ROM訓練のやり方と関節可動域を広げる実践手順

ROM訓練のやり方と関節可動域を広げる実践手順

ROM訓練のやり方と関節可動域訓練の基本と実践

毎日ストレッチを続けても、やり方を誤ると可動域がむしろ3〜5度縮小するケースが報告されています。


この記事の3ポイント
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ROM訓練の基本原則

他動・自動・自動介助の3種類を正しく使い分けることが、安全で効果的なROM訓練の前提となります。

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部位別の実施手順

肩・肘・股関節・膝・足関節など部位ごとに適切なポジショニングと可動域の目標角度が異なります。

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よくある失敗と注意点

過剰な伸張や誤った固定方法は拘縮悪化・骨折リスクを招くため、正確な技術習得が不可欠です。


ROM訓練とは何か:関節可動域訓練の目的と種類

ROM訓練(Range of Motion訓練)とは、関節可動域(ROM)を維持・拡大するためのリハビリテーション技術です。長期臥床や麻痺、廃用症候群によって関節が硬くなる「拘縮」を予防・改善することが主な目的です。


訓練の種類は大きく3つに分かれます。


  • 💪 他動運動(Passive ROM):療法士やスタッフが外力を加えて関節を動かす方法。患者自身の筋力を使わないため、意識障害や完全麻痺の症例に適用されます。
  • 🤝 自動介助運動(Active-Assisted ROM):患者が自ら筋力を発揮しながら、不足する動きをスタッフが補助する方法。部分的な筋力がある症例に有効です。
  • 🏃 自動運動(Active ROM):患者が自力で関節を動かす方法。筋力が十分にある場合に適用します。


つまり、患者の状態に合わせて種類を選ぶのが基本です。


ROM訓練の対象となる主な疾患・状態は、脳卒中後の片麻痺、骨折後の固定期間、長期臥床による廃用症候群、関節炎による疼痛制限などです。日本のリハビリ現場では、発症後48時間以内に他動ROM訓練を開始することで、拘縮発生率を約40%低減できるとする報告もあります。


早期介入が重要です。


なお、ROM訓練は単独で実施するだけでなく、筋力増強訓練や歩行訓練と組み合わせることで、ADL改善効果がより高まります。現場での目標設定には、日本リハビリテーション医学会の「関節可動域表示ならびに測定法」(2022年改訂版)を参照すると、各関節の基準値と測定手順が確認できます。


日本リハビリテーション医学会:関節可動域表示ならびに測定法(改訂)


ROM訓練のやり方の前に確認すべき:関節可動域の測定手順

訓練を始める前に、まず現在のROMを正確に測定することが不可欠です。測定なしで訓練を続けると、改善しているのか悪化しているのかを客観的に判断できません。


関節可動域の測定には、ゴニオメーター(角度計)を使います。


  • 📏 基本軸の設定:身体の基準線(体幹・近位骨など)にゴニオメーターの固定アームを合わせます。
  • 📏 移動軸の設定:動かす骨(遠位骨)に沿って移動アームを当てます。
  • 📏 軸心の合わせ方:関節の運動軸(回転中心)にゴニオメーターの支点を置きます。


測定時は必ず代償運動(体幹の傾きや骨盤の回旋など)を抑制した状態で計測します。代償運動を見逃すと、実際より10〜20度広く測定されてしまうことがあります。これは痛いですね。


測定値の記録では、左右差と前回値との比較が重要です。特に脳卒中片麻痺患者では、健側と患側を必ず比較記録します。


また、疼痛がある場合は「疼痛のない可動域(Pain-Free ROM)」と「最大可動域」を区別して記録する方が、訓練計画を立てやすくなります。これは使えそうです。


ROM訓練のやり方:部位別の実施手順(肩・肘・手関節)

上肢のROM訓練は、特に脳卒中後の患者で拘縮リスクが高い部位です。正しい手順と把持方法を守ることが、安全な訓練の条件です。


🦾 肩関節のROM訓練


肩関節は多軸関節であり、屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋の6方向に動きます。正常値は屈曲180°、外転180°、外旋60°、内旋80°が目安です(日本リハビリテーション医学会基準)。


  • 患者を背臥位にし、肩甲骨が動かないよう対側の手で軽く固定します。
  • 施術者は患者の前腕を把持し、肩をゆっくり屈曲方向へ誘導します。
  • 終末域で2〜3秒保持し、ゆっくり戻します。
  • 10回1セットを目安に実施します。


注意点として、肩峰下インピンジメントを避けるために、外転時は必ず外旋を加えながら動かすことが原則です。内旋位のまま外転を強制すると、肩峰と腱板の衝突が生じてかえって疼痛や損傷を招きます。


💪 肘関節・手関節のROM訓練


肘関節の正常可動域は屈曲145°・伸展0°(過伸展は除く)、前腕回内外は各90°です。


  • 前腕を中間位(親指が上向き)で把持し、屈伸方向へ誘導します。
  • 回内・回外は上腕を体幹に密着させた状態で行い、肩の代償を防ぎます。


手関節・指については、屈筋腱の短縮が問題になりやすいです。特に長期臥床後は、指の屈曲拘縮が生じやすいため、毎日の他動伸展訓練が有効です。


つまり、上肢は近位から遠位の順で訓練するのが効率的です。


ROM訓練のやり方:部位別の実施手順(股関節・膝・足関節)

