前評価チームの導入が、合併症発生率の低減に有効とされています。


術前評価ガイドラインにおける患者リスク層別化の方法

術前評価の出発点は、患者を適切にリスク層別化することです。日本麻酔科学会や米国麻酔科学会(ASA)のガイドラインでは、ASA-PS(Physical Status)分類を基本軸として使用することを推奨しています。ASA-PS分類はⅠ〜Ⅵの6段階で構成されており、クラスⅢ以上の患者では術後合併症リスクが統計的に有意に上昇します。


手術侵襲リスクの評価も同時に行う必要があります。手術は低リスク(例:白内障手術、内視鏡手術)から高リスク(例:大動脈手術、主要腹腔内手術)まで分類され、患者リスクと手術リスクを掛け合わせてトータルリスクを判断します。つまり、患者と手術の両軸で見るのが基本です。


リスク層別化の際に活用されるツールとして、心臓手術リスクの場合はRevised Cardiac Risk Index(RCRI)が代表的です。RCRIは6項目(虚血性心疾患、心不全既往、脳血管障害既往、インスリン依存性糖尿病、クレアチニン値≧2.0mg/dL、高リスク手術)から構成されており、2点以上で周術期主要心血管イベント(MACE)のリスクが約6〜11%に上昇するとされています。これは実際の臨床判断に直結する数値です。


リスク評価に基づいて術前検査のオーダーを選択的に絞ることが、現在の主流の考え方です。「全例オーダー」から「必要な患者に必要な検査を」という考え方への転換が求められています。



  • ASA-PS Ⅰ〜Ⅱ:基本的に追加精査なしで多くの予定手術が可能

  • ASA-PS Ⅲ:合併疾患の安定性確認と専門科コンサルトを検討

  • ASA-PS Ⅳ以上:緊急性がない限り積極的な術前最適化が必要


術前評価ガイドラインが定める術前検査の適応と選択的オーダーの実践

「とりあえず術前セット検査」という慣習は、最新ガイドラインの視点では見直しが必要です。日本麻酔科学会の術前評価ガイドラインおよびNICEガイドライン(英国)では、年齢・合併症・手術種別に基づく選択的検査を明確に推奨しています。


一例を挙げると、50歳未満で合併症のない患者が低侵襲手術を受ける場合、術前心電図・胸部X線・血液生化学検査はルーティンとして推奨されません。これは、検査結果が陰性であっても臨床判断を変えないケースが多いという根拠に基づいています。意外ですね。


検査ごとの推奨基準の目安は以下のとおりです。



  • 🩸 血液検査(CBC・生化学):中等度以上の手術、貧血や腎機能障害が疑われる場合

  • ❤️ 心電図:40歳以上または心疾患リスクのある患者

  • 🫁 胸部X線:呼吸器疾患・心不全の既往がある場合、または65歳以上の高侵襲手術

  • 🧪 凝固検査:抗凝固薬内服中・肝疾患・出血傾向がある患者

  • 🤰 妊娠検査:月経年齢の女性で妊娠の可能性が否定できない場合


過剰検査は患者の不安を高め、偽陽性による不必要な精査が手術の遅延を招くこともあります。1件の不要な精査が数週間の手術延期につながるケースも報告されています。これが基本です。


参考として、英国NICEが提供する術前検査ガイドライン(Routine preoperative tests for elective surgery)は、表形式で年齢・ASA・手術グレード別の推奨をまとめており、実践的に使いやすい内容です。


NICE NG45: Routine preoperative tests for elective surgery(英語)


術前評価ガイドラインと心臓リスク評価:周術期MACEを防ぐための実践フロー

非心臓手術前の心臓リスク評価は、術前評価の中でも特に重要な領域です。ACC/AHA(米国心臓病学会/米国心臓協会)が発行する「非心臓手術前の周術期心血管評価ガイドライン」は、国際的に参照される標準的なフローチャートを提供しています。


このフローチャートの流れはシンプルです。



  1. 緊急手術かどうかの確認(緊急なら即手術室へ)

