

「安静にすれば痛みは減る」は、実は危険な思い込みです。安静時痛を放置した結果、壊疽・切断にまで至るケースが報告されています。
安静時痛とは、身体を動かしていない状態、つまり安静・臥床・座位などの状況においても持続的に感じられる疼痛のことです。運動時痛と根本的に異なるのは、「負荷がゼロでも痛みが生じる」という点であり、これは組織に対して何らかの持続的な侵害刺激が加わっていることを意味します。
臨床現場において安静時痛は「赤信号」として扱うべき症状です。特に整形外科・リハビリテーション領域では、変形性関節症や腰痛症など運動時痛を主訴とする患者を多く診ますが、同じ患者に安静時痛が出現した場合、病態が進行・変容している可能性があります。
重要なのは、安静時痛の有無が疾患の重篤度を反映する指標になるという点です。たとえば末梢動脈疾患(PAD)では、間欠性跛行から安静時痛への移行が「FontainedⅢ度」に相当し、切断リスクが急激に高まる転換点とされています。見逃せない段階です。
また、がん性疼痛においても安静時痛は進行度の重要なサインです。夜間に増悪する骨転移痛や、体位に無関係な内臓痛は、安静時痛として患者が訴えることが多く、がんの発見・再発評価において見逃すと診断が数ヶ月単位で遅延するリスクがあります。
つまり安静時痛は「症状の訴え」ではなく「緊急性のサイン」です。
安静時痛の原因を整理するうえで最も有用なフレームワークは、痛みの機序による分類です。大きく「侵害受容性疼痛」「神経障害性疼痛」「虚血性疼痛」の3つに分けて考えると、鑑別の見通しが立てやすくなります。
侵害受容性疼痛は、組織損傷や炎症によって侵害受容器が直接刺激される機序です。関節リウマチ・化膿性関節炎・骨髄炎・痛風発作などが代表例で、炎症性サイトカインが持続放出されている間は安静にしていても疼痛が続きます。炎症が原因です。
痛風発作では、血清尿酸値が急激に変動したタイミングで関節内に尿酸塩結晶が析出し、マクロファージが活性化されることで激烈な安静時痛が生じます。発作時の安静時痛NRS(数値評価スケール)は8〜10に達することも珍しくありません。
神経障害性疼痛は、神経そのものへの損傷・圧迫・変性によって生じます。糖尿病性末梢神経障害・帯状疱疹後神経痛・椎間板ヘルニアによる神経根障害・脊柱管狭窄症などが該当します。特徴はしびれ・灼熱感・電撃痛を伴う点で、夜間に増悪するケースが多いです。
神経障害性疼痛の安静時痛は、体位変換でほとんど改善しないことが鑑別の手がかりになります。一方、椎間板ヘルニアによる神経根障害では、特定の体位(たとえばSLRテスト陽性肢位)で増悪し、膝抱え屈曲位で軽減するなど、体位依存性が部分的に残ることがあります。
虚血性疼痛は、血流不足による組織低酸素・代謝産物蓄積が原因です。末梢動脈疾患(PAD)・閉塞性動脈硬化症(ASO)・急性動脈閉塞などが主な疾患です。虚血性の安静時痛は下肢遠位部(足先・足底)に多く、夜間臥床時に増悪し、足を下垂させると軽減するという特徴的なパターンを示します。これが診断の鍵です。
安静時痛の鑑別診断には系統的なアプローチが不可欠です。以下に主要な鑑別疾患を部位・機序別に整理します。
| 分類 | 主な疾患 | 安静時痛の特徴 |
|---|---|---|
| 炎症性 | 関節リウマチ・痛風・化膿性関節炎 | 朝のこわばりを伴う、熱感・腫脹あり |
| 虚血性 | PAD・ASO・急性動脈閉塞 | 足先の疼痛、下垂で軽減、夜間増悪 |
| 神経障害性 | 糖尿病性神経障害・帯状疱疹後神経痛 | 灼熱感・しびれ・電撃痛を伴う |
| 腫瘍性 | 骨腫瘍・骨転移・多発性骨髄腫 | 夜間増悪、鎮痛剤抵抗性 |
| 感染性 | 骨髄炎・化膿性脊椎炎 | 発熱を伴う、局所圧痛が強い |
| その他 | 複合性局所疼痛症候群(CRPS) | 痛覚過敏・アロディニアを伴う |
特に見逃しやすいのが化膿性脊椎炎です。高齢者・糖尿病患者・免疫抑制状態の患者では、発熱が軽微であっても安静時の腰背部痛が主訴となることがあり、単純な腰痛として見過ごされるケースがあります。
CRP・白血球・血沈などの炎症マーカーをルーチンで確認することが、見逃しを防ぐ基本的な手順です。MRI(特にSTIR像)は化膿性脊椎炎の早期診断に非常に有用で、X線では異常を認めない段階でも感染巣を描出できます。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)は診断が遅れやすい疾患の一つです。外傷後に不釣り合いな疼痛が持続し、安静時痛・アロディニア・皮膚の変色・発汗異常を伴う場合は積極的にCRPSを疑う必要があります。Budapest診断基準に照らし合わせることが診断の近道です。
