

毎日ストレッチを続けても、やり方を誤ると可動域がむしろ3〜5度縮小するケースが報告されています。
ROM訓練(Range of Motion訓練)とは、関節可動域(ROM)を維持・拡大するためのリハビリテーション技術です。長期臥床や麻痺、廃用症候群によって関節が硬くなる「拘縮」を予防・改善することが主な目的です。
訓練の種類は大きく3つに分かれます。
つまり、患者の状態に合わせて種類を選ぶのが基本です。
ROM訓練の対象となる主な疾患・状態は、脳卒中後の片麻痺、骨折後の固定期間、長期臥床による廃用症候群、関節炎による疼痛制限などです。日本のリハビリ現場では、発症後48時間以内に他動ROM訓練を開始することで、拘縮発生率を約40%低減できるとする報告もあります。
早期介入が重要です。
なお、ROM訓練は単独で実施するだけでなく、筋力増強訓練や歩行訓練と組み合わせることで、ADL改善効果がより高まります。現場での目標設定には、日本リハビリテーション医学会の「関節可動域表示ならびに測定法」(2022年改訂版)を参照すると、各関節の基準値と測定手順が確認できます。
日本リハビリテーション医学会:関節可動域表示ならびに測定法(改訂)
訓練を始める前に、まず現在のROMを正確に測定することが不可欠です。測定なしで訓練を続けると、改善しているのか悪化しているのかを客観的に判断できません。
関節可動域の測定には、ゴニオメーター(角度計)を使います。
測定時は必ず代償運動(体幹の傾きや骨盤の回旋など)を抑制した状態で計測します。代償運動を見逃すと、実際より10〜20度広く測定されてしまうことがあります。これは痛いですね。
測定値の記録では、左右差と前回値との比較が重要です。特に脳卒中片麻痺患者では、健側と患側を必ず比較記録します。
また、疼痛がある場合は「疼痛のない可動域(Pain-Free ROM)」と「最大可動域」を区別して記録する方が、訓練計画を立てやすくなります。これは使えそうです。
上肢のROM訓練は、特に脳卒中後の患者で拘縮リスクが高い部位です。正しい手順と把持方法を守ることが、安全な訓練の条件です。
🦾 肩関節のROM訓練
肩関節は多軸関節であり、屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋の6方向に動きます。正常値は屈曲180°、外転180°、外旋60°、内旋80°が目安です(日本リハビリテーション医学会基準)。
注意点として、肩峰下インピンジメントを避けるために、外転時は必ず外旋を加えながら動かすことが原則です。内旋位のまま外転を強制すると、肩峰と腱板の衝突が生じてかえって疼痛や損傷を招きます。
💪 肘関節・手関節のROM訓練
肘関節の正常可動域は屈曲145°・伸展0°(過伸展は除く)、前腕回内外は各90°です。
手関節・指については、屈筋腱の短縮が問題になりやすいです。特に長期臥床後は、指の屈曲拘縮が生じやすいため、毎日の他動伸展訓練が有効です。
つまり、上肢は近位から遠位の順で訓練するのが効率的です。
下肢のROM訓練は、歩行能力の回復に直結するため、優先度が高い部位です。
🦵 股関節のROM訓練
股関節の正常可動域は屈曲125°・伸展15°・外転45°・内転20°・外旋45°・内旋45°です。
変形性股関節症や人工関節置換術後の患者では、禁忌肢位(脱臼肢位)が定められています。術式によって異なりますが、一般的に「屈曲90°以上+内転+内旋の組み合わせ」は禁忌です。必ず手術記録と術式を確認してから訓練を開始することが不可欠です。
🦿 膝関節・足関節のROM訓練
膝関節の正常可動域は屈曲130°・伸展0°です。膝関節は蝶番関節に近い構造ですが、屈曲終末域では脛骨の外旋(スクリューホームメカニズム)が生じるため、単純な屈伸だけでなく軽度の回旋を意識した誘導が有効です。
足関節は背屈20°・底屈45°が目安です。背屈制限が進むと、歩行時の踵接地が困難になり、転倒リスクが増加します。
足関節背屈が10°未満になると、歩行中の中足部へのストレスが著しく増加するとされています。早期から維持することが重要です。
理学療法学会誌(J-STAGE):下肢ROM訓練の臨床研究を確認できます
「毎日やればやるほどいい」という考えは、実は正しくありません。過剰な伸張刺激は炎症反応を引き起こし、異所性骨化(関節周囲への骨形成)を誘発するリスクがあります。
結論は、適切な強度と頻度の管理が重要です。
📋 実施頻度の目安
📋 伸張強度の判断基準
伸張の強さは「患者が伸び感を感じる程度(VAS 3〜4/10)」を目安にします。疼痛が強い場合(VAS 6以上)は訓練強度を下げるか、中止の判断が必要です。
なお、脊髄損傷や関節炎の症例では、疼痛の訴えがない場合でも組織の損傷が進行していることがあります。関節周囲の腫脹・熱感・発赤の有無を毎回確認することが原則です。
📋 ポジショニングとの組み合わせ
訓練と訓練の間のポジショニングも、ROM維持に大きく貢献します。例えば、足関節拘縮予防のための「足関節背屈装具(アキレス腱ストレッチングスプリント)」の使用は、訓練効果を補完し、スタッフの訓練負荷も軽減できます。
装具の選択に際しては、理学療法士・作業療法士と連携し、患者個別の状態に合わせたものを選定することが求められます。
ROM訓練は安全な訓練と思われがちですが、禁忌や注意事項を無視すると患者に深刻な損害を与えることがあります。この知識は必須です。
🚫 絶対的禁忌(訓練を実施してはいけないケース)
⚠️ 相対的禁忌(慎重に判断が必要なケース)
DVTについては、特に術後の長期臥床患者で注意が必要です。下肢の腫脹・熱感・ホーマンズ徴候(足関節背屈時の腓腹部痛)が見られた場合は、直ちに訓練を中止し、医師へ報告することが原則です。
骨粗鬆症が高度な場合、過度な他動運動によって肋骨・脊椎の骨折が生じた事例が医療事故報告に複数挙がっています。高齢者への訓練では「強く押さない・急に動かさない」という基本を徹底してください。
厚生労働省:医療事故情報収集等事業(リハビリ中の有害事象事例を確認できます)
なお、医療安全の観点から、訓練実施前に毎回「患者の状態確認→禁忌確認→同意確認」の3ステップを習慣化することを強くおすすめします。チェックリストをベッドサイドに掲示するだけで、確認漏れを大幅に防ぐことができます。