懲戒処分と退職金の関係や影響は

懲戒処分と退職金の関係や影響は

懲戒処分と退職金の関係

懲戒処分と退職金の関係
📊
退職金の性質

賃金の後払い、功労報償、生活保障の側面がある

⚖️
懲戒処分の影響

退職金の減額や不支給の可能性がある

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判断基準

非違行為の内容や程度、勤続年数などを総合的に考慮

 

懲戒処分による退職金への影響

懲戒処分を受けると、退職金に影響が出る可能性があります。特に懲戒解雇の場合、退職金が減額されたり、最悪の場合は全額不支給となることもあります。しかし、単に懲戒処分を受けたからといって、自動的に退職金が不支給になるわけではありません。

 

退職金には、賃金の後払いとしての性格や、長年の勤続に対する功労報償としての性格、さらには退職後の生活保障としての性格があります。そのため、懲戒処分を理由に安易に退職金を不支給とすることは認められません。

 

退職金の減額や不支給が認められるのは、従業員の行為が会社に重大な損害を与えたり、社会的信用を著しく失墜させたりするなど、これまでの勤続の功労を抹消してしまうほどの重大な非違行為があった場合に限られます。

 

退職金不支給の条件と就業規則の重要性

退職金を不支給とするためには、まず就業規則や退職金規程に、懲戒解雇の場合に退職金を支給しない旨の規定が必要です。ただし、規定があるだけでは不十分で、実際の非違行為の内容や程度が退職金を不支給とするほど重大なものであるかどうかが判断されます。

 

就業規則に退職金不支給の規定を設ける際は、以下のような点に注意が必要です:

 

1. 懲戒解雇の場合だけでなく、懲戒解雇に相当する行為があった場合も対象とする
2. 退職後に懲戒解雇事由が発覚した場合の取り扱いも明記する
3. 不支給だけでなく、減額の可能性も規定しておく
4. 具体的な減額や不支給の基準を明確にする

 

厚生労働省のモデル就業規則を参考にした退職金規程の例

 

懲戒処分と退職金に関する判例

懲戒処分と退職金に関しては、多くの裁判例があります。以下にいくつかの代表的な判例を紹介します:

 

1. 日本高圧瓦斯工業事件(大阪高裁昭和59年11月29日判決)

  • 結論:退職金の全額不支給は無効
  • 理由:永年の勤続の功労を抹消させてしまうほどの背信行為がない限り、退職金の不支給は許されない

 

2. 日本コンベンションサービス事件(大阪高裁平成10年5月29日判決)

  • 結論:退職金の全額不支給は無効
  • 理由:懲戒解雇事由に該当する行為があっても、直ちに退職金請求権を失うわけではない

 

3. 東京地裁平成21年9月3日判決

  • 結論:退職金の全額不支給を認容
  • 理由:従業員の横領行為や隠ぺい工作が、勤続の功労を抹消するほど著しく信義に反する背信的行為と認定

 

これらの判例から、退職金の全額不支給が認められるのは非常に限定的なケースであることがわかります。多くの場合、懲戒処分を受けても一定程度の退職金は支給されるべきとの判断がなされています。

 

懲戒処分による退職金減額の具体例

退職金の全額不支給ではなく、減額が認められた判例もあります。具体的な減額の程度は、非違行為の内容や従業員の勤続年数、これまでの勤務態度などを総合的に考慮して決定されます。

 

以下に、退職金減額が認められた具体例を紹介します:

 

1. 反抗的な態度、誹謗中傷を理由とする減額(東京地裁平成27年7月17日判決)

  • 退職金の3分の2を減額して支給することを適法と判断

 

2. 労災事故の隠ぺいによる諭旨退職処分を理由とする減額(東京地裁平成25年9月27日判決)

  • 退職金の2割を減額して支給することを適法と判断

 

3. 飲酒運転による物損事故を理由とする減額(最高裁令和5年6月27日判決)

  • 公立学校教師の事例で、退職手当の全額不支給処分を支持

 

これらの事例から、非違行為の程度に応じて退職金の減額幅が決定されることがわかります。特に、飲酒運転のような社会的影響の大きい行為については、厳しい判断がなされる傾向にあります。

 

懲戒処分と退職金に関する最新の動向

近年、懲戒処分と退職金に関する考え方にも変化が見られます。特に注目すべき点は以下の通りです:

 

1. 社会的影響の重視
飲酒運転や重大なコンプライアンス違反など、社会的影響の大きい非違行為については、より厳しい判断がなされる傾向にあります。

 

2. 退職金の性質の再考
従来の「賃金の後払い」「功労報償」「生活保障」という退職金の性質に加え、「企業の社会的責任」という観点から退職金の支給を判断する考え方も出てきています。

 

3. 公務員と民間企業の差異
公務員の場合、民間企業よりも厳格な基準で退職金の減額や不支給が判断される傾向にあります。しかし、民間企業でも公務員の基準を参考にする動きが見られます。

 

4. グローバル化の影響
海外進出する企業が増える中、国際的な基準との整合性を考慮した退職金制度の見直しが進んでいます。

 

5. 就業規則の重要性の増大
退職金の減額や不支給に関する紛争を避けるため、より詳細で明確な就業規則の策定が求められています。

 

これらの動向を踏まえ、企業は自社の退職金制度や懲戒処分の基準を見直す必要があるかもしれません。従業員の権利保護と企業のリスク管理のバランスを取ることが、今後ますます重要になってくると考えられます。

 

厚生労働省による「退職金・企業年金に関する実態調査」の結果

 

懲戒処分と退職金に関する従業員の権利保護

懲戒処分を受けた従業員の立場からすると、退職金の減額や不支給は死活問題となりかねません。そのため、従業員の権利を守るための制度や手続きが設けられています。

 

1. 労働組合による交渉
労働組合がある場合、組合を通じて会社と退職金の支給について交渉することができます。

 

2. 労働審判制度の利用
退職金の支払いに関する紛争は、迅速な解決が可能な労働審判制度を利用することができます。

 

3. 訴訟の提起
最終的には、裁判所に訴訟を提起して退職金の支払いを求めることができます。

 

4. 行政機関への相談
労働基準監督署や都道府県労働局の総合労働相談コーナーで、退職金に関する相談を受けることができます。

 

5. 就業規則の閲覧請求
従業員は、いつでも就業規則を閲覧する権利があります。退職金規程の内容を確認することが重要です。

 

従業員は、これらの制度を活用して自身の権利を守ることができます。一方で、会社側も適切な手続きを踏んで懲戒処分を行い、退職金の減額や不支給を決定することが求められます。

 

厚生労働省による「個別労働紛争解決制度」の説明

 

以上、懲戒処分と退職金の関係について詳しく解説しました。退職金は従業員にとって重要な権利であり、会社にとっても大きな負担となる可能性があります。適切な制度設計と運用が、労使双方にとって重要であることがわかります。懲戒処分を行う際は、その影響を慎重に検討し、公平かつ適切な判断を行うことが求められます。また、従業員の側も自身の権利を守るために、就業規則や退職金規程をよく理解し、必要に応じて適切な手段を講じることが大切です。

 

労使関係は常に変化し続けています。今後も社会情勢や法改正に注意を払い、公正で透明性の高い懲戒処分と退職金制度を維持していくことが、企業の健全な発展と従業員の権利保護につながるでしょう。