安静時痛の原因を絞り込むうえで、問診の質が診断精度を大きく左右します。単に「どこが痛いですか」ではなく、以下の要素を体系的に聴取することが重要です。
- 🕐 発症時刻:深夜〜早朝に増悪するなら炎症性または腫瘍性を疑う
- 🛏️ 体位との関係:臥床で増悪・下垂で軽減なら虚血性が有力
- 🌡️ 発熱・全身症状の有無:感染性・腫瘍性を示唆する
- 💊 NSAIDs・オピオイドへの反応性:反応不良は神経障害性・虚血性を示唆
- 📉 体重減少・食欲不振:悪性疾患のレッドフラグ
- 🩸 既往歴:糖尿病・動脈硬化・がん既往は各機序の背景因子
NRS(数値評価スケール)やVAS(視覚的アナログスケール)で痛みの強度を定量化することも重要です。特に夜間安静時痛のNRSが継続して5以上の場合は、原因検索を積極的に行うべきサインです。
問診後の身体診察では、ABIの測定(正常値0.9〜1.3、0.4未満は重症虚血)が虚血性疼痛のスクリーニングに有効です。ABIが参考になります。触診での局所熱感・腫脹・圧痛の確認は、炎症性・感染性疾患の評価に欠かせません。
参考:末梢動脈疾患のABI評価と管理に関するガイドライン(日本循環器学会)
日本循環器学会 末梢動脈疾患診療ガイドライン2022
夜間の安静時痛増悪は、臨床現場で患者から頻繁に訴えられながら、「加齢のせい」「ストレスのせい」として片付けられやすい症状です。しかし夜間増悪には明確な生理的・病態的根拠があります。
夜間は副腎皮質からのコルチゾール分泌が低下します。コルチゾールは生体内の抗炎症ホルモンであり、その分泌が最低となる深夜2〜4時ごろに炎症性疾患の痛みが最大化することが知られています。関節リウマチ患者の約70〜80%が朝のこわばりと夜間〜早朝の安静時痛を報告しているのも、このメカニズムで説明できます。
これは意外ですね。
虚血性疼痛が夜間に増悪するのは別のメカニズムです。臥床により心臓と下肢の高低差がなくなると、重力による静脈還流補助がなくなり、虚血肢への血流がわずかに低下します。患者が「夜だけ足先が痛い」「足を布団から出すと楽になる」と訴える場合、これがサインです。
骨転移痛の夜間増悪も重要な臨床情報です。骨転移は安静時に増悪する特徴があり、活動時よりも就寝後に痛みが強くなる場合、がんの骨転移を念頭に置いた評価が必要です。乳がん・前立腺がん・肺がんは骨転移頻度が高く、それぞれ骨転移率は乳がんで65〜75%、前立腺がんで60〜80%と報告されています。見逃せない数字です。
CRPSに伴う夜間安静時痛は、交感神経活動の変動と密接に関係しています。夜間は交感神経活動が相対的に高まる時間帯もあり、交感神経依存性のCRPS(CRPS-I型など)では夜間に疼痛・アロディニアが増悪するケースがあります。
参考:複合性局所疼痛症候群(CRPS)の診断と治療
日本疼痛学会 疼痛診療ガイドライン
安静時痛を訴える患者に対して、医療従事者として取るべき初期対応のステップを整理します。
ステップ1:レッドフラグの確認
以下の項目が1つでも該当する場合は、緊急性の高い疾患を最優先で除外します。
- 発熱38℃以上の持続
- 体重減少(半年で5%以上の不明の減少)
- 夜間安静時痛のNRS 7以上で継続
- 神経症状(麻痺・膀胱直腸障害)の合併
- 免疫抑制状態・ステロイド長期使用歴
- がん既往
ステップ2:基本検査の実施
血液検査(CRP・白血球・血沈・LDH・ALP・PSA など)、ABI測定、X線撮影を初期評価として実施します。CRPが5mg/dL以上の安静時痛では感染性・炎症性疾患の可能性が高く、速やかにMRIや骨シンチグラフィを検討する段階です。
ステップ3:機序に基づいた鎮痛介入
侵害受容性疼痛にはNSAIDs・アセトアミノフェン、神経障害性疼痛にはプレガバリン・ガバペンチン・SNRIなどの使用が標準的です。虚血性疼痛への鎮痛薬単独対応は「根本治療の代わりにならない」という点を意識することが重要です。虚血への対処が先決です。
がん性疼痛に対しては、WHO3段階除痛ラダーに準じた対応が基本ですが、骨転移痛にはビスホスホネート製剤(ゾレドロン酸など)や放射線療法の併用が有効なケースが多く、緩和ケアチームとの連携が早期介入につながります。
参考:がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(日本緩和医療学会)
日本緩和医療学会 がん疼痛薬物療法ガイドライン2020年版