下肢のROM訓練は、歩行能力の回復に直結するため、優先度が高い部位です。


🦵 股関節のROM訓練


股関節の正常可動域は屈曲125°・伸展15°・外転45°・内転20°・外旋45°・内旋45°です。


  • 背臥位で膝を屈曲させたまま股関節を屈曲させる(膝屈曲位股関節屈曲)と、ハムストリングスの張力の影響を受けずに股関節屈曲角度を評価できます。
  • 股関節伸展の訓練は腹臥位か側臥位で行い、骨盤前傾の代償に注意します。
  • 外転訓練では、対側の骨盤が持ち上がらないよう、施術者が骨盤を固定します。


変形性股関節症や人工関節置換術後の患者では、禁忌肢位(脱臼肢位)が定められています。術式によって異なりますが、一般的に「屈曲90°以上+内転+内旋の組み合わせ」は禁忌です。必ず手術記録と術式を確認してから訓練を開始することが不可欠です。


🦿 膝関節・足関節のROM訓練


膝関節の正常可動域は屈曲130°・伸展0°です。膝関節は蝶番関節に近い構造ですが、屈曲終末域では脛骨の外旋(スクリューホームメカニズム)が生じるため、単純な屈伸だけでなく軽度の回旋を意識した誘導が有効です。


足関節は背屈20°・底屈45°が目安です。背屈制限が進むと、歩行時の踵接地が困難になり、転倒リスクが増加します。


  • 足関節背屈訓練は膝を軽度屈曲させた状態と完全伸展した状態の両方で行い、腓腹筋とヒラメ筋の両方にアプローチします。
  • 踵骨を把持し、距腿関節の軸に合わせて誘導することが正確な訓練の条件です。


足関節背屈が10°未満になると、歩行中の中足部へのストレスが著しく増加するとされています。早期から維持することが重要です。


理学療法学会誌(J-STAGE):下肢ROM訓練の臨床研究を確認できます


ROM訓練の頻度・時間・強度:現場で使える実施基準

「毎日やればやるほどいい」という考えは、実は正しくありません。過剰な伸張刺激は炎症反応を引き起こし、異所性骨化(関節周囲への骨形成)を誘発するリスクがあります。


結論は、適切な強度と頻度の管理が重要です。


📋 実施頻度の目安


  • 拘縮予防目的:1日1〜2回、各関節10〜15回の他動運動
  • 拘縮改善目的:1日2〜3回、終末域での保持(20〜30秒)を組み合わせた訓練
  • 急性期:疼痛と炎症の状態を確認しながら、低強度・短時間から開始


📋 伸張強度の判断基準


伸張の強さは「患者が伸び感を感じる程度(VAS 3〜4/10)」を目安にします。疼痛が強い場合(VAS 6以上)は訓練強度を下げるか、中止の判断が必要です。


なお、脊髄損傷や関節炎の症例では、疼痛の訴えがない場合でも組織の損傷が進行していることがあります。関節周囲の腫脹・熱感・発赤の有無を毎回確認することが原則です。


📋 ポジショニングとの組み合わせ


訓練と訓練の間のポジショニングも、ROM維持に大きく貢献します。例えば、足関節拘縮予防のための「足関節背屈装具(アキレス腱ストレッチングスプリント)」の使用は、訓練効果を補完し、スタッフの訓練負荷も軽減できます。


装具の選択に際しては、理学療法士・作業療法士と連携し、患者個別の状態に合わせたものを選定することが求められます。


医療従事者が見落としがちなROM訓練の禁忌と注意事項

ROM訓練は安全な訓練と思われがちですが、禁忌や注意事項を無視すると患者に深刻な損害を与えることがあります。この知識は必須です。


🚫 絶対的禁忌(訓練を実施してはいけないケース)


  • 骨折の急性期で整復・固定が完了していない場合
  • 関節の亜脱臼・脱臼が確認されている場合
  • 深部静脈血栓症(DVT)が疑われる場合(患部の他動運動は血栓塞栓のリスクあり)
  • 骨腫瘍・骨転移がある場合(病的骨折のリスク)


⚠️ 相対的禁忌(慎重に判断が必要なケース)


  • 炎症急性期(関節リウマチの急性増悪など)
  • 骨粗鬆症が高度な患者(軽微な外力でも骨折のリスク)
  • 人工関節置換術後の禁忌肢位
  • 異所性骨化が確認・疑われる症例


DVTについては、特に術後の長期臥床患者で注意が必要です。下肢の腫脹・熱感・ホーマンズ徴候(足関節背屈時の腓腹部痛)が見られた場合は、直ちに訓練を中止し、医師へ報告することが原則です。


骨粗鬆症が高度な場合、過度な他動運動によって肋骨・脊椎の骨折が生じた事例が医療事故報告に複数挙がっています。高齢者への訓練では「強く押さない・急に動かさない」という基本を徹底してください。


厚生労働省:医療事故情報収集等事業(リハビリ中の有害事象事例を確認できます)


なお、医療安全の観点から、訓練実施前に毎回「患者の状態確認→禁忌確認→同意確認」の3ステップを習慣化することを強くおすすめします。チェックリストをベッドサイドに掲示するだけで、確認漏れを大幅に防ぐことができます。