
デルタニュートラル戦略は、ポートフォリオのデルタ値をゼロに保つことで、価格変動による影響を受けないようにする投資手法です。この戦略の核心は、原資産の価格が上昇しても下落しても、ポートフォリオ全体の評価額がほぼ変わらない状態を作り出すことにあります。
具体的には、現物のビットコインを1BTC保有している場合、同じ数量の先物ショートポジションを組み合わせることで実現されます。価格が10万円上昇した際、現物では10万円の含み益が生じる一方、ショートポジションでは10万円の含み損が発生し、結果として評価額の変動がゼロになります。
この戦略により、トレーダーは価格変動のリスクを排除しながら、ファンディングレートなどの金利収入を安定的に獲得することが可能となります。
市場中立性を実現するための主要な手法には、現物と先物の組み合わせ、オプション取引の活用、ペアトレードによる相関資産の利用があります。
最も基本的な方法は、現物の買いポジションと無期限先物のショートポジションを同数量で組み合わせることです。この組み合わせにより、8時間ごとに支払われるファンディングレート(FR)がプラスの場合、ショートポジション保有者は金利収入を得ることができます。
オプション取引を用いる場合は、コールオプションとプットオプションを組み合わせてデルタ値をゼロにする手法が採用されます。デルタ0.5のコールオプションとデルタ-0.5のプットオプションを同時に保有することで、方向性リスクをヘッジしながらボラティリティを収益源とする戦略が可能です。
相関性の高い銘柄同士でロングとショートを組む方法も効果的です。市場全体のトレンドを中立化し、相対的な値動きの差を収益源にする戦略として活用されています。
デルタニュートラル戦略の最大のメリットは、価格変動リスクを大幅に抑制できることです。仮想通貨市場のような激しい値動きがある環境でも、資産全体の評価額が極端に上下しにくくなります。暴落局面では先物ショート側の利益が現物の含み損をカバーするため、資産保護効果が高いのが特徴です。
安定したインカム収益の確保も重要な利点です。ファンディングレートがプラスの環境では、ショートポジションを保有するだけで一定の金利収入を得られます。価格の上下によるキャピタルゲインではなく、継続的な収入源として機能します。
相場予想に依存しない取引が可能な点も魅力的です。市場の方向感を読む必要がなく、精神的な負担が軽減されるため、投資初心者でも比較的取り組みやすい戦略といえます。特に、バブル崩壊や急騰時のリスクをゼロにして、金利で安定して稼ぐことができる点が評価されています。
デルタニュートラル戦略には無視できないリスクも存在します。最も大きなデメリットは、上昇相場での機会損失です。価格変動を相殺する性質上、大幅な価格上昇があっても現物側の含み益を先物やオプションの損失が打ち消してしまいます。強気相場で大きく値上がりする通貨を抱えていても、キャピタルゲインを取り逃すことになります。
取引所リスクやプラットフォーム依存も重要な懸念事項です。資産を預けている取引所が破綻したり、ハッキング被害を受けたりすると、デルタニュートラルで価格変動リスクを抑えていても、預けた資金そのものが戻ってこない可能性があります。特に無期限先物やオプション取引は大手取引所に限られることが多く、分散が困難な場合があります。
ファンディングレートや相場状況の変動も考慮すべきリスクです。ファンディングレートは市場状況により変動するため、想定していた金利収入が得られない場合があります。また、税務処理や手数料負担の増加といった実務面でのコストも発生します。
デルタニュートラル戦略を効果的に運用するためには、動的ヘッジの概念を理解することが重要です。デルタ値は市場状況により常に変動するため、中立状態を維持するには継続的な調整が必要になります。
例えば、オプション取引において原資産価格が変動すると、オプションのデルタ値も変化します。当初0.5だったコールオプションのデルタが価格上昇により0.6に変化した場合、ポートフォリオ全体のデルタ値もずれてしまいます。このような状況では、追加的なポジション調整を行ってデルタ値をゼロに戻す必要があります。
ガンマやベガといった他のリスク指標も考慮すべき要素です。デルタニュートラルを維持しながら、ガンマによる二次的な価格変動リスクやベガによるボラティリティリスクもヘッジする高度な戦略も存在します。これらの手法により、より精密なリスク管理が可能となります。
機関投資家レベルでは、強化学習や量的手法を用いて最適なヘッジ戦略を構築する研究も進んでいます。取引コストを考慮しながら、トレーダーの目的関数に応じた最適解を求める手法が開発されており、今後のデルタニュートラル戦略の発展に寄与することが期待されています。