  2. 活動性心疾患(不安定狭心症・非代償性心不全・高度不整脈・重症弁膜症)の有無を確認

  3. 手術の侵襲リスク分類(低・中・高)

  4. 患者の運動耐容能(METs)の確認:4METs以上なら追加検査は不要とされる

  5. RCRIスコアによる臨床的リスク評価

  6. 必要に応じて心機能評価(心エコー、負荷試験)の追加


4METsという基準は、「1階から2階まで階段を止まらずに上れるか」に相当します。東京ドームのグラウンドを小走りで一周できるイメージ、と考えると分かりやすいです。これが条件です。


周術期β遮断薬の投与については、以前は広く推奨されていましたが、現在のガイドラインでは術前からβ遮断薬を使用中の患者は継続するが、新規投与は慎重に判断することとされています。PeriSOURCE試験やPASE試験などの大規模研究が判断基準の改訂に影響しました。


日本循環器学会:非心臓手術における合併心疾患の評価と管理に関するガイドライン(2023年改訂版)


術前評価ガイドラインに基づく薬剤管理:抗凝固薬・抗血小板薬の周術期対応

周術期の薬剤管理は、術前評価の中でも特にトラブルが起きやすい領域です。抗凝固薬(ワルファリン、DOAC)や抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル)の術前中断・継続の判断ミスが、術後の血栓塞栓症や大量出血につながるリスクがあります。痛いですね。


ワルファリン内服中患者では、術前5日程度から中断し、INRが1.5以下であることを確認してから手術に臨むのが標準的な対応です。ただし、機械弁置換術後など血栓リスクが高い患者ではヘパリンブリッジ療法を検討します。一方、DOACは半減期が短いため、腎機能に応じて24〜48時間前の中断で対応できることが多いです。


抗血小板薬については、冠動脈ステント留置後の患者が特に注意を要します。



  • ベアメタルステント(BMS)留置後:最低4〜6週間は二重抗血小板療法(DAPT)を継続

  • 薬剤溶出性ステント(DES)留置後:最低12ヶ月はDAPT継続が原則

  • やむを得ず手術が必要な場合:循環器科と麻酔科の合同で個別判断


アスピリン単剤については、現在の多くのガイドラインで「一次予防目的のアスピリンは術前7〜10日前に中断を検討」とされています。二次予防目的では継続のメリットとデメリットを比較して判断します。つまり、目的によって対応が変わるということです。


薬剤管理の確認漏れを防ぐために、術前評価外来やプレアドミッション外来で薬剤師が参画する体制を整えている施設が増えています。チームで確認する仕組みが有効です。


術前評価ガイドラインが見落としがちな「フレイル・サルコペニア評価」という独自視点

現在の術前評価ガイドラインが心疾患・呼吸器疾患・薬剤管理に重きを置く一方で、フレイル(虚弱)やサルコペニア(筋肉量減少)の術前評価は、まだ多くの施設で標準化されていません。これが盲点です。


しかし研究データは明確です。フレイルと判定された患者は、非フレイル患者と比較して術後30日死亡率が約2.5倍、術後合併症発生率が約1.8倍高いとするメタ解析が報告されています(Br J Surg, 2020)。高齢化が進む日本の手術患者層において、この問題は無視できません。


フレイル評価に使われる代表的なツールには以下があります。



  • 📏 Clinical Frailty Scale(CFS):9段階評価、2〜3分で完了する簡便なスクリーニング

  • 🦵 FRAIL Scale:疲労感・筋力低下・活動性低下・疾患数・体重減少の5項目

  • ⚖️ 握力測定:男性26kg未満・女性18kg未満がサルコペニアの目安


握力26kgは、2リットルのペットボトルを約13本同時に持ち上げる力に相当します。日常生活でどれほどの筋力が必要かが実感できます。これは使えそうです。


術前からの栄養介入・リハビリテーション(プレハビリテーション)によって、術後合併症リスクを下げられる可能性が示されており、特に待機手術では術前4〜8週間のプレハビリテーションプログラムの導入が今後の標準になると考えられています。フレイル評価を術前評価のルーティンに組み込むことが、これからの周術期管理の質を左右するポイントになります。