

歩行速度が遅い患者を「サルコペニアあり」と判断すると、AWGS 2025では診断ミスになります。
AWGS(Asian Working Group for Sarcopenia)は2025年11月4日、老年学の世界的トップジャーナル『Nature Aging』に新しいサルコペニア診断基準を公開しました。 前回の改訂(AWGS 2019)から6年ぶりの大規模改訂で、アジア各国の複数コホートを統合解析した膨大なエビデンスを基盤としています。 jacs-org(https://jacs-org.jp/awgs2025update/)
この改訂の背景には、「移動するための運動器官」という従来の枠組みから、「筋肉の健康(Muscle Health)」という広い概念への視点転換があります。 単に転倒・骨折リスクを管理するだけでなく、筋肉と脳・骨・脂肪・免疫の相互連関まで含めた「筋肉の健康増進」を目指す方向性へと舵を切ったのです。 geriatrics(https://geriatrics.jp/news/%E6%96%B0%E3%81%9F%E3%81%AA%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%82%A2%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%9F%BA%E6%BA%96%EF%BC%88awgs2025%EF%BC%89/)
今後のサルコペニア診断には、AWGS 2019ではなくAWGS 2025を使用するよう、日本サルコペニア・フレイル学会も明示しています。 つまり現行の診断プロセスを見直す必要があります。 healthy-life21(https://healthy-life21.com/2025/11/14/20251114/)
AWGS 2025で最も注目すべき変更は、身体機能が診断基準から除外されたことです。 これは現場に大きく影響します。 jasf(https://www.jasf.jp/pdf/revision_20251111.pdf)
AWGS 2019では、「低筋肉量」+「低筋力 または 低身体機能(歩行速度低下・SPPBスコア低下)」でサルコペニアと診断されていました。 しかしAWGS 2025では、診断は「低筋肉量」+「低筋力」の2項目のみで判定します。 pt-ot-st(https://www.pt-ot-st.net/index.php/topics/detail/1801)
身体機能(歩行速度・SPPB)はどうなったのでしょうか?
診断から除外されたのであって、評価しなくてよいわけではありません。 身体機能はサルコペニアの「アウトカム指標」として位置づけられ、介入効果の評価や経過観察で引き続き重要な役割を担います。 また、従来あった「重度サルコペニア」という概念も今回の改訂で削除されました。 8th-shogun(https://8th-shogun.com/therapist_cutoff-value-sarcopenia-eva/)
| 診断要素 | AWGS 2019 | AWGS 2025 |
|---|---|---|
| 低筋肉量 | ✅ 必須 | ✅ 必須 |
| 低筋力(握力) | ✅ いずれか1つ | ✅ 必須 |
| 低身体機能(歩行速度・SPPB) | ✅ いずれか1つ | ❌ 診断から除外(アウトカム指標へ) |
| 重度サルコペニア | ✅ あり | ❌ 概念削除 |
つまり診断の構造がシンプルになりました。 現場での評価フローを改めて整理しておくことが必要です。 jacs-org(https://jacs-org.jp/awgs2025update/)
新基準を使いこなすには、カットオフ値を正確に把握することが不可欠です。 数値を一覧で確認しましょう。 8th-shogun(https://8th-shogun.com/therapist_cutoff-value-sarcopenia-eva/)
【握力(筋力)のカットオフ値】
- 男性:28kg未満
- 女性:18kg未満
(AWGS 2019からの変更なし)
【DXAによるASMI(身長補正)カットオフ値】 jacs-org(https://jacs-org.jp/awgs2025update/)
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|------|------|------|
| 65歳以上 | 7.0 kg/m² 未満 | 5.4 kg/m² 未満 |
| 50〜64歳 | 7.2 kg/m² 未満 | 5.5 kg/m² 未満 |
【BIAによるBMI補正カットオフ値(ASM/BMI)】 jacs-org(https://jacs-org.jp/awgs2025update/)
| 年齢 | 男性 | 女性 |
|------|------|------|
| 65歳以上 | 0.83 未満 | 0.57 未満 |
| 50〜64歳 | 0.90 未満 | 0.63 未満 |
BMI補正値が新設された理由が重要です。 日本人ではBMIが24以上の場合、身長の2乗補正では低骨格筋量と判定されないケースが多く、サルコペニア肥満の健康リスクが過小評価されていました。 BMI補正を加えることで、体格が大きくても筋肉量が相対的に少ない「サルコペニア肥満」を見逃さずに拾い上げられるようになります。 inbody.co(https://www.inbody.co.jp/topic-awgs2025/)
これは使えそうですね。特に生活習慣病外来や肥満外来で高齢者を診る医師・看護師にとって、BMI補正値の存在を知っているかどうかで、評価精度が大きく変わってきます。
スクリーニングから確定診断までの流れを把握しておくことが重要です。 AWGS 2025でも、診断アルゴリズムはAWGS 2019と同様に「2つのセッティング」に分かれています。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2026/3583_07)
① 地域・プライマリケア設定
- SARC-F(またはSARC-CalF)でスクリーニング
- 陽性→握力測定→低筋力なら「サルコペニアの可能性あり」
- 確定には筋肉量測定(DXAまたはBIA)へ
② 病院・専門施設設定
- 筋力(握力)+筋肉量(ASMI)を直接測定
- 両方がカットオフ以下で「サルコペニア確定」
AWGS 2025の大きな特徴は、対象年齢が50歳以上に拡大されたことです。 これにより、従来は「65歳未満だから対象外」とされてきた50〜64歳の患者にも、正式な診断基準に基づくスクリーニングが適用できます。早期発見の機会が広がるということですね。 geriatrics(https://geriatrics.jp/news/%E6%96%B0%E3%81%9F%E3%81%AA%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%82%A2%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%9F%BA%E6%BA%96%EF%BC%88awgs2025%EF%BC%89/)
