
バーゼル銀行監督委員会による金融規制改革において、従来のバリュー・アット・リスク(VaR)に代わって**エクスペクテッドショートフォール(ES)**が新たなリスク指標として採用されました。この変更は2008年の金融危機を受けて、よりテール・リスクを適切に捉える必要性から生まれました。
ESは「損失がVaRを超える場合に平均的にどの程度の損失を被るか」を測定する指標で、VaRが捉えきれない極端なリスクも考慮に入れます。これにより金融機関はより保守的なリスク管理が求められるようになりました。
🔹 ESの特徴
ESの計測において、計測期間は極めて重要な要素です。日本では1250営業日(約5年間)の観測期間が設定されており、これは過去の市場データを基にリスクを評価するための十分な期間とされています。
計測期間の設定には以下の考慮点があります。
📈 計測期間設定の要因
過去のデータから「悪いシナリオの1%以下に起こるイベントの中で平均値をとる」というESの計算において、十分なデータ量が必要となるため、1250日という期間は統計的な信頼性を保つために重要です。
日本証券クリアリング機構(JSCC)によるES計算の具体例
ESの実際の計算方法と1250日間のデータ使用について詳細な説明があります。
ESの計測において、保有期間調整は重要な技術的課題です。「短期間の市場変動から長期間の市場変動への調整」が必要となりますが、従来のルート√t倍法では本質的な問題があることが指摘されています。
保有期間調整で生じる主な問題。
⚠️ 保有期間調整の課題
特に、ムービング・ウィンドウ法とルート√t倍法はどちらも「本質的な問題が解決されないまま金融機関のリスク管理実務に利用されている」という現状があります。
ESの推計値を安定させるためには、VaRの数百倍から千倍程度のシミュレーション回数が必要であり、計測期間の適切な設定がより重要になっています。
ESの信頼性を検証するため、バックテストが不可欠です。「ESの検証は金融機関におけるリスクモデリング実務で最も困難なタスクの一つ」とされており、従来のVaRとは異なる検証手法が必要です。
最新のバックテスト手法には以下があります。
🔬 バックテスト手法の進化
計測期間内での市場環境の変化を考慮したバックテストにより、ESモデルの有効性を継続的に監視することが求められています。計測期間が長期化することで、異なる市場局面でのモデル性能評価がより重要になります。
日本銀行金融研究所によるESリスク計測の詳細研究
ESの推計値安定性と計測期間の関係について実証分析を含む包括的な解説があります。
日本では2022年4月以降、関連規制が整備され、段階的な適用が進んでいます。各金融機関の規模や内部モデル採用状況により適用時期が異なります。
📅 適用スケジュール
計測期間の実装においては、既存のVaRシステムからESシステムへの移行が必要であり、1250日間のデータ蓄積と処理能力の向上が求められます。
観察期間も設けられており、規制導入後も継続的な検証と必要に応じた修正が行われる予定です。これにより、計測期間の設定や調整方法についても今後さらなる改善が期待されます。
金融機関にとっては、計測期間の適切な設定がES規制への対応において最重要課題の一つとなっており、システム投資や人材育成を含む包括的な準備が必要となっています。