

筋肉量が標準でも、除脂肪体重の計算を一度も見直していない患者は栄養介入が3ヶ月遅れるリスクがあります。
除脂肪体重(LBM:Lean Body Mass)とは、体重から脂肪量を除いたすべての組織の重さを指します。筋肉・骨・内臓・水分がすべて含まれます。
計算式はシンプルです。
例えば体重60kg・体脂肪率25%の女性なら、60×(1−0.25)=45kgが除脂肪体重です。
BMIは身長と体重しか使わないため、同じBMI 22でも筋肉量が多い人と脂肪が多い人を区別できません。除脂肪体重はその差を数値で捉えられる点が臨床上の強みです。つまり、体の「質」を評価できます。
体脂肪率の取得方法によって計算精度は変わります。BIA(生体インピーダンス法)は手軽ですが、水分変動の影響を受けやすく、浮腫のある患者では過大評価になりやすい点に注意が必要です。DXA(二重エネルギーX線吸収法)が精度の基準とされており、研究領域ではゴールドスタンダードです。
体脂肪率を測定できない場面では、身長・体重・年齢・性別から除脂肪体重を推定する計算式が用いられます。代表的なものを以下に整理します。
| 推定式名 | 計算式(男性) | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| Boer式 | 0.407×体重 + 0.267×身長(cm) − 19.2 | 最も広く使用される標準式 |
| James式 | 1.1×体重 − 128×(体重/身長cm)² | 肥満者で過大推定の傾向あり |
| Hume式 | 0.3281×体重 + 0.3337×身長(cm) − 29.5 | 欧米人サンプルベース。日本人への適用に注意 |
意外ですね。Boer式は1984年に発表されたもので、40年以上経った現在でも薬物投与量計算の現場で主流として使われています。
これらの式は開発時のサンプル集団に依存します。日本人・アジア人を対象とした場合、欧米ベースの式では誤差が生じやすく、特に低身長・高齢者ではLBMを過小または過大評価するケースがあります。Boer式が条件です。ただし、対象患者の属性を確認した上で使うことが前提です。
サルコペニアの診断には筋肉量の定量化が必要であり、除脂肪体重はその代用指標として活用されます。AWGS2019(アジアサルコペニアワーキンググループ)の基準では、四肢骨格筋量指数(SMI)が男性7.0 kg/m²未満、女性5.7 kg/m²未満を低値と定義しています。
SMIはDXAで測定した四肢除脂肪量(kg)を身長(m)の二乗で割った値です。これが基本です。
低栄養評価においても除脂肪体重の変化は重要な指標です。体重が維持されていても、除脂肪体重が減少している場合は筋肉が落ちて脂肪が増加している「サルコペニア性肥満」を見落とすリスクがあります。
体重だけで安定と判断するのは危険です。除脂肪体重の経時的な変化を追うことで、栄養介入の効果判定がより精度高くできます。臨床栄養管理においては、体重変化と合わせてLBMの変動を月単位で確認することが推奨されています。
参考:AWGS2019サルコペニア診断基準(日本サルコペニア・フレイル学会)
日本サルコペニア・フレイル学会 ─ サルコペニア診断ガイドライン
腎機能評価でよく使われるCockcroft-Gault式によるクレアチニンクリアランス(CCr)推算には、体重として除脂肪体重(またはIBW:理想体重)を使うべきケースがあります。これは肥満患者で実体重を使うと腎機能を過大評価し、用量不足または過剰投与につながるためです。
これは使えそうです。特に腎移植後患者・重症患者・化学療法を受ける肥満患者では、適切な体重指標の選択が治療成績に直結します。
抗がん剤(例:カルボプラチン)の投与量算出に使うAUCベースの計算(Calvert式)でも、GFR推算の精度が用量精度に影響します。GFRをより正確に推算するためにLBMを活用するプロトコルを採用している施設も増えています。用量誤差が命取りになる場面では、体重の選択を一度立ち止まって確認することが大切です。
参考:腎機能推算と薬物投与量の解説(日本腎臓学会)
CKD診療ガイドライン ─ 日本腎臓学会(GFR・投与量計算関連)
除脂肪体重は「計算できること」より「解釈できること」の方が難しいです。数値を出した後に、それをどう臨床判断に結びつけるかが本質的な問題です。
見落とされがちな点として、「浮腫による偽高値」があります。重度の心不全・肝硬変・低アルブミン血症のある患者では、体重に占める水分量が増加しており、BIAで測定した除脂肪体重は実際の筋肉量より大幅に高く出ます。この場合、除脂肪体重が「高い=筋肉が多い」と誤解すると、栄養介入が遅れます。
また、除脂肪体重の「正常値」は人種・年齢・性別で異なります。これが条件です。日本人高齢者を対象にした研究では、欧米の参照値をそのまま使うと「正常」と判定されてしまうサルコペニア患者が見逃されるケースが報告されています。
独自の視点として注目したいのが、「除脂肪体重の経時変化速度」です。多くの現場では断面的な数値のみを評価しますが、LBMの変化速度(例:3ヶ月で1kg以上の減少)を追うことで、介入の緊急度をより早期に判断できます。月に0.3kg超の除脂肪体重減少は、栄養介入を即日検討するシグナルとして活用できます。これは見逃しやすいですね。
参考:体組成・サルコペニア評価の臨床応用(日本臨床栄養代謝学会)
日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)─ 栄養管理・体組成評価の最新ガイドライン