50〜64歳のカットオフ値は65歳以上よりもわずかに高めに設定されています。 同じ基準を当てはめて見逃すことのないよう、年齢層に応じた数値を使い分けることが求められます。 inbody.co(https://www.inbody.co.jp/topic-awgs2025/)
診断基準が変わっても、介入の柱は「運動と栄養」です。 ここが基本です。 geriatrics(https://geriatrics.jp/news/%E6%96%B0%E3%81%9F%E3%81%AA%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%82%A2%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%9F%BA%E6%BA%96%EF%BC%88awgs2025%EF%BC%89/)
AWGS 2025では、レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)に有酸素運動を組み合わせる複合的な運動が、筋量・筋力・身体機能の改善に最も効果的であると改めて推奨されています。 週2〜3回のレジスタンス運動を継続することで、50〜64歳の中年期から筋肉量の低下を抑制できます。 geriatrics(https://geriatrics.jp/news/%E6%96%B0%E3%81%9F%E3%81%AA%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%82%A2%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%9F%BA%E6%BA%96%EF%BC%88awgs2025%EF%BC%89/)
栄養面では、十分なたんぱく質摂取が引き続き推奨されています。 また、HMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸)・オメガ3脂肪酸・ビタミンDについては一定の効果が示唆されているものの、「慎重に見守る段階」とされており、結論は出ていません。 chardermedical(https://www.chardermedical.com/ja/news/Blog/AWGS-2025-Consensus-Update-Simplifying-Muscle-Assessment-for-Sarcopenia-Diagnosis.htm)
薬物療法については、選択的アンドロゲン受容体モジュレーター(SARM)やミオスタチン中和抗体など興味深い候補があるものの、現時点で臨床実装できる段階のものはまだないとされています。 薬には期限があります。 geriatrics(https://geriatrics.jp/news/%E6%96%B0%E3%81%9F%E3%81%AA%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%82%A2%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%9F%BA%E6%BA%96%EF%BC%88awgs2025%EF%BC%89/)
今回の改訂で注目すべき新要素がデジタル技術の応用です。 エクサゲーム(運動と組み合わせたゲーム)やデジタルダンスによる介入が、握力や歩行速度を改善する可能性が示されており、特に資源が限られた地域でのスクリーニング・モニタリングへの活用が期待されています。 デジタルを活用した継続支援の可能性は広がっています。 geriatrics(https://geriatrics.jp/news/%E6%96%B0%E3%81%9F%E3%81%AA%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%82%A2%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%9F%BA%E6%BA%96%EF%BC%88awgs2025%EF%BC%89/)
実際の介入では、「場面・リスクの特定→目標設定→方法選択」の順で計画を立てることが現場での実践精度を高めます。たとえば「50〜64歳の患者でBMI 25以上・握力低下あり」という場面であれば、BMI補正カットオフ値で筋肉量を確認した上でレジスタンス運動の処方と栄養指導を同時に行う、という流れが推奨されます。
AWGS 2025で強調されたもう一つの核心が、Muscle Health(筋肉の健康)という新しい枠組みです。 これは単に「サルコペニアを診断して治療する」という発想を超えています。 note(https://note.com/yukgo/n/nc15b9ebc938f)
従来の枠組みでは、サルコペニアは「筋量・筋力・身体機能の低下した状態」というマイナスの評価軸で捉えられていました。 しかし新しい枠組みでは、筋肉と脳・骨・脂肪組織・免疫系との相互連関(クロストーク)を重視し、筋肉の健康をポジティブに促進する方向性へシフトしています。 note(https://note.com/yukgo/n/nc15b9ebc938f)
WHO(世界保健機関)の高齢者のための統合ケア(ICOPE)との連携も明記されており、地域包括ケアの文脈でサルコペニア予防を実装することが求められています。 ICOPEを活用することで、より積極的なMuscle Health増進に向けた介入が可能になります。 geriatrics(https://geriatrics.jp/news/%E6%96%B0%E3%81%9F%E3%81%AA%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%82%A2%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%9F%BA%E6%BA%96%EF%BC%88awgs2025%EF%BC%89/)
医療従事者が現場で意識すべきは、50歳という年齢が新たなスクリーニング開始の目安となった点です。 中年期の患者に対して「まだ若いから」と見送ってきた評価を、今後は積極的に実施する姿勢が求められます。早め早めが原則です。 healthy-life21(https://healthy-life21.com/2025/11/14/20251114/)
AWGS 2025の最新論文および日本語訳は以下で確認できます。
日本サルコペニア・フレイル学会によるAWGS 2025改訂のお知らせ(PDF)。診断基準の変更点・カットオフ値一覧を公式に確認できます。
日本サルコペニア・フレイル学会 AWGS 2025改訂案内(PDF)
アジアサルコペニアワーキンググループ日本事務局による公式解説。診断アルゴリズムとカットオフ値を図とともに確認できます。
JACS(アジアサルコペニアワーキンググループ日本事務局)AWGS2025解説ページ
PT・OT・ST向けの3つの変更点まとめ。リハビリ専門職が現場で使いやすい形で整理されています。
PT-OT-ST.NET:AWGS 2025 3つの変更点解説