
絶縁状態であっても法定相続人としての地位は変わりません。たとえ何十年も音信不通であっても、両親から勘当されていても、他の兄弟と同様に相続権を持ち続けます。
法定相続人の権利には以下が含まれます。
遺留分は遺言書よりも優先される強い権利で、被相続人が「絶縁した兄弟には一切財産を渡さない」という遺言書を残していても、法定相続分の2分の1相当額を請求できます。
絶縁の理由が借金問題や価値観の違いであっても、法的には相続権の剥奪事由には該当しません。相続権を失うのは相続欠格や相続人廃除という非常に限定的な場合のみです。
実際の事例では、30年間絶縁状態だった兄弟が親の死後に突然現れて遺留分を請求し、他の相続人が予想外の金銭的負担を強いられるケースが増加しています。
遺産分割協議は相続人全員の参加と合意が絶対条件です。絶縁した兄弟の同意なく行った遺産分割は法的に無効となります。
連絡先が分かる場合の対応手順。
遺産分割協議書に必要な要件。
協議が成立しない場合の流れ。
家庭裁判所での遺産分割調停 → 調停不成立 → 遺産分割審判 → 法的拘束力のある判決
調停では相続人が出頭しなくても調停委員が仲介しますが、出頭しない場合は審判に移行し、法定相続分での分割が基本となります。
戸籍の附票や住民票を活用した所在調査により、多くの場合は連絡先の特定が可能です。探偵業者に依頼する方法もありますが、費用対効果を慎重に検討する必要があります。
連絡先が不明で音信不通の場合は不在者財産管理人制度を活用します。この制度は行方不明の相続人の代わりに財産管理を行う人を家庭裁判所が選任する仕組みです。
不在者財産管理人選任の手続き。
権限外行為許可の申立ても必要です。遺産分割協議への同意は通常の管理行為を超えるため、家庭裁判所の許可を得てから協議に参加します。
不在者財産管理人の特徴。
失踪宣告との使い分け。
生死不明期間が7年未満の場合は不在者財産管理人、7年以上の場合は失踪宣告を検討します。失踪宣告が認められると法的に死亡したものとみなされ、その人の子供がいる場合は代襲相続が発生します。
費用は事案により異なりますが、申立て費用800円、予納金は50万円から200万円程度が一般的です。
事前の対策として遺言書作成が最も効果的です。適切な遺言書があれば絶縁した兄弟の協力なしに相続手続きを進められます。
遺言書による対策のポイント。
効果的な遺言書の内容例。
第1条 不動産(所在地明記)は長男○○に相続させる
第2条 預貯金○○銀行○○支店の全額は長女○○に相続させる
第3条 ○○を遺言執行者に指定する
遺留分対策も重要です。絶縁した兄弟でも遺留分(法定相続分の2分の1)は請求できるため、以下の対策を検討します。
公正証書遺言の推奨理由。
遺言書があっても全財産の帰属が決まっていない部分は遺産分割協議が必要になるため、漏れのない財産リストの作成が重要です。
相続税対策との兼ね合いも考慮し、税理士との連携により最適な遺言内容を検討することをお勧めします。
法的に相続権を剥奪する方法として相続欠格と相続人廃除があります。単なる絶縁では適用されませんが、具体的な不法行為があった場合は検討可能です。
相続欠格事由(民法891条)。
相続人廃除事由(民法892条)。
相続欠格と相続人廃除の違い。
項目 | 相続欠格 | 相続人廃除 |
---|---|---|
要件 | 法定事由に該当 | 家庭裁判所の審判 |
手続き | 自動的に効果発生 | 申立てが必要 |
取消し | 不可能 | 取消し可能 |
実務上の注意点。
具体的な事例。
長年にわたる金銭要求、暴力的行為、介護放棄などが組み合わさった場合に相続人廃除が認められるケースがあります。しかし、単なる家族関係の悪化や価値観の相違では認められません。
申立て時期。
相続人廃除の申立て費用は800円で、調停や審判により数ヶ月から1年程度の期間を要します。
家族会議の重要性。
これらの法的手段を検討する前に、家族間での話し合いにより問題解決を図ることが望ましいとされています。専門家の仲介により、表面的な絶縁状態でも実際には修復可能なケースも少なくありません。